軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ:【創造】の花嫁

マルコは自分のすべてを報酬に与える代わりに、自分のダンジョンと魔物たちを守ってくれと言ってきた。

それではまるで、今すぐにでもマルコがいなくなるようじゃないか。

「マルコ、ちょっと待ってくれ。それはどういう」

「今回の戦い、ちょっと無理をしすぎてね。君のポーションが届くずっと前に、私の魔物たちは限界が来ていた。戦線を支えるために使っちゃいけない力を使った。【覚醒】だよ」

【覚醒】? あの力をマルコも? いや、驚く必要はない。

俺が目覚めたんだ。マルコが目覚めていないはずがない。

「【覚醒】を使ったからなんだって言うんだ」

「君は、もう【覚醒】したんだね。そのことは見張らせてた部下に聞いてる。あれは考えなしに使ったらだめだよ。少しの間だといいけど、長時間続けたり、あんまり【覚醒】を繰り返すと、存在を消費して寿命が縮む……私みたいにね。もう、私には時間がないんだ。存在が軋み始めた。あと一日は大丈夫なのか、あと一時間しかないのか、もっと少ないのか、それはわからない。言えるのは、【獣】の魔王マルコシアスはもうすぐ終わるってことだけ」

俺は言葉を失った。

もし、そうだとするなら。

俺は間に合わなかったのか?

「プロケル、そんな顔をしないでくれ。君は間に合った。今、この場に君が来てくれたから、私は君に愛しい魔物たちを託すことができる。なにより、君とまた笑顔で会えた。ずっと君と喧嘩したままになったことを後悔してたんだ。だから、すごくうれしい。心置きなく逝けるよ」

ふざけるな。

俺は、マルコとずっと一緒にいたいからここに来た。

そんなふうに一人で満足するな。

こんな結末認めない。

「俺にはマルコを助ける力が、創造主からもらった力がある」

それは【新生】。ストラスとの【戦争】で得た褒美。

相手をメダルに再変換し、再度【合成】することで記憶をもったままより強い存在に生まれ変わらせることができる。

これを使えば、寿命が尽きた相手だって延命させることができる。

「断ったはずだよ。私は正しい魔王でいたい。終わりを受け入れているんだ」

「うそだ! だったらなんで俺に自分のすべてを託そうとしたんだ。心残りなんだろう。残された連中が心配なんだろう。マルコが延命をしないなら、俺はマルコの魔物を引き受けたりしない。なにが報酬は私のすべてだ。マルコがいないじゃないか。そんなのは意味がない」

卑怯だとは思う。

俺は今、マルコの魔物たちを人質に取った。

それでも、俺はマルコに生きてほしい。

「その言い方はずるいな。君はこの説明じゃ納得してくれないみたいだし……最後だから本当のことを話そうか。私はずっとね。終わりたかった。好きな人のところに行きたかったんだ」

「えっ」

間抜けな声を出す。

まったくの想定外の答え。

「私には初恋の 魔王(ひと) がいたんだ。片思いだったけどね。君に【獣】以外で最初にあげたメダルは【炎】。その持ち主の【炎】の魔王アモン。アモンが死ぬときに立ち会ったんだ。思い出した。私はそのとき泣いたんだ。今の君みたいに」

言われて初めて、ほほに涙が伝っていることに気付いた。

【創造】の魔王プロケルとして生まれて初めての涙。

「そのとき、私はあとを追って死のうとしたんだ。でもね、その人に約束させられた。魔王として最後まで生き抜くって。その約束があったから、私は【獣】の魔王として、今まで全力で生き抜いた。正しい終わりがくるまではがんばるって。やっとその時が来たんだ」

「……マルコはずっと死にたかったのか」

「その言い方はちょっと違うかな。あの人に会いに行きたいだけ。プロケルが立派になって、私はやっと自分の人生に自信がもてた。だから、笑顔で送り出してくれないかな。それが君に望む最後の親孝行」

拒絶の言葉。

心の距離が遠くなる。

俺の胸には悲しみと同じぐらいに大きな感情があった。それは怒りだ。

綺麗な物語。マルコの恋。美しいと思う。尊いと思う。だけど、それでも。

「ふざけるな」

絞り出すように俺はそう言った。

「そんな言葉で納得するようなら、ここまで来ていない。命をかけて旧い魔王に喧嘩なんて売らない。俺はマルコに生きてほしいんだ。そのためにここにいる」

それが本心だ。

ただの子供のわがまま。そうわかっていても言わざるを得ない。

マルコは、寂しそうで嬉しそうな、そんな表情のまま口を開く。

「もう決めたことだよ。でも、君がそこまで想ってくれたのはうれしいかな」

俺はマルコを抱き寄せる。

「マルコ、俺がおまえのダンジョンをでるときに言ったことを覚えているか」

「なんだい急に」

「マルコは言ったんだ。自分を抱いてみないかって。俺に自分を刻みつけておきたいって。……だから、今から抱かせろ」

「えっええええええええ、プロケル、ちょっと言っている意味がわからないよ!?」

間の抜けた声。

マルコは俺の腕の中で戸惑う。

「俺が、昔の男なんて忘れさせてやる。だから、生きてくれ。死んで会いに行きたいなんて絶対思わせない。俺がいるから生きたいって、そう思うようにしてやる。俺のほうがいい男になるから」

