軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42.竜人シリル

『い、生きてるんですか?』

いったんは逃げたが、戦いが終わったのを察したのが、擬態をといて、エマが走ってきて、ユーイがゆっくり歩いてきた。

追いついてきたエマが、倒れてる小型種を見て、聞いてきた。

俺はしゃがんで、そっと触れた。

心音を感じる、呼吸もある。

意識がなくて息もか細いが、危機的な状況とかじゃなくて、弱ってるなりに安定している、って感じの状況だ。

「ああ、生きてるみたいだ」

『そうなんですね……でも、すごいですシリルさん。今のどうやったんですか?』

「ちょっとした切り札だ。拠点に帰ったら教えてやる」

『はい!』

エマは納得した。

俺は倒れている小型種を見た。

最初は気にしていなかったが、落ち着いて観察できる状態になって気づいた。

倒れてる子は、まったく知らない見た目をしていた。

「これは……なんて種なんだ?」

まじまじと観察する、頭の中の知識をひっくり返す。

やっぱり、見たことのない種だった。

「エマ、ユーイ。二人は何か知ってるか?」

『ごめんなさい、私も知らないです』

『はじめて見る』

二人ともほぼ即答で答えた。

二人にも見覚えのない種だ。

俺は「キメラ」の時の状態を思い出した。

「……キメラの時は、全部見覚えのあるパーツだったよな」

『えっと……はい、ありました』

エマは少し考えて、はっきりと頷いた。

「つまり、全部何かしらの種から取ってきてたって訳だ。でもこれは違う」

『そうですね、普通にいる生き物っぽい見た目なのに、まったく見たことのない種です』

「……」

『どうしますかシリルさん?』

「この事は内緒にしよう。ユーイ、この子に擬態をかけられそうか? 誰かいるときだけでいい」

『……普通に見覚えのある種、って感じでいい?』

「素晴らしい、流石だユーイ」

俺はユーイを撫でた。

ガルグイユ種の擬態。

それは「見えてるけどそれが普通のものに感じる」というのがある。

ユーイは今の俺とエマのやり取りで、この子が「特殊」だと理解して、最適な方法を提示してくれた。

寡黙だが賢い子。

俺は少しだけ、ユーイの評価を修正した。

『他のドラゴンはどうする?』

「他の?」

『弱ってるけど、いる。キメラという大きいのがいなくなって、分かるようになった』

「!? 探すぞ」

俺はびっくりして、まずはそっち、と。

ユーイの協力を得て、牧場の中にいる他のドラゴンを探し始めた。

ボワルセルの街、庁舎の中。

戻ってきた俺は、単身でローズと向き合っていた。

「と言うわけで、31人救出してきた。既に手遅れだったのはその場で火葬してきた」

「そう、お疲れ」

ローズは俺の報告を聞いて、頷き、俺を労ってくれた。

「救出してきたのは街の竜医者の所に預けてきた。あとは――」

「ああ、こっちで引き取るよ。よく助け出してくれたね」

「半分くらいしか助けられなかったけどな」

「それでもさ。さすがだねえ、リントヴルムが一隊差し向けて失敗したのに、あんたは単身で解決してきた」

「……」

「暫くはあいつらがうるさくなりそうだけど――」

「気にしないさ」

俺は手の平を上向きにして、肩をすくめておどけた。

「リントヴルムとはもうケンカしてるようなもんだから」

「そうかい。まあ、理不尽すぎる言いがかりをつけられた時は言っといてくれ。何とかするから」

「ありがとう」

俺はローズにお礼をいった。

「ところで」

「うん?」

「その……なにか気になることはないのかい?」

ローズはそう言って、珍しく目をすこしだけ泳がせながら聞いてきた。

俺は得心した。

ローズは何か知ってる。

そしてそれを俺に向かって探りを入れている。

その何かが「結構まずい」事なのもわかった。

そして、それは。

完全に想定内のことだった。

あそこはただの牧場ではない。

キメラというのを作ってた実験施設かもしれなかった。

それは、色々と秘密で、明るみに出ちゃまずいことだ。

こういう風に聞いてくるのは完全に予想内だった。

だから、俺は顔色一つ変えずに、用意していた答えを返した。

「討伐した。厄介だったから、手加減できなくて跡形もなく燃やし尽くした」

「そうか」

「自分で言うのもなんだが、蘇生魔法とか使われない限り大丈夫だ、ってくらい徹底的に殺した」

ギリギリの言葉も放った。

俺がやったことを考えれば「ぎりぎり」だが、これ以上の詮索をされないようにも、信用されるためにもこれくらいは踏み込まないと、って思った。

「……悪いね、ドラゴン相手に」

「報酬は弾んでくれ」

「ああ、勿論さ」

「だったらいい」

俺はそう言って、立ち上がった。

想定内のやり取りに、内心を最後まで顔に出さないまま、庁舎を後にした。

「というわけで、新しく連れてきた」

拠点パーソロン、竜舎の中。

