軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

67.空中戦

そういえば――。

「ユニーク竜具ってどうやって作られるんだ?」

俺は店主に聞いてみた。

何となく興味が湧いた。

「さあな。ユニークの竜具は大抵、竜具職人の生涯の集大成! って感じの代物が多くてな。作った本人でさえ再現できない場合が多い」

「一点物の名画みたいな感じか」

「面白い例えだな。だがそのとおりだ」

店主は楽しげに笑いながら、俺の例え話に同意をしてくれた。

「ユニークはそうだが、レア程度のものなら知ってるぞ」

「どんな感じなんだ」

「ドラゴンの肉体の一部で作るんだ」

「ドラゴンの肉体の一部?」

「そうだ、それをドラゴンベクターっていうヤツに食――」

「フェニックスホーンみたいなものか」

店主の話を聞いて、俺はそれを思い出した。

フェニックスホーン、ドラゴンの肉体の一部――って聞いてクリスの骨でできたそれの事を思い出したのだ。

「近いが、ちょっと違うな。あれは『特別』過ぎて、手を加えなくても、それ自体が一点物で力をもつ。故に単独で神具と呼ばれている」

「ああ」

なるほどって思った。

たしかに、フェニックスホーンは特別だ。

「が、まあ。本質は同じだ。ドラゴンの肉体はそれなりの『力』を持つ。それを上手く加工したのがレアランクの竜具ってことだ。もちろんどんなドラゴンでもいいって訳じゃないから、数は少ないがな」

「なるほど」

「卵の殻を使うこともおおいな」

「卵の殻!?」

「驚くほどのことじゃない。人間でも胎盤を薬に加工したりするだろう? それと同じだ。卵の殻は生まれる前のドラゴンを守るもの、ドラゴンの『肉体』の中でも特別なものだからな」

「……ありがとう、参考になった」

俺は店主にそう言って、コレットに目配せして、一緒に店を出た。

店を出た後、俺は早足で歩いて行く。

コレットが後ろについてくる。

『どうしたの?いきなり』

「レアだ」

『レア竜具がどうしたっていうのさ?』

「そうじゃない、レアだ。うちにいるレア」

『ああ、ややっこしいわね。あの子がどうしたの?』

「あの子のたまごの殻が生まれた場所に置きっぱなしのままだ。バラウールの原種、しかもたぶんマスタードラゴンのたまごだ」

『――!?』

「何かありそうな気がする。回収したい」

『もどろう!』

「ああ」

俺はコレットを連れて、急いでセントサイモンを発って、パーソロン方面に戻って行った。

道中急ぎ足で、着いたときの3分の2くらいの時間でパーソロン近くまで戻ってきた。

そしてパーソロンには戻らず、ヒムヤーの山にやってきた。

姫様を助け、レアを助けた縁のある山だ。

山に入って、記憶を頼りに山道を進む。

『この先だよね』

「ああ、あそこを曲がったら――待て」

俺は手を真横に突き出して、立ち止まった。

横を歩くコレットも立ち止まった。

『どうしたの?』

「……なんかいる」

『え?』

俺は道の先を凝視した。

何かは分からないけど、間違いなく「何か」いる。

「……コレットはここで待っててくれ」

『あたしも――』

「戦闘になるかもしれない」

『――!』

コレットはぐっ、と息を飲んだ。

戦闘になるかもしれない、と言われて言葉を失ったのだ。

ムシュフシュ種は決して戦闘向きではない。

コレットの性格で他の種だったら戦闘の時すごく頼もしかっただろうが、あいにく彼女はムシュフシュ種だ。

戦闘の可能性が見えてるのに連れて行くわけにはいかないし、本人もそれを理解してる。

『……竜玉すぐに届けられる距離にいるから』

「ありがとう」

聞き分けが良く、自分のポジションを一瞬で見つけるコレット。

そんなコレットの頭を撫でてやってから、深呼吸一つ、単身で先に進む。

進んで、角を曲がった。

すると、レアのたまごと例の爪が落ちてる、開かれた場所に出た。

そこに、何かがいた。

ウサギ程度の小動物が、たまごの殻のそばにいる。

そして、殻をボリボリむさぼっている。

「食べてる……のか?」

つぶやき、これはどうするか――と思ったその時。

小動物の体に変化が起きた。

体の中から黒いオーラが漏れ出して、体そのものが膨れ上がった。

まるで変身をしているみたいだ。

「なんだ、これは……」

『ドラゴンベクターだよ、きっと!』

背後の少し離れた場所から、コレットが大声で叫んでいた。

ドラゴンベクター……。

『そうだ、それをドラゴンベクターっていうヤツに食――』

俺はハッとした。

店主から聞いた言葉、途中で性急にも遮ってしまった言葉。

あの後はきっと、食べて処理して、力のある何かに変える――的な意味の言葉が続いてたんだろう。

その言葉が、目の前の状況にぴったり合致していた。

そうなのかという確証はないが、そうだろうと納得した。

納得したが、どうするのか。

俺が悩んでいると、レアのたまごを食べて変身していたそいつがこっちに気づいた。

背中を向けていたのが、ぐるり、と首だけこっちを向いた。

目が――真っ赤に爛々と輝いていた。

その目の光から、敵意らしきものを感じ取った――瞬間!

