軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45.慰謝料

「ところで、この人達はどうしますか?」

興奮が少し落ち着いてきたころ、ジャンヌは倒れている――全員気絶している連中をちらっと眺めながら、俺に聞いてきた。

「どうするって?」

「逮捕して、処罰させましょうか。 わたくし(、、、、) が証言すれば全員縛り首は確かです」

「証言だけで?」

「王族の証言はそれだけ重いですから」

「ああ」

俺は大きく頷いた。

そういえば聞いたことがあるな。

「たしか、王族や貴族の証言は、平民よりも力があるんだっけ」

「はい」

ジャンヌははっきりと頷いた。

「王族の公的な発言は、家名を背負ってのもの、ということになりますので」

「たしかに、それは重くもなるな」

俺は頷き、納得した。

今まで、王族貴族の証言力が庶民よりも高い・強い事は知識として知っていたが、理由までは知らなかった。

しかし今ジャンヌの説明を聞いて納得した。

家名を背負っての発言なら、王族貴族の「全て」を背負っての発言という事になる。

普通に考えたら、下手な事は言わない。

嘘の証言をして、あいつは大嘘つきだ、なんて事になったら目も当てられない。

「まあでも、被害はなかったし」

「もちろんシリル様のお力の前に何もできなかったのはそうですが、シリル様のお命を狙おうなんて不埒な行いは許せません」

「ふむ」

ジャンヌは平然とした口調で言っているが、内容をよく吟味すると、彼女がかなり怒り心頭なのが伝わってくる。

本気で俺を襲ったこいつらを縛り首にするつもりだ。

俺は倒れている連中を見た。

「まあ、こういう稼業をしてる連中だ。比喩とかじゃなく『負けた方が悪い』んだから、いいんだけど」

「では、ルイーズをよんで、この者達を役所まで運びましょう」

「いや、それは待ってくれ」

「なさらないのですか?」

「ああ」

俺ははっきりと頷いた。

「その前に、やってみたい事がある」

「やってみたい?」

ジャンヌが小首を傾げ、俺はにこりと微笑み返した。

ボワルセルの街、リントヴルムの拠点の中。

久々の古巣を、俺は 姫様(、、) と二人で訪ねてきた。

建物に入ると、すぐにルイと遭遇した。

「お前――」

ルイは俺を見て、驚愕した。

「な、何をしに来たんだ」

ルイははっきりと動揺していた。

普段から俺を見かける度に突っかかってきてたが、今のはそれとはまた違う。

はっきりとした「動揺」だ。

その反応だけで、もう「クロ」だって言ってるようなもんだ。

「話がある。誰か責任者を呼んでくれ」

「こっちは話なんかねえ――」

「シリル様、もういいのではありませんか?」

ルイの言葉を遮るような形で、姫様が言った。

物静かな声だったが、かなりの迫力だ。

その物静かな声だけでルイの切羽詰まった怒鳴り声を完全に圧倒していた。

「わたくしはやはり、事実は事実として公にするべきだと思います」

「なんだお前は――!!」

怒鳴りつけてから、ルイはハッとした。

目の前の少女の正体に気付いたのだ。

今の彼女はジャンヌではない。

元の姿に戻った王女様だ。

「じ、事実って……まさか……」

「ええ、見たこと、聞いたこと。それを包み隠さず公の場で話そうと思います」

「ま、待ってくれ! それは――」

それは――の先の言葉が出てこなかった。

姫様が現場を目撃してて、それの証人になろうという事を理解したようだ。

その事の重大さを瞬時に理解して、止めようとするが。

流石に自分の口からその事を言うのはすんでの所で止められたようだ。

ルイが理解したところで、俺はわざとらしくため息をついた。

「そうですね。姫様のお話も聞く耳持たないという事みたいですから。申し訳ありませんが、役所までご足労を願えませんか」

「構いません、真実を明らかにすることの方が大事ですから」

姫様は真顔でそう言い放った。

ここに来る前に打ち合わせしてた流れだが、姫様のそれは「芝居感」がまったくなかった。

むしろ、本気でそうしようとしている。

