軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07.竜の胃袋

「ではこちらへ」

店主と一緒に、店の奥の庭に出た。

ルイーズと出会ったときの庭だ。

あの時は「訳あり品」目的だったから、一直線にルイーズの所まで連れて行かれたが。

「どうぞ、自由にご覧下さい」

店主はそう言って、俺を自由にさせた。

俺はぐるっと見回しながら。

「ムシュフシュ種っているかな」

と、店主に聞いた。

「ムシュフシュ種……四つの胃袋をもつあれですかな」

「ああ」

「ええ、一頭ございます。こちらへ」

そういって、先に歩き出した店主の後についていった。

ムシュフシュ種というのは、店主が真っ先に特徴を挙げたように、四つの胃袋を持つ小型種だ。

小型種でありながら、体に弾性があり、状況次第では「準」中型種まで膨らむことがある。

胃袋の中に物がたまっていると体がそれに応じて膨らむのだ。

胃袋、とはいっても、四つの内三つまでは消化には使わない。

人間で言う腸とかと繋がってもない。

行き止まりの胃袋、しかも消化機能無し。

つまるところ貯蔵室ってわけだ。

クマとかの生き物が脂肪を大量に蓄えて越冬するのと同じように、ムシュフシュ種は三つの胃袋の中に大量の食べ物を蓄える。

そういう種だ。

その、ムシュフシュ種の前に連れてこられた。

サイズはルイーズよりも一回り小さいって所か。

だけどこれが三つの胃袋をフルに使ったとき、体はルイーズの数倍にも膨らみ上がる。

まるで風船の様な種だと俺は知っている。

「この子です」

「うん、ちょっとの間二人っきりにしてもらえるか?」

「もちろんです」

店主は頷き、引き返して俺達から距離を取った。

ルイーズの時と同じで、竜騎士の秘密に聞き耳を立てない、という竜商人のよくある動きだ。

立ち去ったのを見て、ムシュフシュ種の子に振り向く。

「やあ、俺の名前はシリアだ」

『……』

「君は男の子? それとも女の子?」

『……』

まずはとっかかりとしての当たり障りのない質問をするが、ムシュフシュ種の子はこっちを冷ややかな目で見るだけで返事をしない。

「返事してくれないと困るんだけどな」

『返事って、人間に返事してどうするのよ、ばっかじゃないの?』

「そんなこともない、言葉が分かる人間だっているんだ」

『はあ、そんなのいるわけないじゃん――って、えええ!?』

ムシュフシュ種の子は言いかけて、びっくりした目で俺を見た。

『何いまの、言葉分かるの?』

「そういうことだ」

『うそ! なんで?』

俺はにこりと笑った。

こういうやり取りはいつもの事だから、慣れたもんだ。

「生まれつきそういうものだ。ちなみにドラゴンに育てられた訳じゃないからね」

『信じらんない、そんなことってあるの……』

「目の前の俺がそうだ」

『……』

ムシュフシュ種の子は目を剥いて言葉を失った。

沈黙、という意味ではさっきと同じだったが、さっきまでの無関心とは違って、今度は強い関心を俺に持った。

「それよりも、まずはさっきの質問に答えてよ。君は男の子? それとも女の子?」

『何いってんの? どこから見ても雌じゃん』

「女の子なんだ」

俺はふっと笑った。

「俺は君を買おうと思うんだけど、どうかな」

『はあ? 買えばいいじゃん』

「いいの?」

『ここまで来て何言ってんの? ダメって言ってもどうせ無理矢理そうするじゃん。人間なんてみんな最低のケダモノよ』

「俺は普通の竜騎士とちょっと違うんだ」

『なんだって』

「話をして、納得して来て欲しいんだ。だって言葉が分かるからね」

『言葉が……』

ムシュフシュ種の子はその言葉を舌の上で転がすかのようにじっくり吟味しつつ、俺を見つめた。

「うん、言葉がわかるから。言葉がわかる子でいやいや来られると毎日が悲しくなるからな。だから、話をして、納得した子だけ一緒に来て欲しいんだ」

『そんなこと言ったって、どうせ最後は無理矢理するに決まってるもん』

「しないよ。君がいやって言うのなら残念だけど諦める」

『え?』

「でも、出来れば納得して一緒に来てほしいな」

『な、なんでよ』

「君と話してて楽しくなりそうだし、それに可愛いし」

『なっ――』

ムシュフシュ種の子はびっくりして、言葉につまった。

『に、人間が何いってんのよ』

「あっ、もしかして可愛いって言われるの嫌いだった? 綺麗って言った方がいいのかな」

『きっ――』

またまた絶句したムシュフシュ種の子。

彼女は難しそうな顔をして、目を剥いて俺を睨んできた。

「どうかな。ダメならダメって言って。無理強いはしないから」

『べ、別にダメとかいってないじゃん!』

「そう? じゃあ、一緒に来てくれる?」

『……』

ムシュフシュ種の子はしばらくの間、俺を見つめてから、真顔で聞いてきた。

『一つだけ条件がある』

「なに?」

『あたしに名前をつけないで』

「つけないで?」

そりゃまた奇妙な条件だな。

「なんで?」

『もうあるから、名前が』

「あっ、そうなんだ。そういうことなら、うんわかった」

『いいの?』

「だってもうあるんでしょ、名前。どんな名前なの?」

『……コレット』

「コレットか、いい名前だ」

俺は頷きつつ、ムシュフシュ種の子――コレットを見つめた。

