軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77.真なる試練

偽物がいなくなった後、ジャンヌは改めて――って感じで、興奮した表情を浮かべて俺に迫ってきた。

「すごいですシリル様!」

「ありがとう……って、それはさっきも聞いた気がするけど」

「さっきのは自慢です! シリル様がこんなにすごいんだって、相手に分からせてやる為に言ったんです」

「ふむ? 今のは?」

「そんなシリル様のなさったことを見て興奮したのを伝えたんです!」

「なるほど」

俺は微笑んだ。

ジャンヌにとってそれは別物らしい。

「本当にすごいです。迷いなく見分けて下さるなんて」

「運が良かったんだ」

「謙遜するところも素敵です!」

謙遜じゃないんだけどな。

声の種類の聞き分けという、確かに俺の特殊体質が生んだ結果だが、それも相手の特性とがっちり噛み合った結果だ。

だから運が良かったのは本当のことなんだが――ジャンヌには謙遜してるように聞こえたみたいだ。

まあ、それでもいっか。

「さて、ちびくりすを探さないとな」

「あっ、そうですね!」

『それならここにいるです』

「「うわっ!!」」

頭上からいきなり声がしてきて、俺とジャンヌは一斉に驚いた。

それまでは気配さえもしなかったのが、いきなり俺の頭の上――元の場所に姿を現わしたちびくりす。

「いままでどこに行ってたんだ?」

『ずっとここにいたです』

「ずっとそこに?」

「ずっとそこに? いませんでしたけど」

ジャンヌも俺と同じく見えていなかったようだ。

『いたのです。試練中はアドバイスできないように見えなくにされてたです』

「ああ……なるほど」

俺は小さく頷いた。

ちびくりすはクリスの本体と記憶と知識を共有してるって言ってた。

そのちびくりすによるアドバイスを防ぐため――俺は納得した。

「にしても、こんな試練があるんなら最初から言ってくれたらいいのに」

『ダメなのです、試練を知ってる状態でクリアしても無効なのです』

「まあ……そうなるか」

そういう系統の話は昔話にちょこちょこ出てくるから、納得せざるを得なかった。

『それに信じてたです。二人以上向けのああいう試練なら、心友ちゃんは絶対に大丈夫だと思ったです』

「ん? 人数によって違うのか?」

『はいです。一人ぼっちなのと、二人以上なので違うです』

「なるほど。一人だった場合はどうなるんだ? ……もう聞いてもいいんだよな」

『はいです』

ちびくりすは俺の頭上から飛び降りて、ジャンヌの真横に立った。

体でジャンヌの足を押して、位置を調整。

ジャンヌは不思議がりつつもちびくりすに押されるのに合わせて立ち位置を移動した。

ちびくりすとジャンヌ、二人で俺と向き合う体勢になった。

『一人の時、究極の選択肢を出されるです』

「究極の選択?」

『大事な人の幻影が二人分出てきて、どっちか一人しか助けられないならどっちを、ってなるです』

「またエグいものを……」

「どういう事ですか?」

ちびくりすの言葉が分からず、推測もできない流れのやり取りだったから、ジャンヌは聞いてきた。

俺は今言われたことを説明しつつ。

「母親と恋人か、妻と子供か。そういう感じの究極の選択なんだろ?」

ちびくりすははっきりと頷いた。

「い、意地悪な試練ですね」

「だな」

『うししししし、だからこその試練なのです』

「そう言われると返す言葉は無いが」

『ちなみに心友ちゃんだとどっち選ぶです? 母親と恋人でもいいですし、妻と子供でもいいですし、私とジャンヌでもいいですよ?』

「両方」

俺は即答した。

「シリル様?」

さすがに「両方」という言葉から推測できたらしく、ジャンヌはびっくりした表情を浮かべた。

『片方を選ぶのです、究極の選択なのです』

「だから両方」

『それはダメです、片方だけ――』

「両方選ぶ――どっちも助けるように頑張る」

『――心友ちゃんは欲張りなのです』

「設問からしておかしいからなこの手のは。どっちも選べない相手ならどっちも選ぶに決まってる。それに」

『それに?』

「最初からどっちかって思ってたら、実際にそうなって、状況が変化して両方助けられるようになったとき遅れる。どっちも助ける、そう思っておくべきだ」

『……』

ちびくりすは俺をじっと見つめて――見上げてきた。

この答えじゃだめなのか、と思った。

俺の主張とは別に、試練には正解があって、その正解と俺の答えが違うかもしれない――というのは理解できる。

一人じゃなくて良かったかもしれない――と。

思った、その時。

ちびくりすの体がぼんやり光り出した。

「神の子様!?」

「ちびくりす!?」

『合格――ということにしてやろう』

「なに? ……お前誰だ」

「え?」

横で更に驚くジャンヌ。

彼女は俺と光を放つちびくりすを交互に見比べた。

『これも、試練である』

「試練だと? 一人で入った時のものじゃないのか」

『試練だと分かっている形では、多くの人間は「期待される」答えを口にする』

「むっ……」

『試練ではない、本心を知るためだ』

「……本当、つくづくエグい事をするな」

俺は呆れ笑いした。

そしてそれを通り越して感心した。

『おかげで面白い男の、面白い振る舞いを見られた』

「……」

『楽しませてくれた礼だ。我が秘法を与えよう』

ちびくりすの体が光とともに膨らんだ。

そして、光が溢れた。

「くっ」

「きゃっ!」

俺とジャンヌは目を閉じ、腕で覆って顔を背けた。

やがて、光が収まった後、目を開ける。

「むっ」

「こ、ここは……」

周りをぐるっと見回す、俺とジャンヌ。

俺達は、壁が割れてできた入口を跨いだすぐの場所に立っていた。

「ど、どういう事ですか?シリル様」

「……今までのは全部幻覚の中での試練だったなのかもしれないな」

『ごめんなさいです、こっちで来ると思ってなかったです』

俺の頭上で、ちびくりすが申し訳なさそうに言った。

「予想外だったのか?」

『はいです……』

「まあ、無事クリアできたしそれでいいさ――クリアしたんだよな?」

そういえばはっきりとそうは言われてないことを思い出して、ちびくりすに念押しの確認をする。

『はいです、それなら大丈夫です』

ちびくりすは俺の頭の上から飛び降りて、とことこと奥に向かって行った。

「行こう」

「はい!」

ジャンヌと頷き合って、ちびくりすの後を追いかける。

十数メートル入ったところに、「それ」があった。

そこにあったのは、遠目にはキノコのように見えてしまう不思議な樹だった。

ちびくりすはその樹の前に立って、俺に振り向く。

『オリジナルドラゴンベクター――ドラゴンツリーなのです』

「ドラゴンツリー……」

目の前の樹は、確かに不思議な存在感があった。