「ーーっ!」

俺はとっさに腕をクロスさせて、ガードした。

ものすごい速さで何かが飛んできて、ガードの上にぶつかった。

「くっ!」

ガードが吹っ飛ばされて、よろめき、2・3歩後ずさった。

『シリル!?』

「大丈夫だ!」

ガードごと吹っ飛ばされて数歩よろめいたが、逆に言えばその程度のものだった。

俺はぱっと周りに視線を巡らせる、状況を把握する。

変身しきって、人間と同じくらいのサイズになって、黒いオーラを纏ってるそいつが、数十メートル離れた先の木の上でこっちを睨んでいた。

敵意は相変わらずだ。

だが――その程度だ、と俺は判断した。

不意を突かれたスピードはすごいが、それでもガードを吹っ飛ばして数歩よろめいただけで済んだ。

ならば。

そいつが再び飛びかかってきたのに合わせて、俺は「変身」とつぶやいた。

竜人に変身する。

スピードなら負けない。バラウール原種の爪を取り込んだ竜人形態なら負けない。

そしてパワーは変身後圧倒しているはずだ。

そう思っての変身――なのだが。

「くっ! 速い!」

そいつは俺の予想以上に速かった。

変身して飛びかかってきたのをとらえたと思いきや、寸前で着地して強引な方向転換をされて、背後に回られた。

とっさの判断で振り向いてとらえようとするが、そいつは更にスピードを上げて、振り向いた時にはもういなかった。

そして――スピードの乗った体当たりをしてくる。

「ちっ」

思わず舌打ちした。

攻撃力は想像したとおり大した事なかった。

変身前はよろめいてガードした腕がしびれたが、変身後はまったくダメージにならなかった。

速度は紙一重で負けているが、攻撃力と防御力ではこっちが圧倒している。

この差のままなら、長丁場になれば120%勝てる――のだが。

「くっ!」

変身が解けて、その場で膝をついた。

そうだ、長丁場は無理だ。

俺の竜人変身は数秒、長くて十秒程度しか維持できない。

スタミナ――という意味だと俺とヤツの優位性が更に逆転する。

そしてそれは、致命的だった。

『シリル!』

コレットは叫んで、竜玉を作り、飛ばしてきた。

俺はそれを受け取り、躊躇なく腹の中に飲み込む。

失ったエネルギーが一瞬で回復した。

回復したあと、俺はガードし続けた。

腕をクロスさせて、亀のような姿勢をとる。

相手は速度をあげて、四方八方からスピードの乗った体当たりをぶつけてきた。

その都度俺はよろめき、体にそこそこの痛みが走る。

この程度なら――

「くっ!」

『シリル!』

コレットが声を上げた。

肩に焼けつく痛みが走る。

体当たりだけだったのが、肩を噛まれた。

肉をごっそり持って行かれるタイプの噛まれ方で、肩から血が噴き出した。

「……逃げるぞ」

『う、うん。大丈夫?』

「大丈夫だ」

俺はそう言って、コレットを押した。

彼女を先に行かせて、俺が敵を引きつけつつじわじわ後退。

竜人変身の残りが数秒しかない。

逃げ切るためにはどこかでちゃんとした一手を打たないといけない。

そう思いつつ、下がり続けた。

下がっていると、姫様を助けた所、崖の上にやってきた。

瞬間、脳裏に電流が走る。

「コレット! とにかく全力でパーソロンまで走れ! 振り向くな!」

『あんたはどうすんのよ!』

「いいから行け!」

『――ばか!!』

なんで罵られたのかわからないが、コレットはパッと走り出した。

ムシュフシュ種だから走るのも決して速くないが、それでも普通の人間よりも大分速い速度がでる。

その速度で、山道を駆け下りていった。

距離が離れて、敵が完全にコレットじゃなくてこっちに狙いを定めていると確信してから――飛び降りた。

俺は、崖から飛び降りた。

姫様が馬車ごと落ちたあの崖を飛び降りた。

敵が追いついてきた。

空中を飛んで追ってきた。

飛びかかってくるときに加速したせいか、俺が先に飛び降りたのにもかかわらず途中で追いつかれそうな勢いだ。

そうして、二人とも空中で落下する。

「……変身」

地面に堕ちる直前、俺は変身した。

人間のままだったら大ケガ――打ち所が悪ければ死もあり得るのだが、竜人の頑丈さでほとんどノーダメージだった。

逆に、地面に落ちた反動をつかって、飛び上がった。

落ちてくる敵、飛び上がった俺。

俺は敵に迫った。

そいつは驚いた。

反撃してきた。

「甘い」

反撃などぬるかった。それをガードして、握った右の拳を放つ。

そいつは――避けられなかった。

速度は俺よりも速いのだが、それはあくまで地上での速度。

バラウール種・原種どっちもそうだが、飛行能力は無い。

いくら速くても、空中で方向転換はできない。

俺の拳はそいつの左頬に突き刺さり――顔ごと吹っ飛ばしてしまった。

「……やりすぎた」

飛び上がって、勢いが衰えて着地するまでの間。

俺は、先に墜落した敵の死体を見て、苦笑いするのだった。