軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話:大器、晩成する

暗黒竜グラフロスに魔物や武器弾薬を詰めたコンテナを繋げ、俺たちはアヴァロンを出発した。

暗黒竜グラフロスとコンテナを使った電撃戦。

これは、当初より戦略の一つとして考案していたものだ。

ゲームとしての【戦争】なら、ダンジョンの入り口を、創造主が繋ぐため、魔物たちの移動手段を気にせずに済むが、ルール無用の戦いであれば効率的に魔物と武器を運ぶための手段が必要になる。

大量の戦力を運ぶ方法は意外に限られる。

一つ目は、【転移】。

奇襲性と速度は間違いなく最強だ。

だが、問題が二つある。

自分のダンジョン内であれば無制限に転移できるが、ダンジョンの外へ転移する場合は、事前に設置した転移陣の間でしか転移ができない。

加えてBランクの魔物でも、一度に運べるのはせいぜい魔物三体が限界で、使用回数も十回程度とかなり厳しい。

Sランクの魔物であれば、もっと融通は利くかもしれないが、今は用意するための余裕がない。

二つ目は、魔王による【収納】。

十体までの魔物を魔王は異次元に収納して持ち運ぶことができる。

これは、魔王が前線に出ないといけないリスクはあるが、【転移】と組み合わせることで、効率は跳ね上がる。

とはいえ、あくまで【収納】できるのは魔物だけ。ゴーレムなどを【収納】することはできないし武器を運ぶことも不可能だ。

最後は、魔物たちの自力の移動。

これは問題だらけだ。速さにばらつきがあるし、そもそも目立ちすぎる。鈍足な魔物にペースを合わせてはいられない。

陸路を魔物の大進軍などしようものなら人間たちが騒ぎ出し面倒なことになるし余計な戦いが増える。

さまざまな条件を考えると、俺のように空輸するのが一番効率がいいだろう。速さと輸送量、隠密性。そのすべてが優れている。

はるかな上空は人間たちが手を出せない領域だ。

「おとーさん、今回の敵は強いの?」

同じコンテナにいるクイナがキツネ尻尾を揺らしながら問いかけてきた。

俺のコンテナには、天狐のクイナと天狼のフェル、それに【風】の魔王ストラスから借りているラーゼグリフのローゼリッテがいた。

「ああ、強い。今までで一番苦戦するよ」

なにせ、長い年月で鍛えられた魔王たちだ。

まともに正面から戦えば敗北は必至。

積み上げてきたものが違いすぎる。

俺が持っているアドバンテージを活かしてはじめて勝機が見えてくる。

俺のアドバンテージとは、【創造】によって生み出された兵器を、世界最高の鍛冶師エルダー・ドワーフが改良した超兵器。

すべての魔王の中で俺だけが許されたSランクの魔物たち。

そして、風の魔王ストラスから託された全軍強化と圧倒的な情報連携を可能にする、風の天使ラーゼグリフのローゼリッテ。

一体一体がAランク上位に匹敵する最強のゴーレムアヴァロンリッター。

これらをどう生かすか。

それにすべてがかかっているだろう。

幸い、攻めるのはこちらだ。武器の使いどころを選べる立場ではある。

「わかったの。なら、クイナはいつも以上にがんばる。クイナはおとーさんの一番の魔物。おとーさんは最強の魔王だから、クイナは最強の魔物なの。誰にも負けない」

俺はクイナを手招きする。

クイナが膝のうえに乗ってきて体重を預けてくる。

俺はそんな彼女の頭を撫でた。

この戦いは俺のわがままで始めた。

だからこそ、誰も死なせたくない。この子たちを失うわけはいかない。

俺は、俺の魔物たちの力を信じているし、死なせないように作戦を立てている。

がらにもなく緊張している。

クイナを抱きしめて、尻尾をもふって気を落ち着けながら、頭を全力で回転させていた。

数時間後、【獣】の魔王マルコシアスのダンジョンの近くまできた。高倍率の双眼鏡で上空から様子を確認している。

彼女のダンジョンは魔王としてはオーソドックスな城型のダンジョンだ。

「やっぱり、囲まれているな」

マルコのダンジョンの周囲には、多数の魔物が配置されていた。数百体以上。

敵の援軍を防ぐための手段でもあるし、他の魔王たちが援軍を安定して中に招き入れるために必要な行為だ。

まったく、面倒だ。マルコのダンジョンに入るだけで一苦労。

そして、包囲は地上だけではない。空もだ。

マルコのダンジョンに近づくにつれて、飛竜や巨大な鳥たち、空を舞う魔物が急接近してくる。

人間たちは空に手を出せないが、魔王や魔物は違う。

こうして飛んでいるからと言って安心はできない。

「アウラ、想定通りだ。準備はできているか」