「コレット、一緒に来てくれる?」

『……』

コレットはまたしばらくの間、俺をじっと見つめてから。

『ふ、ふん! しょうがないから、特別に一緒に行ってあげる』

「そう?」

『勘違いしないでよね! 別にあんたのこと気に入ったとか、か、可愛いとか言われたからじゃないんだからね!』

「うん」

『名前をコレットのままでいいって言ってくれたから! 他の人間だと勝手に押しつけてくるから、それがいやなだけなんだからね!』

「ああ、わかってる」

どうやら、彼女にとってその名前はかなり大事な物みたいだ。

だったら、このさき何があろうとコレットって呼ぶだけだ。

と、いうか。

最初から名前がある子をその名前で呼ぶ だけ(、、) だから、簡単を通り越して当たり前の事だ。

「じゃあ決まり」

俺はそう言って、店主を呼んだ。

話がまとまったと分かった店主は、ニコニコ顔で向かってきた。

「コレットをもらっていくよ」

「もう名前をつけられたのですか」

「いや、彼女の最初からある名前だ」

「……なるほど、さようでございましたか」

店主は深入りしてこなかった。

最初の 圧(、) といい、実は結構なやり手なのかもしれないと一瞬思った。

「では、このままお連れ下さい」

「支払いは?」

「分割で結構でございますので、後日明細をお届けします。お支払いはいつでも結構でございますので」

「そうか、ありがとう」

これも姫様と繋がりを持ちたいから――俺も狙っていたことで気持ちはすごく分かるから、余計なことを言わないで、コレットを連れて帰ることにした。

コレットを連れて、家には戻らないで、街を出て山に来た。

ミルリーフと言う、ボワルセルの街にいたときからうっすらと見えてた山だ。

そこに、コレットと一緒にやってきた。

『ここで何をするの?』

「採鉱、って、言うのかな」

『サイコー?』

「微妙にちがうのを想像してると思うけど」

俺は微苦笑した。

まあ、そうなっても仕方はない。

「鉱石を採るってことだ」

『鉱石?』

「ああ、この山には天然のケバニウム鉱石が地肌に剥き出しになってるらしい……ああ、これだ」

山道を少し歩くと、それを見つけて拾い上げた。

ぱっと見ただの石だが、ところどころ青い物が光を反射している。

「こういう、青く光るのがケバニウム鉱石だ」

『ふーん、これで何ができるの?』

「さあ」

『さあって』

「そういうのは詳しくないから。ただ、使い道は色々あって、街の買い取り屋に持っていくと買い取ってくれるんだ」

『そうなんだ』

「と、言うことで」

俺はケバニウム鉱石を差しだした。

「食べて」

『なんで』

「ムシュフシュ種は貯蔵用に三つの胃袋があるんだよね。それにケバニウム鉱石を入れて街まで運んでくれるかな」

『そういうことね』

「どう? だめだったら別のを考えるけど」

『ふん、それくらいちゃちゃっとやるわよ』

「そうか、ありがとう。よかった、君が来てくれて」

『べ、別にあんたのためじゃないんだからね! あたしは、自分の名前を守るために働くんだから。そこんとこ勘違いしないでよね!』

「ああ、分かってる」

コレットは何度もその事を強く主張した。

名前を変えるな、って。

よっぽど彼女にとって大事なことなんだな。

まあ、別の名前に変えるつもりは微塵もないけど。

「じゃあお願いね」

『こんなの楽勝よ』

「そうか。そうそう、言い忘れたけどもう一つ、これが大事なんだけど」

『何よ』

「今日は色々説明するためについてるけど、これをコレットが一人でやって欲しいんだ」

『…………はい?』

たっぷり戸惑った後、俺を信じられないようなものを見る目で見つめてくるコレット。

『何いってんのあんた』

「だから、これを一人でやって欲しいんだ。ここにきて、ケバニウム鉱石を採って、後で連れてくけどボワルセルの街の買い取り屋に持ち込んで、を。無理のないレベルで一人で繰り返して欲しいんだ」

『ひ、一人でって、あたし一人でってこと?』

「うん」

『監視は?』

「監視?」

『そうだよ。こういう時人間って監視をつけるじゃん』

「しないよ」

『えええええ!? さ、サボったらどうするの? あたしが』

「信用してる」

『……あんた、ばか?』

コレットは少し俺を見つめた後、呆れたような顔でそういった。

「バカはちょっとひどい」

『バカだよ、何が信用してるよ』

「それはだって、コレットだから」

『え?』

「コレットなら大丈夫だって思うから」

『……』

コレットはポカーンとなった。

絶句したまま俺を見つめた。

「だめか? やっぱり」

『だ、ダメじゃないわよ』

「じゃあやってくれるのか?」

『ふ、ふん。いいわよやってあげるわよ』

「そうか、ありがとう」

これで話がまとまった。

俺はコレットに手順を教えた。

ミルリーフの山でケバニウムをとって、ボワルセルの街の買い取り屋にもちこんで、金を貰ってくる。

買い取り屋にもよく頼み込んだ。

コレットだけが来て、鉱石を吐きだした後その代金を貰うということを頼み込んだ。

簡単な話だから、コレットと買い取り屋の協力で、仕組みができあがった。

そのままコレットと一緒にいて、何も口出ししないで、一サイクル側で見た。

採鉱から換金まで、無事成功した。

俺は、コレットを使って、一つの安定した収入を作りあげた。