軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17:伯爵夫人の拳

「あなたが苦労人なのは理解できた。学舎で一番をとって伯爵になるくらいなのだから、様々な苦境に耐えてきたのでしょう。けれど、今はメルキュール家全体の責任者なのよ? いつまでも、過去の境遇にあぐらを掻いて、甘ったれてんじゃないわよーーーー!」

避ける間もなく、私の拳が余裕の表情を浮かべる彼の右頬にめり込む。

シャールは放物線を描きながら城の方角へ吹っ飛んでいった。

「ふう、つまらぬものをしばいてしまったわ」

咄嗟に魔法で衝撃を緩和したようだが、彼は油断して私の力量を見誤った。

本気でガードしなければならないところを、小手先の魔力で軽くいなしたのだ。

しばらくすると、城のほうからシャールが歩いて戻ってきた。

頬をさすりながら眉間にしわを寄せている。

「ラム、痛いぞ」

「顔面ど真ん中でないだけマシよ。帰りの馬車でもお説教です」

怫然とした表情のシャールだが、反抗せず大人しく馬車に乗り込んだ。

(素直に私の言うことを聞くなんて)

ちょっと意外だったので、驚いてしまう。

最悪の場合、見捨てる選択も頭をよぎったけれど……シャールは自分なりに反省しようと試みているので、救いはあるだろう。

「とりあえず、これからは腹が立ったときは容赦なく殴るわ」

「……そんなヘマはしない」

プイッとそっぽを向く彼の頬は、殴った右側だけでなく左側も赤く染まっていた。

パーティーが終わり、またメルキュール家での日々が始まった。

何故かシャールが家にいることが増え、いつも私の周りをうろつくので不気味だ。

(殴られて嬉しいとかいう、特殊性癖が目覚めていたらどうしましょう)

新たな不安が芽生えた私だった。

シャールだけでなく、近頃はカノンも私の周りに出現するようになった。

魔法を教えてから、懐かれてしまったようだ。

(今の時間は学舎の授業があるはず。また抜け出してきたのね)

ただ、カノンは相変わらず、シャールについては苦手みたいだった。

(義理とはいえ、親子なんだから接点を持って欲しいわね。無理強いはできないけれど)

まだまだ、メルキュール家には課題がたくさんある。

(乗りかかった船だし、他にすることもないし。メルキュール家を出て行くまでに、ここの環境を改善しておくのも悪くないわね)

魔法使いが減り、魔法の種類も減り続ける中で、なんの縁か魔法に関わりのある、メルキュール家に嫁ぐことになった。

今世で五百年の間に消えた魔法の復活に貢献するのも楽しそうだ。