エンシェント・エルフのアウラは同じコンテナにはいない。普通なら声が届くはずはない。それは相手が普通の魔物の話。アウラは俺の周囲の音を常に風で拾っている。

だから、こうして話すだけで十分。

『はい、ご主人様。すでに狙撃部隊、全員所定の位置についています。命令を』

風でアウラの声が運ばれたきた。

どこか、興奮しているように聞こえる。的がいっぱいで嬉しいのだろう。

「発砲を許可する。おまえの自慢の狙撃部隊で暗黒竜グラフロスと共に空を制してみせろ。ハイ・エルフたちは雑魚を、アウラは魔力量の多い奴から優先して倒せ」

『任せてください。空の支配者がだれか教えてあげますよ♪』

そして、射撃音がなり始めた。

アウラを始めとするエルフの狙撃部隊は全員、コンテナではなく暗黒竜の背に乗り、アンチマテリアルライフルを構えていた。

Bランク、その中でも上位の存在である暗黒竜グラフロスといえども、重い荷物を抱えれば格闘能力は落ちる。

それを補うためのアウラたち狙撃部隊。

戦車すら貫くアンチマテリアルライフルを使った超高速高威力の狙撃。

エルフの特別な目と、風の抵抗を受けるどころか、風を味方にしてしまう魔術によって、高速飛行中の魔物すら捉え、一撃のもとに叩き落す。

それだけではない。

レベルが十分に上がったアウラたちは風の魔術を積極的に使う。

エルフの集団による天候操作。

空を飛ぶ魔物たちにとっては、最悪の妨害工作。

目に見えて、敵の飛竜や巨鳥たちは動きが悪くなり、ただの的になりさがっていた。

さすがは、アウラだ。力の使いどころがうまい。

「ローゼリッテ、ワイトに連絡だ。今すぐ暗黒竜たちの強化を始めろ。そして、制空権が確保でき次第速やかに地上の魔物を一掃を開始するようにと伝えてくれ」

「かしこまりました。プロケル様」

このコンテナにローゼリッテがいるのは、俺の命令を全軍に伝えるためだ。

彼女の広範囲感応の威力は凄まじい。俺の配下全員とテレパシーによる通信が可能だ。

彼女がいる限り、俺の声はどこまでも届く。

暗黒竜グラフロスたちの体に黒いオーラが纏われる。

それは、黒死竜ジークヴルムとなったワイトの特殊能力、アンデッドの軍団全体強化、【死の支配者】。

発動中は魔力を消費するため、今まで温存していた。

暗黒竜グラフロスたちの速度があがり、エルフの狙撃部隊は、射撃に有利なポジションを取りやすくなる。

もともと、天候操作で動きが悪くなっていた敵の空を守る部隊は、さらに不利な状況に追い込まれ、数分後、あっさりと敵の魔物を皆殺しにすることができ、制空権を得ることができた。

アンチマテリアルの力を最大限生かしたエルフの狙撃部隊に、普通の魔物が勝てるはずもないのだ。

第一、前方はブレス、後方はライフルでの射撃と位置に関係なく攻撃できる暗黒竜グラフロスとエルフたちのペアに比べて、前方しか攻撃できない敵の魔物たちは空中戦で不利すぎる。

暗黒竜グラフロスたちは、敵がいなくなった空を悠々と旋回し、最適な位置取りをする。

そして、コンテナから大量のナパーム弾を投下し始めた。

「ワイト、見事な手腕だな。期待通りの的確な空爆だ」

Bランク上位の攻撃力をもつグラフロスは、その攻撃に瘴気を纏う【瘴気(弱)】スキルを使うことで攻撃力を増す。

さらに、黒死竜ジークヴルムとなったワイトの【死の支配者】と、風の天使ラーゼグリフの【光天使の後光】。

三重の強化が乗った、ナパーム弾は瘴気に染まった黒い炎で地上のすべてを焼き払う。

空の守りがなければ、地上の魔物を屠ることは極めて簡単だ。

黒い地獄が地上に顕現する。

極度の炎耐性を持っている魔物だけは生き残ることが可能だが、さきほどからアウラ率いるスナイプ部隊が、空からの狙撃で打ち抜いている。

地上から、無数の魔物たちの怨嗟の声が響き渡る。

だが、地上からここは遠すぎて、攻撃は一切とどかない。やがて、その声も聞こえなくなった。

「守りを固めたつもりだろうが、下手な魔物の展開はただの餌だ。俺たちにとってはな」

これで敵の包囲網は壊滅した。

だが、喜んでばかりもいられない。

前回の戦いでナパーム弾をかなり消費していた。

ワイトの指揮するスケルトン工場をフル稼働させて、限界まで補充したが、量は少なく、今の攻撃でほぼ在庫は空だ。

同じ手はあと一度が限界。

強力なナパーム弾を温存せずに使用した理由は二つ。

一つ目は、入り口の魔物を一掃しないと、マルコのダンジョン内に入れない。壊滅させずに無理やり突破したところで、中の魔物と挟み撃ちを喰らって非常にまずい。

ここは突破ではなく殲滅して後顧の憂いを絶つ必要があった。逆に言えば、ここさえしっかり押さえれば、奥を守るマルコの魔物と、俺の魔物たちですでに中に入った魔物を挟み撃ちできる。

