軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.とむらい

あくる日の夜、家のリビングでくつろいでいると、ドアノッカーの音が一人っきりの家の中に響き渡った。

竜舎がメインの家で、人間が住む建物はそれほどでは無いといっても、それでも4~5人は優に住める程の広い家だ。

その家で一人っきりなのだから、ちょっとした物音でも良く響く。

俺は立ち上がって、玄関に向かった。

玄関のドアを開けると、一人の男がそこに立っていた。

「夜分に失礼します。シリル・ラローズ様で間違いないでしょうか」

「そうですが、あなたは?」

「申し遅れました。わたくし、ロラン・フローリと申します」

「ロランさん」

つぶやきつつ、記憶を探る。

初対面なのは間違いないし、名前自体も聞くのは初めてだ。

「実は、シリル様に依頼したい仕事がございまして」

「仕事……それはいいですけど、なんで俺なんですか?」

俺はそう聞き返した。

ちょっとだけ警戒した。

こんな夜にいきなり尋ねてきて、名指しで仕事を依頼してくる。

リントヴルム級のギルドとか、Aランク竜騎士ならともかく、俺くらいの人間でそういう指名は普通あり得ない。

だから俺は警戒した。

「モリニエール様のご紹介です」

「モリニエール……?」

記憶を探ってみた。

こっちは聞き覚えがあった。

しばらく考えて、思い出した。

「ああ、カトリーヌ嬢か」

「さようでございます」

カトリーヌ・モリニエール。

ちょっと前に役所経由で受けた仕事で知り合った良家のお嬢様だ。

男爵と恋愛・文通をしていて、その男爵に送るラブレターを早く届けて欲しい、という依頼内容だった。

他の竜騎士が三日かかるところを、俺は一日で往復してきた。

その事で名前を覚えられたのだ。

「そうか――すまない、こんなところじゃなんだから、中へ」

「失礼します」

カトリーヌ嬢の紹介だと知った俺は、とりあえず詳しい話を聞こうと、ロランを家に上げた。

リビングで、ロランと向き合って座った。

「それじゃ改めて……どういう依頼なんですか?」

「とある竜騎士ギルトが、『討伐』に失敗しました」

「むっ……」

話を聞いた瞬間、顔が強ばったのが自分でも分かった。

討伐というのは、竜騎士に依頼される仕事の中で、もっとも危険だが、その分報酬と名声のリターンが大きい仕事だ。

大抵はある程度数が発生したモンスターの集団を討伐するというもので、討伐と言うからには戦闘することが前提だ。

そして戦闘となれば、もちろん危険もある。

その危険の果てに、竜騎士や竜に損害が出ることももちろんある。

「失敗というのは、どれくらいの失敗なんですか?」

「全滅です」

「なんですって?」

「先遣隊――第一陣が文字通りの全滅、でございます」

「……」

俺は絶句した。

先遣隊とは言え、全滅までするのはなかなか無いことだ。

少なくともここ五年くらいには起こらなかったこと。

「そこで、回収して来てほしいのです。ギルドの竜騎士達の遺品を」

「遺品?」

「はい。そのギルドは、規則として討伐に出かける竜騎士は、討伐直前に遺書をしたためて、それを持っておくことが義務づけられています」

「なるほど」

「それを回収して来ていただきたい――というのが依頼の内容でございます」

なるほど。

話はわかった。

「それはいいんだけど、討伐隊が全滅するほどの敵地につっこむほどの力はないぞ」

「それは大丈夫です。ギルドの本隊が、威信をかけて更なる討伐隊を編成、投入しております。そのため遺書の回収まで手が回らない、ということでございます」

「なるほど」

メンツのせいか。

まあ、わかりやすくはある。

そういうことなら……。

「報酬は五千リール、で如何でしょうか」

「引き受けます」

俺は即答した。

五千リールというのは、迷う時間さえももったいないほどの額である。

「ありがとうございます、お願い致します。遺書さえ回収して来ていただければ、竜具等はお好きに処分していただいて結構です」

「むぅ……」

次の日、俺はルイーズ、コレット、エマの三人と一緒に、ボワルセルの街を出た。

向かう先はダンジグ渓谷という場所で、ボワルセルの街から二日ほど行ったところにある渓谷だ。

そこで、前の討伐隊の竜騎士たちが全滅してる。

報酬五千リールの大仕事だから、『ドラゴン・ファースト』総出になった。

『ねえ、ゴシュジンサマ』

「どうしたルイーズ」

『竜具は好きに処分していい、っていうのはどういう事なの?』

「聞いてたのか、昨夜の話を」

『ドラゴンは人間よりも耳がいいから』

「そうか」

俺は微苦笑した。

って事は俺が家の中にいて、ドラゴンたちが竜舎にいても、俺の行動は全部ダダ漏れの筒抜けってことか。

それは――うーんちょっとどうなんだろうか。

そう思ったが、今はその話じゃなかった。

「今回に限った話じゃないけど、一般的に、戦場跡というのは宝の山なんだ」

『宝の山?』

「戦場に出る人間は、普段の生活よりも何十倍、へたをすれば何百倍もの高価な装備を身につけてる。それの持ち主が死んだからと言って、装備に価値がなくなるわけじゃない。だから大昔から、戦場跡で遺品を剥いで換金する、という行為が当たり前の様に行われている」