めちゃくちゃだ。

何を言っているか自分でもわからない。

それでも、めちゃくちゃでもなんでもいい。ここで引き留めないとマルコがどこかに行ってしまう。それが嫌だ。だからただ強く抱きしめる。

マルコは困ったような顔をして、それから抱きしめ返してくれた。

「はあ、もう。プロケルはわがままだな。まだ、母親離れができてないのかな」

呆れた声、こらえきれない笑い声が漏れる。

「母親離れはできてる。マルコも言ってくれただろ。男になったって。一人の男として好きな女を口説いてるんだ。……マルコ、俺のものになれ。別の男のところになんて行かせない。幸せにする。おまえのために命をかけてやる」

勢い任せのプロポーズ。

駆け引きも何もない。

ただ、気持ちを行動と言葉で伝える。それ以外俺は知らないな。

「ああ、もう。揺らいじゃうじゃないか。こんなおばさんを口説いて楽しい?」

それには言葉では返せない。

口づけで答える。マルコは拒まなかった。

「これが俺の答えだ。マルコ、改めて言う。俺のものになれ。他の男のところになんて行かせない」

マルコが目を見開き、顔が真っ赤に染まる。

顔を離したマルコは苦笑ではない心からの笑みを浮かべる。

「実はね、君のことをずっと初恋のあの人に似ているって思ってた。だから、すごく気になってたんだ」

【炎】の魔王に似ている。【刻】の魔王にも【竜】の魔王にもずっと言われ続けていた。

ただ、言われるたびにもやもやしていた。自分がその人の代用品ではないかと。

だけど、マルコを引き留められるならそれでいいと思う。

「でも、今わかったよ。君はあの人とは全然違う。ずっと強引で、わがままで、いじっぱりで。……でも、魅力的な一人の男だ。だからかな、もう少し隣で見ていたいと思った」

「それって」

「仕方ない。君の提案を受け入れよう。もう少し生きてみるよ。私は生まれ変わろうと思う。ああ、これで浮気者になっちゃうじゃないか。今までずっと一途でいられたのに。君のせいだぞ」

マルコが手を伸ばす。

その手を俺は掴む。

「それは俺を受け入れると思っていいのか」

「うん、君にゆだねるよ。プロケル」

そうして握った手に熱がこもる。

マルコが俺を受け入れてくれた。

だから、始めよう。

「【新生】」

力ある言葉を紡ぐ。マルコの体が光に包まれる。もし、マルコが俺のことを本心で受け入れてなければここで【新生】は失敗する。

【新生】は止まらない。彼女の体が光の粒子に変わり、繋いだ手に集まってくる。

手のひらに残されたのは一枚のメダル。そのメダルは【獣神】。

獣のメダルのさらに上にあるメダル。

手のひらに、手持ちのメダルを置く。それは【王】。

特殊なメダルだ。魔王のメダルではない。それは創造主から褒美として与えられるメダルの一種。

【刻】の魔王はマルコに使えと、気負いもなくとんでもないものを渡してきた。

それが、あの魔王の愛なのだろう。

さらに【創造】のメダルを重ねる。

手には、マルコそのものの【獣神】、【刻】の魔王から託された【王】、俺の【創造】が揃った。握りしめて、次なる言葉を紡ぐ。

「【合成】」

手のひらの熱がさらに高まる。

【創造】が変化する。創造は望んだ属性へと姿を変える。俺が生まれ変わるマルコに望むのは【光】。

彼女には俺の【光】であってほしい。

無数の可能性が現れては消える。

本来なら、流れに身を任すしかない。だが、俺の【創造】は違う。

無数の未来から望む未来をつかみ取る。

いつもなら、ここで未来を選ぶだけ。だけど、俺はその先を目指す。未来を作る。さらなる可能性を、もっと先を目指して。

選択肢が増える。増えすぎて、処理しきれないほどだ。情報に押し流されそうになる。

マルコの声が聞こえた。自然と笑みがこぼれる。自然と一つの可能性に手が吸い寄せられる。一人じゃない。マルコと一緒に手を伸ばす。そんなイメージがうまれる。二人の手で望んだ未来を掴んで笑いあった。

光がさらに激しくなる。

ここまでまぶしい光は初めてだ。

手を広げる。

光が粒子となり、一か所に集まり人の形を作る。光が止んだ。

そこにいたのは……。

褐色の肌。白い狼の耳と尻尾。マルコの特徴をそのままに残した、十代後半の美少女。頭に小さな王冠を乗せて純白のドレスを纏っている。

もともと二十代後半のマルコよりも少しだけ若い。でも紛れもなく彼女は……。

「こうして私は君のものになったわけだ。これからもよろしくプロケル」

マルコそのものだ。

俺は彼女が伸ばした手を無視して、ぎゅっと抱きしめた。

それを見て、俺の魔物とマルコの魔物が歓声をあげる。

そんな魔物たちの祝福の中、キスをした。

歓声は爆発になる。

……少し恥ずかしい。魔物たちの反応が大げさすぎる。

とはいっても、みんながみんな喜んでいるわけじゃないが。

クイナとロロノとフェルの三人は頬を膨らませて拗ねている。アウラは目が笑っていない笑顔。【風】の魔王ストラスから借りているラーゼグリフは困った笑顔を浮かべている。

こっちもあとでフォローしないとな。

とりあえず、俺たちの街に帰ろう。すべてはそれからだ。一度、【竜】と【刻】と【風】も読んで豪勢な食事会を開いてもいいかもしれない。賑やかで色んな意味で楽しい食事会になるだろう。

「アヴァロン」

ほんの少ししか経っていないのに、俺たちの街アヴァロンが懐かしかった。もうあそこは俺の故郷だ。