軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59.マスタードラゴン

マンノウォーの街、ギグーの商会。

俺はボワルセル庁舎のVIPルームに勝るとも劣らない程の豪華な部屋に通された。

向き合っているのは、この商会の主であるギグー。

「竜涙香、確かに受け取った。これが今回の代金だ」

ギグーはそう言って、俺達の間にあるローテーブルの上に教会札を差しだした。

受け取って、数える。

一万リールのが二十枚、合計二十万リールだ。

竜涙香の「運び」に比べると高額だが、現物の納品で考えれば若干少ない。

まあ、それはしょうがない。

何しろ――。

「品質も確認した、申し分ない。ただ数をもっと増やせないか?」

ギグーも言うように、数がまだまだ少ないのだ。

拠点パーソロンを手に入れて、そこでガリアンを育て始めたが、どうにかこうにか軌道に乗ったばかり。

完全な量産まではもうちょっとかかる。

それにドラゴン達の事もある。

ドラゴン・ファーストはドラゴンの人数が少ないし、無理はさせられないから、どうしても生産数は少なくなってしまう。

「……検討する。ただ無理をして品質は下げられない」

「そうか、わかった。期待している。お前の所の竜涙香は評判が高いからな」

「そうなのか」

「竜涙香の品質が高いと、見る夢の細かい操作までできるからな」

俺は成る程と頷いた。

竜涙香とは、摂取して眠りにつくと、その直後にみた夢を自分が見たいように見る事ができるアイテムだ。

もともと竜涙香無しでも、人間は条件が揃えば見たい夢を見れるが、竜涙香はそれを「確実」な物にするアイテム。

その上、うちが生産する物は更に細かい夢の操作ができるらしい。

「名は明かせないが、とある貴族の未亡人が、亡夫の顔まではっきり見れたと喜んでいた」

「そうか」

人によって、見たい夢も異なる。

亡くなった人と再会できるのが夢の中だけ――というどうしようもない現実も、竜涙香の需要が高止まりになってる要因の一つだ。

「だとしたらますます品質は下げられない。その上で数を増やせるかどうか検討してみる」

「そうか、わかった」

ギグーは納得して、引き下がった。

無理をいう場面じゃないと分かってくれたようだ。

「竜涙香はそれでいいが、一つお前に頼みたい仕事がある」

「俺に?」

「ああ。マスタードラゴンを知ってるか?」

「マスタードラゴン?」

俺は首をひねって、記憶と知識の底をさらった。

「……どこかで聞いたことはあるが、悪い、詳細は知らない」

「そうか、ならまずその説明からしよう」

ギグーは頷き、説明を始めた。

「ドラゴンは、交尾をしなくても卵を産むことができる。しかしそうやって産んだ卵から孵ったドラゴンは、生殖能力を持たない、いわば一代かぎりのドラゴンになる。そしてその場合ほとんどがメスだ」

「なるほど」

俺は頷いた。

前からドラゴンはほとんど女の子なのは何でだろうかって思っていたが、そういう理由があったんだな。

「それとは別に、寿命を迎える頃に、滅多に現われないオスと交尾をして、生殖能力をもったメスを生むことができる。この産めるメスと、交尾して産まれたメスがドラゴンをつないでいく――マスタードラゴンと呼ばれるものだ」

「ああ、そういうことか」

俺は納得し、頷いた。

ドラゴンの生態は人間とは違う、というのは前々から分かっていたけど、改めて詳しい人間から話を聞くとそれをまざまざと思い知らされる。

「そうなると、わかると思うが、当然マスタードラゴンはべらぼうに高価だ」

「……まあ、そうだな」

ドラゴン、特にそれを生む母親であるマスタードラゴンをつかまえて「高価」って言われるのは複雑な気持ちがするが、それをギグーにいってもしょうがない事だから飲み込んでおいた。

「……あれ?」

「どうした」

「……いやなんでもない」

一瞬、頭の中に何かが浮かび上がってきたが、ギグーに首を振ってなんでもないといった。

ものすごくぼんやりとした気づきだ。

何に気づいたのかさえもよく分からないような気づき。

あとで落ち着いた時にゆっくり考えようとあと回しにした。

「それよりも、そのマスタードラゴンがどうした」

「ある『種』のマスタードラゴンが次のマスタードラゴンの卵を産んだ。それが孵るまでの護衛――と言う依頼だ」

「ふむ」

「マスタードラゴンもそうだが、この先もっと産める卵は高価きわまりない、だから信頼のおける腕利きを雇って護衛させるのが常だ」

「それで俺に?」

「ああ、トニービン・ウルフの群れを一人で討伐した一つ星竜騎士だ。できることなら頼みたい」

「そうか」

「報酬は成功報酬になるが、三百万リールだ」

「!!!」

俺は驚いた。

ものすごく驚いた。

三百万リール。

ものすごい額だ。

それを持ちだしたギグーはまっすぐ俺を見つめている。

その額が俺への評価を示しているものだ――という風に言ってるように見えた。

ぶるっ――と武者震いした。

「わかった、やらせてもらおう」

もとより、更に評価が上がりそうな依頼だから、断る理由もなかった。

ギグーの商会を出て、待っていたコレットと合流した。

竜涙香を運んできたあと、待っててもらったのだ。

そのコレットと並んで、マンノウォーの街を歩きながら、ギグーからの依頼をコレットに話した。

『ふーん、すごいじゃん。三百万って結構大金だよね』

「ああ」

『そか、よかったね』

コレットはそう言ったきり、黙り込んでしまった。

「どうした、何か気になることがあるのか?」

『うーん、なんというか』

コレットは首をかしげつつ、いった。

『寿命を迎えるときに残す卵ってさ』

「うん」

『なんかレアと一緒じゃん?』

「!!!」

卵の殻と、遺骸の爪と一緒に見つかった原種の子、レア。

俺は、ギグーと話してるときに覚えた引っかかりの正体を理解して、はっとしたのだった。

マスタードラゴンが、うちにもいた?