『人間って……そんなこともしてたの?』

コレットがあきれ顔をした。

「してたんだ。まあでも、それも命がけなんだ」

『なんで?』

「不発の魔法アイテムを、小遣い稼ぎの子供がうっかり触れて発動させ、呪い殺された――なんて話もよくあるから」

『やな話』

「俺もそう思う」

俺は微苦笑して、話を続けた。

「で、竜騎士とドラゴンだと、身につけてる竜具は普通の兵士の装備よりも更に高価な事が多いんだ」

『そっか、それも報酬としてどうぞ、ということなんですね』

エマがすっと理解して、俺は小さく頷いた。

「そういう事だ」

三日くらいかけて、ダンジグ渓谷にやってきた。

二日くらいの道程だったけど、ルイーズの睡眠時間を確保するために一日遅れての到着になった。

ギルドマップを使い、ロランから教えてもらった戦いの跡地にやってきた。

そこは――かなりの修羅場だった。

人間がざっと二十人、ドラゴンは三十を超える。

まさに屍山血河といっていい有様だ。

「エマ、周りの敵の気配は?」

俺はエマに聞いた。

エマは戦闘に向いているスメイ種のドラゴンだ。

純粋な戦闘能力もさることながら、敵の有無を察知する能力にも長けている。

俺に聞かれたエマは、周りをぐるっと見回した。

「大丈夫です、周りに敵はまったく感じられません」

「よし」

俺は小さく頷いた。

頷きつつ、今確認をしてもらったエマと、そしてルイーズにコレットたちと向き合った。

懐から、小さなロケットを取り出す。

「手分けして、こういうのを探してくれ。話だとこういうのを規則で必ず持ってるはずだ」

『わかりました』

『はーい』

エマとルイーズはすんなりと納得して動き出したが。

『本当やな仕事』

コレットだけが、いまいち納得できずにいた。

「ごめんな、こんなのをやらせて。どうしてもだめってんなら休んでていいぞ」

『や、やらないなんて言ってないでしょ』

「そうか?」

『やな仕事ってだけ。仕事だからやるわよ』

「そうか……ありがとう、助かる」

俺はそう言って、コレットを撫でた。

人間よりも遙かに硬い鱗や皮膚を持つドラゴンに、叩くくらい強めの力で撫でた。

『……ふん』

コレットは鼻をならして、死体から目当てのものを探すために動き出した。

四人で手分けすると、二十人分の遺書は五分くらいですぐに回収できた。

「これで全員分だな。コレット、これを頼む」

俺は遺書の入った全員分のロケットをさしだした。

コレットは『わかった』といって、全部を飲み込んだ。

ムシュフシュ種の胃袋の中に保管した。

『じゃあかえろう。こんな所あんまりいたくない』

「ああ、ちょっとまって、もう一仕事頼む」

『まだ何かあるの?』

「ああ。ここにいるドラゴンたちを埋葬していこう」

俺がそういうと、コレットたちは一斉にきょとんとなった。

『埋葬、ですか?』

「ああ。さすがに――」

俺はぐるっと見回した。

あっちこっちに倒れている、野ざらしのドラゴンの死骸達。

「――このまま野ざらしなのは悲しすぎる」

『ゴシュジンサマ?』

「うん? なんだ?」

『それって、ドラゴンの墓を作るって事?』

「ああ」

『『『…………』』』

俺がいうと、三人はますます驚き、絶句してしまった。

『ゴシュジンサマ……』

「うん?」

『変な人、だね』

「そうかもしれないな。わるいな、変な人につきあわせて」

『ううん、変な人だけど……いい人』

『はい。ありがとうございます、シリルさん』

ルイーズとエマは素直に喜んでくれた。

同じドラゴン種の同族を、野ざらしにじゃなくて埋葬してくれるというのが嬉しかったようだ。

俺達は手分けして、ドラゴン――ついでに竜騎士達も埋葬した。

ドラゴンたちを埋葬していく最中、ギルドカードは何度も光って、経験値が貯まっていったのだった。