軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09.ドラゴンを甘やかす

朝、俺はコレットと二人で出かけた。

『なによあいつ、朝になってもぐーぐーぐーぐーって』

「はは、そういう子だからな、ルイーズは」

『あれでいいの?』

コレットはそう聞いてきた。

もしも人間だったら、はっきりと唇が尖っていて、拗ねてるのが分かるような口調の物言いだが、残念ながら竜は――ムシュフシュ種は唇を尖らせる事はできない。

一応それっぽい事ができる種もあるけど、ムシュフシュ種はできない。

「ああ、それがルイーズとの約束だからな」

『一日に十二時間寝てて良いって約束?』

「そう」

『よくそんなの受けたね』

「うーん、運命の出会いだからかな、ある意味」

『う、運命の出会い!?』

コレットは素っ頓狂な声を上げた。

足も止まって、驚いた目で俺をじっと見つめてきた。

「ああ、十二時間寝ないと力が出ない――なんてのはさ、言葉が通じないと分からない事だろ?」

『そうね』

「つまり、それが分かって、そうさせてやることが俺しかできなかったわけだ。そういう意味じゃ運命の出会いだな」

『ふ、ふーん……』

コレットは顔を背け、再び歩き出した。

気のせいだろうか、横顔がちょっと寂しそうに見えた。

「コレットとも運命の出会いだな」

『ふぇえ!?』

「だってそうだろ?」

『そ、そんなわけないじゃん! あたしなんて、名前をつけられたら暴れればいいんだし』

「でも、コレット、っていう名前は向こうには伝えられない」

『それは……』

コレットは少し考えて、小さく頷いた。

「だから、コレットも運命の出会いなんだ」

『ふ、ふん。安っぽい運命ね』

「はは、そうかもな」

でも運命は運命だ、と俺は思った。

気づいたら、コレットの横顔からちらっと見えていたさみしさが消えていた。

気のせいだったんだろうか。

でもさっきは確かに――そう思って、コレットの横顔をじっと見つめた。

すると――表情の変化に気づいた。

顔を背けたコレットは、背けるだけじゃなかった。

背けた先の何かに、目が釘付けになっていた。

「逸らした」のがそらしたじゃなくて、「見つめる」に変わっていた。

「何を見てるんだ?」

『な、なんでもないわよ!』

「いや、何か見てたじゃないか――」

『見てない見てない見てない!』

コレットは声をあげた。

『山に行くから、じゃあね』

何かをごまかすように、コレットはズンズンと大股で歩き出した。

俺は、コレットが最後に見ていた方向をじっと見つめた。

もしかして――。

夕方、俺は家に帰ってきた。

家には入らずに、まずは竜舎に向かった。

「ただいま」

竜舎の中には、ルイーズとコレットがもう戻って来ていた。

ルイーズは相変わらずスライムベッドの上でだらだらとしてて、顔だけを上げた。

コレットは逆に、パッ、って感じで寝そべっていたのが立ち上がってきた。

『おそかったじゃん、どこいってたの』

「ごめんごめん、ちょっと買い物をね」

『買い物?』

「はいこれ」

俺はそう言って、買ってきた物をコレットの前に置いた。

様々な袋や包み紙から取り出して、並べた。

ケーキやらドーナッツやらの、甘いデザートばかりだった。

それを「山盛り」って言っていいくらいの勢いで買って来た。

しかも普通のヤツじゃないぞ?

どれもこれも、普通のサイズよりも一回り――いや二回りでっかい。

ケーキはウェディングケーキくらいはあって、ドーナッツもフリスビーくらいのサイズだ。

それをみて、コレットは驚いた――が。

同時に目が輝きだしたのを俺は見逃さなかった。

ちなみにルイーズはまったく興味が無くて、そのままスライムベッドに伏せて目まで閉じてしまった。

『な、なによこれ』

「今朝これを見てたんじゃなかったのか」

『そ、そんなの――って、なんか大きくない』

「ああ、頼み込んで作らせたんだ。普通のサイズじゃ人間はいいけど竜は物足りないだろ」

『作らせた……』

「日中は普通の客に作らないといけないから、ほとんどを閉店後に作ってくれたからこんな時間になったけど」

『……』

コレットは俺をじっと見つめた。

「何でも食べていいぞ」

『べ』

「べ?」

『べ、別にこんなの好きじゃないわよ。竜のあたしがこんな甘いの好きなわけないじゃん』

「そう? それは困ったな。こんなに一杯あるのに。ルイーズは――」

『でもしょうがないから、食べたげる』

「ん?」

『勘違いしないでよね。食べないともったいないってだけなんだからね。うちはなんか貧乏みたいだし』

「そうか」

俺はふふ、と笑った。

何故か自分が甘いもの好きだとは認めたがらないコレット。

それで意地を張っているんだが――まったく意味がいない。

なぜなら、コレットの尻尾がちぎれそうなくらいぶんぶんと振られているからだ。

どうやら気に入ったようで、買って来て良かったと思ったのだった。