軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98.元素融合

リボーの街をでて、俺達はパトリシアに乗って、一路廃坑にむかった。

ブーケ男爵が「カカ、カカカカトリーヌさん! 現地までご案内します!」と申し出たのだが、カトリーヌ嬢にあっさりと断られた。

案内はいいから周りの人払いに専念してくれという、体のいい厄介払いだったが、ブーケ男爵はそれを「頼られてる!」って解釈したみたいで、ものすごく意気込んで人払いをしにいった。

それをあっさりとやってのけて、何食わぬ顔で一緒にパトリシアに同乗するカトリーヌ嬢を見て、

「恐ろしい方」

とジャンヌがつぶやいたのが印象的だった。

何はともあれ、こうして俺達はまっすぐ坑道に向かっている。

「ここからどれくらいかかるだろう」

「このドラゴンの足でしたら約一日程度ですわ」

「なるほど。パトリシア、大丈夫か?」

『はぁい、全然平気ぃ』

パトリシアの気の抜けた返事が聞こえてきた。

「そうか、じゃあ頼むな。疲れたときは無理しないで言えよ」

『はぁい』

俺は壁――パトリシアの体をポンポンと叩いた。

大型種のパトリシアには、ちょっと強めに――手の平がジンジンするくらい叩いてようやく普通に撫でられてる位の感触になる。

だから俺は遠慮とかそういうのを一切取っ払って、強めに撫でてやった。

「はぁ……」

ふと、横でカトリーヌ嬢がなぜか吐息を漏らした。

目を向けると、なにやら感心しているような、そんな表情をしていた。

「どうかしたのか?」

「シリル様は本当に、ドラゴンと会話ができるんですのね」

「ああ」

俺は小さく頷いた。

竜騎士に限って言えば大半の人間は信じないから強く主張はしてないが、だからといって何が何でも隠さなきゃいけない、というものでもない。

とくにカトリーヌ嬢くらいの、好意的に接してくる人間には、隠す意味がまったくない。

「ずっと半信半疑でしたけど、ご一緒に行動していると――信じざるを得ませんわね」

「信じてくれると助かるよ」

「ジャンヌさんも分かりますの?」

カトリーヌ嬢はジャンヌに水を向けた。

「いいえ、私はまったく。それはシリル様だけのユニークスキルです」

「そうでしたの? その割にはシリル様とドラゴンの会話内容をいつも理解している様にお見受けしましたけど」

「ドラゴンの気持ちになって、彼女達が今、シリル様とどういうやり取りをしているのかを想像しているだけです」

「そんなことができますの?」

カトリーヌ嬢は目を見開くほど驚いた。

そりゃそうだ。

まったく言葉が通じないのに、想像だけでそれが分かるって言われたら俺でもそういう反応をする。

「そんなに難しい話ではないのですよ」

「そうなのですか?」

「はい。『ドラゴン・ファースト』のドラゴンはみな、シリル様の事を尊敬し、好いています。そういう子がシリル様とどう話すのかを考えるだけです」

「……なるほど」

カトリーヌ嬢は数瞬だけ驚きに目を見開いたが、納得したように頷いた。

「それでしたら私にも出来そうですわ」

「はい、シリル様がドラゴンの子と話す機会は多いので、是非挑戦してみて下さい」

「ええ。感謝致しますわ」

ジャンヌとカトリーヌ嬢、二人はどうやら仲良くやれそうな感じで何よりだ。

「そういえば」

廃坑に向かう道中ということで、俺は思いだして、つぶやいた。

「トタンはどうやって採取すればいいんだ?」

「それなら調べてまいりました」

ジャンヌが応じた。

得意げなのが半分、ウキウキしているのが半分。それらがない交ぜになったような表情をした。

「そうなのか。ありがとうジャンヌ。説明頼む」

「はい!」

ジャンヌは大きくうなずき、あらかじめ用意していたらしき、小石くらいの金属を二つ取り出して、手の平の上に置いた。

「こちらをご覧下さい。これがツタンとナガという鉱物です」

「ふむ」

俺はジャンヌが取り出したのを見つめた。

指で突っつく程度に触ったりもしてみた。

「これといった特徴はなさそうだけど」

「これがトタンの素になる鉱石です」

「素に?」

「はい。知識をありのままに申し上げます」

「うん、頼む」

俺は頷いて、先を促す。

「ツタンとナガ、この二つの鉱物を、互いが砕け散るほどの速度でぶつけると、ツタンとナガが融合して新たな金属、トタンが出来るとのことです」

「へえ……お互いが砕け散るほどの速度か」

「はい」

「わかった」

俺は少し考えた。

ルイーズとエマがいる。

パトリシアというドラゴン・キャリアで食糧も積んできてるから、エネルギーはある程度竜玉でカバーできる。

ならば――と。

「変身」

つぶやき、久しぶりに竜人に変身した。

変身してすぐ両手で持っていたツタンとナガを左右からほぼ全力でぶつけた。

爆発音が遅れて聞こえてくるほどの勢いでツタンとナガがぶつかり合った結果、ぶつかった二つはジャンヌの説明通りに溶け合い、青白く光って明らかに別物になった。

――が。

青白い光を放ったのはほんの一瞬だった。

一秒――いや十分の一秒にも満たない。

光はすぐに収まって、またツタンとナガに分離した。

その分離は、砕け散る感じでの分離で、さっきまでツタンとナガの二つの小石だったのが、ツタンとナガの砂粒が複数――という感じになった。

「さすがシリル様、いとも簡単にできてしまうなんて」

「それよりも、これは?」

エネルギー節約のため、竜人から元の姿に戻って、ジャンヌに聞いた。

「それが問題点なのです」

ジャンヌは複雑な表情で答えた。

「ぶつけて、トタンになった瞬間すぐに『確保』しないと崩壊してしまって、元のツタンとナガにまた分離してしまうとのことです」

「なるほど。確保するには?」

「聞いててよく分かりませんでしたが、一番安定した瞬間に掴む――とのことです」

「ふむ」

俺は頷き、地面に散らばったツタンとナガをかき集めた。

そしてまた「変身」とつぶやき、竜人になる。

ツタンとナガの砂粒を全力でぶつけ合わせると、それが再び融合して青白く光った。

一度見た光だから、なんとなくわかった。

スタートから終了まで0.1秒もない。

俺は青白い光が一番まばゆい瞬間に手を突っ込んで、触れた。

すると――融合したものは砕け散ることなく、一粒の鉱石となって手の平の中に残った。

「こんな感じかな」

「――はい! さすがシリル様! すごいです! これがトタンです」

「そうか」

俺は頷き、トタンをじっと見つめた。

複雑な手順がいるしエネルギーもいるが、無茶な注文じゃない――と。

俺はちょっとホッとしたのだった。