俺とクリス、そして連れ帰った新種の小型種の子で、顔を突きあわせていた。

クリスはいつものように鷹揚に構えていて、小型種の子は神妙な面持ちでじっと座っていた。

事情を軽く説明すると、クリスはにやりと笑って。

『くははははは、流石心友。良い判断だ』

「そう思うか?」

『うむ。素直に差し出せば証拠隠滅されてただろうな』

「やっぱりそうか」

『しかし人間は何百年経っても成長しないものだな。合成竜の研究を未だに続けているとはな』

「合成竜……ああ、キメラのことか」

『うむ。我が知っている限り、心友が見てきたつぎはぎでのアプローチと、異なる種の交配によるアプローチの二種類がある。どっちも上手くいっているとはいえんがな』

「そんなことをしてたのか」

『が。ふはははは、その子は面白い』

「面白い?」

『まず、我も知らない種だ』

「ふむ」

俺は小さく頷いた。

クリスでも知らないとなると、完全に新しい種なのは間違いないようだ。

『そして心友が見てきた、つぎはぎタイプでもない』

「そりゃ違うな、うん」

今度ははっきりと頷いた。

どういう種なのかはしらないが、あのつぎはぎだらけのキメラとは全く違うタイプなのは一目で分かる。

見たことのない種だが、一つの種として非常に自然な見た目をしている。

合成改造タイプじゃない、のは十人中十人が認めるであろうところだ。

『人間が目指していた、異種交配で生まれたようなタイプに近い』

「なるほど。なんでこうなったんだろう」

『我の推測でよいのなら』

「頼む」

『心友は合成竜を殺して、我の骨を使った』

「ああ」

フェニックスホーン。

あれで、確かに死んだキメラを甦らせた。

『その瞬間、六――いや七種か? 七種の魂が一つに混ざり合って生まれ変わった』

「そんなことがあるのか?」

『あくまで我の推測だ』

「ああ……」

そういえばそういう話だったか。

『くははははは、まあ、我の骨だ。それくらいの奇跡を起こしてもなんらおかしくはない』

クリスは上機嫌に大笑いした。

自慢げに話しているが、そりゃそうだと俺は納得した。

神の子の神具、フェニックスホーン。

そりゃ……奇跡の一つか二つは起きても不思議はない。

「さて、どうするか」

俺は新種の子をみた。

その子はビクッと怯えた。

「ああ、大丈夫だ。俺が守ってやるから、安心しろ」

『まもってくれるの……?』

「ああ」

『ひどいこと、しない?』

「ひどいこと? どういうのだ?」

『わからないけど……つらくて、いたいこと』

「……しないさ、安心しろ」

『ほんとう?』

「本当だ」

『ほんとうにほんとう?』

「本当に本当だ」

俺は近づいて、ポンポンと撫でてやった。

小型種で、生まれたての赤ん坊の様な雰囲気を出しているけど、それでも人間の大人サイズはあるその子をなでてやった。

すると、明らかにほっとされた。

『契約しておくといい』

「契約?」

『くははははは、そうした方が守るのにも気持ちが入るであろう?』

「確かに」

俺は頷いた。

契約で実務上何かが変わる、というのはあまりないが、俺の「守らなきゃ」という意識はあがる。

いまは100段階中95なのが、100まで上がる。

気持ちってのはかなり大事だから、やっておこうと思った。

『おいチビ、心友と契約をしろ』

『けいやく?』

『そうだ。我のこの魔法陣に血を一滴たらすといい』

『うん、わかった』

素直に頷いた。

同族だから、それともクリスという存在だからか。

言われたことにまったく疑問を持たずに、クリスが言ってる間に出した契約の魔法陣に血を垂らした。

俺も指を裂いて、いつものように血を魔法陣にたらす。

血が混ざり合って、光になって俺の中に吸い込まれる。

魔法陣が光とともに消えた後、俺は自分の手をじっと見つめた。

「……これは」

『どうだ、新しい契約の力は』

「……変身」

俺はぼそりと呟いた。

瞬間、更なる光が俺の体から発した。

そして――。

『ほう?』

面白そうだという声をだしたクリス。

俺の姿が変わっていた。

頭があって胴体があって、四肢もある。

そこまでは普通の人間と変わらない。

しかし、頭に角が生えて、背中に羽が生えている。

手のツメも鋭く尖っている。

よく見ると、体の一部が鱗に覆われている。

人間でありながら、一部ドラゴンになった感じの見た目だ。

『くははははは、面白い。さしずめ竜人、という見た目だな』

「竜人……」

俺は契約したばかりで、ぽかーんとなっている幼いドラゴンをみた。

その子の、少し前の姿を思い出した。

キメラ。

人間であり、一部がドラゴンになる俺は、そのキメラに近いのかもしれない。

『面白い、さすがだ心友。くははははは、なるほど竜と人の合いの子か。これは面白い』

クリスが大笑いする中、俺は「全」人間と、「半」人間の竜人の姿を、自由自在に切り替えられる事を確認していた。