もう一つは、クイナたちSランクの魔物のレベル上げだ。

マルコのダンジョンの外が包囲されていることは予測していて、この空爆も予定調和。

だからこそ、あらかじめ暗黒竜グラフロスたちとクイナたちをパーティ設定していた。

つまり、今殲滅した数百体の魔物たちは、今から戦場に向かう俺のSランクの魔物たちの餌というわけだ。

クイナの方を見る。

顔を赤くして、自らの体を抱いていた。

様子がおかしい。レベルアップの快楽。それはたしかに魔物にとっては甘美なものだ。

クイナがレベルアップの快楽に酔うのはいつものことだが、今回は常軌を逸している。

目がとろんとして、尻尾の毛を震わして、吐く息があつい。

「おとーさん、クイナの、からだ、あつい」

深紅の目が淫靡に輝く。

クイナが少し成長する。十二、十三歳程度の肉体が、十四、十五程度に。尻尾がよりもふもふになり、毛並みが滑らかになった。

「おとーさん、クイナ、届いたの。やっと、ちゃんとした天狐になった」

クイナが俺にもたれかかったまま、息を荒くして顔を見上げてくる。

「そうか、そういうことか」

ちゃんとした天狐、その言葉の意味に気付いた。

クイナのレベルは七十に至った。

そのレベルとは、Sランク固定で生み出したときの標準レベル。

本来天狐という魔物は、超大器晩成型の魔物。

それを変動レベルで生み出したせいで、クイナはずっと、本来の力を活かせなかった。能力は制限され、一部の特殊能力については解放すらされていない。

今までもクイナは強かったが、Sランクの魔物としては標準レベルでしかない。

クイナは切り札として、未来の自分の力を借りる【変化】でSランク上位の力を一時的に使用できていはいたが、逆にいえば、未来の自分の力というのは、本来クイナがもっているはずの力でしかない。強化でもなんでもなく、マイナスを打ち消しているだけ。

今、その大器が晩成した。

つまり、天狐本来の力。Sランクの頂点に立つ力が。

ステータスを見て、顔が引きつる。

これが、天狐の本当の力。今までのクイナの力は片鱗に過ぎなかった。

「クイナ、強くなったその力を頼りにしていいか」

「うん、おとーさん。クイナは、今まで以上に、ずっとずっと強くなったから、安心して。もう、誰にも、絶対負けないから。それに成長したから、色んなことができるようになったの!」

これはうれしい誤算だ。

その力存分に振るってもらおう。

ナパーム弾が燃え尽き、暗黒竜グラフロスたちが急降下する。

わずかな生き残りの魔物を踏みつぶして、陣地を確保した。

コンテナが開き、俺の魔物たちとゴーレムが出てくる。

事前に指示したとおり、武器弾薬を運ぶのも忘れない。

カラスの魔物には、転移陣を仕掛けさせる。もしものための保険だ。

俺もコンテナを降りて愛しい魔物たちの先頭にたって振り返り、一人ひとりの顔を眺めて口を開く。

「防衛部隊の指揮はドワーフスミスが執れ、補佐として白虎のコハクをつかせる、攻撃部隊が背後から強襲されないようにこの入り口を死守。攻撃部隊が背後を取られるわけにはいかない。おまえたちが今回の生命線だ」

防衛隊は、暗黒竜グラフロスとハイ・エルフの半数が空を守り、地上は、”通常型”のアヴァロン・リッターを五機、改良型の重機関銃を装備したミスリルゴーレム多数と彼らを操るドワーフ・スミスたちに任せる。

切り札たるワイトをおいていくわけにはいかない。

だから、ワイトの次に魔物の指揮がうまい彼の副官であるドワーフ・スミスと、経験豊富かつ、もしものときのための切り札になりえる白虎を補佐としてつかせる。

「攻撃部隊は、これより敵陣への突撃する。命令はただ一つ。蹂躙せよ。おまえたちは俺の魔物だ。つまり、最強の軍団だ。カビが生えた老害どもに負けるわけがない。いくぞ、俺に続け!!」

「やー♪ わかったの」

「マスター、新兵器の威力を見せつける」

「弾薬はまだまだあります。ポーションの準備もオッケーですよ」

魔物たちが、力強い返事をして俺についてくる。

作戦の第一歩は成功した。

さあ、この勢いのまま、すべてを食い破ってやろう。

そうして、俺たちはマルコのダンジョンに足を踏み入れた。

ここからが本当の戦いだ。