軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37:妹たちの襲来

十七歳のリーム・イボワールと十六歳のレーム・イボワール。

見た目も中身もまったく似ていないものの、結婚適齢期を迎える二人は私の血を分けた妹である。

橙色のドレスに身を包んだリームはスカートの裾を持ち上げずんずんと私の方へ進んでくる。黄色のドレスを纏ったレームもすぐさま彼女に続いた。

「メルキュール家まで何の用事かしら? あまり時間が取れないから手短にお願いするわ」

もう少ししたら、学舎の子たちの授業を見なければならない。遅れたくはなかった。

しかし、妹たちは不愉快そうに眉を顰め、空色の目をきっとつり上げる。

「なんなのよ! お姉様のくせにリームに命令するなんて生意気だわ!」

「そうよ、そうよ! レームたちがわざわざ来てやったのに! 豪華な部屋に通してお茶でもお菓子でも出したらどうなの?」

いきなり現れてがめつすぎる妹たちだ。

顔に出さないよう努めてはいるが、使用人たちは全員ドン引きしていた。

「それにしても、お姉様。いい服を着ているわねえ? アクセサリーも……男爵家にいたときとは大違いだわ」

リームが私の全身に素早く目を走らせる。

「本当にね。さぞかし素敵な暮らしをさせてもらっているんでしょうねえ? 羨ましいわ。少しは妹に還元できないのかしら」

レームもここぞとばかりに姉に同意した。

彼女たちは一体何を言っているのだろう。

シャールから男爵家へ、定期的に金銭の援助は行っているはずだ。「もう援助は止めていい」と伝えたが、彼は「約束だから」と律儀に資金を送り続けている。

……結構な額だったのだけれど。

「ねえ、お姉様。リーム、そのネックレスが欲しいわ!」

「レームは、そっちのピアスが欲しい! 腕輪も!」

急にアクセサリーをたかりだした妹二人に使用人の無表情の仮面はついに崩壊し、未知の魔獣を見るような目で彼女たちを凝視している。

そのうちの一人が屋敷へと駆けていった。

(誰かを呼んでくる気かしら? そこまで騒ぎにしたくないけれど)

とりあえず、碌なことをしないであろう妹たちには帰ってもらおうと思う。

「リーム、レーム。ネックレスもピアスも、メルキュール家から与えられたものなの。あなたたちにあげる義理はないわ。用事がないのなら帰ってちょうだい」

いつも言いなりになっていたラムの反抗的な態度を前に、妹二人は息を呑む。

「なんなの! お姉様の分際でリームとレームに歯向かう気?」

「そうよ! お姉様のものは私たちのものでしょ?」

どういう理屈なのだそれは。

あまりに馬鹿らしい言い分を聞き、私はあんぐりと口を開けた。

「あなたたち二人には付き合っていられないわ。早く帰った方が賢明よ」

「何よ! ちょっと伯爵夫人の座に収まったからって! 調子に乗るんじゃないわよ!」

「そうよ! お姉様なんて都合のいい穴埋め要員の後妻じゃないの! なんでもいいから金目のものを出しなさいよ!」

ついに妹たちは押し入り強盗と化し始める。

「資金援助なら受けているはずよ。現にあなたたちはきれいな格好だし、馬車だって新調したのでしょう? 屋敷も建て直したと聞いたわ」

「あれっぽっちじゃ足りないわよ!」

「その通りよ! だって、お姉様は男爵家よりも良い暮らしをしているじゃない! そんなのずるいわ!」

とんでも理論を展開する妹を前にすると、もはやどう説得しても意味が通じないのではと絶望を感じてしまう。

(各地に魔法使いを派遣して稼ぎまくっているメルキュール家と、無計画な新事業を立ち上げては失敗し大損害を出しているイボワール男爵家とを同列に並べちゃ駄目でしょ。懲りずに何度も同じ失敗を繰り返すし、その割には家族全員が贅沢三昧だし)

一方で従業員は安月給かつ休みなしで厳しくこき使う。

従業員たちが忙しく働く中、豪華な馬車を乗り回して贅沢な買い物を続ける男爵一家。

従業員たちの心情は想像に難くない。

シャールからの援助も彼らには還元されず、男爵家の贅沢代と事業失敗の穴埋めに使われるのだろう。

そんなだから婿の来手も嫁の貰い手もないのだ。

過去には私を「嫁き遅れ」だと嗤った妹だが、自分たちも同じイボワール男爵家の娘。

嫁ぎ先に苦労する未来は共通である。

「お姉様、ドレスだっていっぱい持っているんでしょ? リームに何枚か貸してくれてもいいじゃない。ねえ、貸し出しならいいでしょ?」

「アクセサリーだって、今付けている他にもあるでしょ? レームも貸して欲しいわ」

彼女たちの「貸して」は「ちょうだい」という意味だ。一度貸したものは二度と返ってこない。

実家にいた頃のラムは二人のこの言葉で多くを失った。

「何をどう言っても同じよ、あなたたちにあげるものはありません! 人から奪うばかりでなく生み出すことを覚えなさい!」

いつも言いなりだった姉の反抗に二人は明らかに気を悪くしている。

こんな風に説教するのは逆効果でしかないが、伝えずにはいられなかった。