俺が止めてなければ全て公の場でぶちまけようとしている。

彼女は本気だ。

だから伝わる、圧倒する。

「ま、待ってくれ」

「うん?」

「う、うぅ……」

呻くルイ。

口を金魚のようにぱくぱくさせた。

「これが最後だ。責任者出てこないんなら帰るぞ」

「す、少し待ってくれ」

ルイは血相を変えて、慌てて建物の奥に駆け込んでいった。

「誰も出てこないといいですわね」

その後ろ姿を見て、姫様がぼつりと言い放った。

「首謀者」を目の当たりにして、だいぶ怒りがぶり返してきてるみたいだなぁ。

リントヴルム本拠の応接間の中、俺と姫様は一人の男と向き合った。

初老の男で、名前はパスカル。

このリントヴルム立ち上げの最古参メンバーで、今は副ギルドマスターをやっている男だ。

「あんたが出てくるとはな」

「王女殿下に失礼があってはいけないのでね」

「今までの事が失礼ではない、とお思いですか?」

「申し訳ございません。私どもの教育不行き届きでした。王女殿下がお見えになったと分かった瞬間にすぐに通達させるべきでした」

パスカルはそう言って、深々と頭を下げた。

「殿下へのご無礼、衷心よりお詫び申し上げます」

「……」

姫様は泰然とパスカルの謝罪を受け入れた。

「さて……話は聞きました。先ほどルイを締め上げたところ、どうやらシリルを襲わせたのは事実のようです」

「あら、お認めになるのですわね」

「監督不行き届きで、誠に申し訳ございません。ルイにはしかるべき処罰を下した上で――」

「それはやめた方がいい――そう言いに来た」

「――。……と、いいますと?」

パスカルは訝しげな表情で俺を見つめ、聞いてきた。

「ルイがならずものどもを使って俺を襲わせた。まあそれはいい。問題は、その場に姫様がいたということだ」

「むっ……」

「姫様。あの時の連中、姫様を見てなんと言っていましたか?」

俺は姫様に話を振った。

「『こいつはいい、ただのコロシだと思ってたけど、ボーナスもついてるじゃねえか』、でしたわね」

「ということだ」

姫様からパスカルに視線を戻した。

「と言うわけだ。ボーナス、って言葉の意味。お互いこういう稼業してるし、連中の思考はわかるだろ? あの連中は姫様を辱めようとしたんだ」

「……それは偶然であり、殿下の正体を知らなかったから」

「それは勿論そうだろうな。だが、それで罪が軽くなるということでもないだろ?」

「……」

「リントヴルムの愚行によって、姫様を辱めの危機にさらした。というのは事実だ。この話を公でしていいのか、ってことだ」

「それは……」

パスカルの顔が強ばった。

どこでも同じだ。

姫様には父親がいる。

国王という父親だ。

そして多少の例外を除けば、どこも娘というのは父親に溺愛されるものだ。

今の話が公に出て、国王の耳に入れば――リントヴルムは大変な事になる。

「ど、どうしろというのだ」

「これは傷害事件だ。傷害事件は当事者同士で示談が成立すればそれでお仕舞いだ」

「す、少し待ってくれ」

パスカルは一旦部屋をでた。

一分と経たない内に戻ってきた。

「これで、収めてもらえないでしょうか」

そう言ってパスカルが差しだしたのは教会札の束だ。

一枚一万リールの教会札で、合計で十枚ある。

つまり十万リールだ。

それを、パスカルは姫様に差し出した。

姫様はそれを見て、俺に聞いた。

「如何ですか、シリル様」

その瞬間、パスカルの顔が更に強ばったのを俺は見逃さなかった。

パスカルは誰が主導権を握っているのか見誤っていた。

話の主導権を握っているのを、普通に考えて姫様――としたが、実際は姫様は俺の意向を伺っている、俺が主導権を握っている。

それを察知して、顔を強ばらせたのだ。

まあ、それはそうと。

あまり追い詰めて逆上されたら事だし。

ここいらで手じまいとするか。

俺は十枚の教会札を受け取った。

「示談成立だ」

といった。

パスカルは、見るからにほっとした。

リントヴルムからの刺客を返り討ちにした俺は、それで十万リールという大金をせしめることに成功したのだった。