軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30.有名人シリル

「なんでそれが大商人の素質に繋がるんだ?」

純粋な興味から、クリスに聞き返した。

竜騎士の素質、というのを聞かれたら一瞬で5つくらいは答えられるけど、商人の素質なんてのは全くの専門外だ。

それで興味をもって、聞くことにした。

『くははははは、よいぞ心友。その好奇心は更に得がたい資質だ』

クリスはますます上機嫌になって、こたえた。

『理由は大きく二つある。まず、原料、加工、販売、全ての段階に於いて「稼ぐ」人間がいるのはわかるな』

「そりゃそうだ……あっ、そうか、全部自分でやると、儲けも自分で攫えるのか」

『その通り』

「……それだけじゃないな」

俺はあごを摘まんで、想像し、考えた。

「どこかの段階で値段のつり上げを喰らって、高い仕入れを強いられる事も無い」

『くはははは、ぐわーはっはっはっは』

クリスはいよいよ機嫌が限界を突破して、天井を仰いで笑い出した。

家屋が震え、床が微かに揺れた。

『ちょっと、馬鹿笑いやめなさいよ』

『くははは、すまんすまん』

クリスは素直にコレットの抗議に謝ってから、俺をみた。

『一を聞いて十を知る、素晴らしいぞ心友よ』

「はあ」

『二つ目の理由はまさにそれだ。もっと言えば、他から仕入れて、もうけを分担するのは上手くいってるときはいいが、何かがあれば他人に命脈を握られてしまう事にもなりかねん』

「それはこわいな」

酒場が酒の仕入れを止められるみたいなもんか。

怖いを通り越して致命的だ。

『うむ。だからそれを一手に握る発想がよいぞ』

「そうか」

俺は少し考えた。

『でもシリルさん』

黙って話を聞いていたエマが口を開いた。

『たまにガリアンを買うのは大丈夫ですけど、竜騎士が自分でガリアンを作るのが見られたらよくないんじゃないですか』

「間違いなく良くないな」

俺は頷き、エマを撫でた。

『シリルさん?』

「いいところに気づかせてくれた、ありがとう」

『は、はい』

そうだな、ガリアンをおおっぴらに作るのは良くないな。

それを隠すやり方がいる。

……ならば。

次の日、俺は一人でマンノウォーの竜市場に向かった。

街の人に場所を聞いて、すんなりやってきた。

ギグーの商会ほど寂れた場所にないが、それでも繁華街に比べてかなり落ち着いた区画にある。

ドラゴンを置いておく都合上、どうしても店の面積は広くなって、周りに他の建物が少なくなる。

それで訪ねてくる人間も減る――から、落ち着く感じになるのは当然の流れだな。

ぱっと見、店は四軒あった。

店の建物とか雰囲気とか、そういうのを見て、ぱっと見いい感じっぽかったのに入った。

「いらっしゃいませ、どのような竜をお探しでしょうか」

出迎えた中年の男は、下っ腹は出ているが、物腰が柔らかくいい感じの男だった。

「ガルグイユ種の子を探してるんだけど、いるかな」

「もちろんございますとも。ささ、こちらへどうぞ」

男はそう言って、俺を店の奥に案内した。

奥のドアを開くと、そこは開けた庭だった。

マンノウォーの店も、ボワルセルの店と作りはほとんど同じだ。

「こちらでございます」

男は俺をとあるケージの前に案内した。

ゲージの中に俺と同じくらいのサイズのドラゴンが寝そべっていた。

小型種の中でも更に小型で、人間と大差ないサイズだ。

男はかかっている錠前をはずしてケージを開けた。

「ではごゆっくりと確認下さい」

そう言って、身を翻して十数メートル離れた先に立った。

俺はドラゴン――ガルグイユ種の子と向き合った。

「こんにちは。俺の名前はシリル・ラローズ」

『……』

返事はなかった。

ガルグイユ種の子は少し顔を上げただけで、すぐにまた寝そべった状態に戻った。

まあ、ここまでは当たり前の反応。

俺は更に踏み込んだ。

「驚くかもしれないが、俺はドラゴンの言葉が分かる。まずは話をしてみたい」

『そう』

「……」

『……』

「……」

『……』

「か、会話をして?」

『何を言えばいいの?』

「いやほら、会話のキャッチボールっていうのがあるだろ?」

『……?』

ガルグイユ種の子はちょこん、と小首を傾げた。

そんな「人間の言うことわからないですぅ」なんて反応をされるとこっちも困る。

「喋るのが嫌いなのか?」

『……好きじゃない』

「なるほど」

寡黙な子なんだな。

まあ、それはそうだ。

ドラゴンだって、様々な性格の子がいる。

会話出来なくてもそれは何となく知られてるし、会話出来る俺はもっとよく理解してる。

寡黙でも、今みたいに話が通じるのなら何も問題はない。

だから、俺は最終確認した。

「お前を俺の処に迎えたいけど、どうかな」

『好きにして』

「ああ、好きにする」

俺は「あはは」と笑った。

そして振り向き、男に手招きをした。

男はこっちに近づいてきた。

「いかがでしたか」

「この子を気に入った。このまま連れて帰ってもいいか?」

「もちろんでございます」

「値段は?」

「一万リールとなります」

「ん」

俺は頷き、ここに来る前に教会で両替してきた札を渡した。

金貨とか銀貨とか、大口の取引にはあまり向いてない。

めちゃくちゃかさばるし重いからだ。

そこで、金貨とか銀貨とかをまず何か価値のあるものに変えて、持ち運びしやすくしてから、それを使って取引する。

その中で一番使いやすいのが教会が発行する「教会札」だ。

教会は国中の至る所にあって、信者からの寄付で財力があって、公信力もある。

その教会が発行する札はどの教会に行っても記された金額を引き出せるから、大口の取引に使われる。

ちなみに、教会で教会札を通して金を出し入れするのに他の札屋とちがって手数料はかからないが、無言の圧力で寄付という実質的な手数料を求められる。

教会は神に仕えるもの、金儲けのためにやってないという建前だ。

その建前がなんとも面白いものだ。

俺は、額面で一万リールになる教会札を取り出して、渡した。

男は教会札だとわかるや、ますますニコニコ顔になってそれを受け取った。

ニコニコ顔なのは、教会札なら確実に換金できるのと、この場で銀貨を数える手間が減るからだ。

商人にとって、大量の銀貨を数えるのはそれだけでコストになる。

「さすがでございます。一万リールを教会札で即金とは。さぞや名高い竜騎士様でいらっしゃるとお見受けします」

男は満面の商売スマイルを向けてきた。

「もしよければお名前を頂戴しても」

「シリルだ」

「シリル様……もしや、あの『ドラゴン・ファースト』の?」

「知ってるのか?」

俺はびっくりした。

名前を名乗っただけでギルド名が出てくるなんて思いもしなかった。

「もちろんですとも。今をときめくドラゴン・ファーストのシリル様、当店でお買い求め頂けるなんてこの上ない名誉」

予想外の展開になった。

その後しばらく、俺は男の褒め殺しにあった。

商売人だから煽てもかなり入ってるけど、それでも。

名前が知られているのは事実で、それは割と嬉しくかんじたのだった。