軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

140:ハリネズミと二人の弟子

あれから、入念に準備を整えた私たちは、メルキュール家からレーヴル王国へ転移した。

今度は馬車なしで、身一つの転移である。

降り立った場所は前回と同じ街の中だった。

しかし、バルの言っていた王位争いの影響か、街は驚くほど静かだった。

きょろきょろと辺りを見回していたカノンがとある方向を指さして口を開く。

「母上、あそこに雪雲が見えます。レーヴル王国は普段雪なんて降らないし、あの場所だけ雲があるのも変です……不自然だと思います」

「たしかに。行ってみましょう」

私たちは三人揃って雪雲がある方向へ進む。

「大体の座標は確認した。ちまちま歩いていても仕方がない、もう一度転移するぞ」

シャールの魔法で全員がその場から移動した。

(やっぱり、シャールって、とても器用だわ)

覚えた魔法を即座に実践で使えるなんて、それもほぼ全ての魔法でできてしまうなんて……本当に潜在能力がすさまじい。

「ラム、体調に変化はないか?」

「ええ、今日も具合は悪くないわ」

記憶が完全に戻ってからの私は、以前ほど体調を崩さなくなっている。

「魔法は私が使うから、ラムは極力指示だけを出すようにしろ。魔力を消費しすぎると、また体調に影響が出るかもしれないからな」

「心配性ね。でも、あなたがそう言うなら、甘えさせてもらうわ」

転移した先では、レーヴル王国の兵士と、モーター教の兵士が睨み合っていた。

どうやらここが争いの中心のようだ。

シャールは全貌を見渡せるよう、私たちごと空中に浮かんで、周囲の状況を確認している。私とカノンは、シャールのおかげで魔法を使わなくても浮かんでいることができた。

フレーシュの魔法の影響が出ているせいか、かなり肌寒い。

私の様子を見たシャールが、自分の上着を掛けてくれた。

「別の場所へ移動するか?」

「大丈夫。フレーシュ殿下を探したいわ」

この寒さだ。あの子はきっと近くにいる。

眼下を見下ろしていると、モーター教の兵士たちのもとに何かが運ばれてきて、彼らが一斉に武器らしき者を手に取ったのが目に入った。

「あれは……!」

私はその武器を見て息を呑んだ。

五百年前にエポカというエルフィン族が広めたものと同じ魔法アイテムだったからだ。

過去にはあのアイテムが騎士や兵士や実力のない魔法使いたちに大量に配られ、皆がそれを使ったせいで国内は大混乱。

そして、アイテムから漏れてきた、大量の汚れた魔力の影響で、各地で災害が起こり、人々の体調にも影響が出ていた。

(なんであんなものがここにあるのかわからないけど、早く止めなきゃ!)

そう思った瞬間、兵士たちがアイテムを一斉に使用した。

(……っ! しまった!)

しかし、恐れていた変化は起こらない。

それどころか、魔法アイテムの武器から黒い煙が吹き出している。

(欠陥品だったの?)

五百年前のアイテムなので、上手に再現できなかったのかもしれない。

「母上、消火しますか?」

尋ねてきたカノンを見て、私は首を横に振った。

「いいえ、もう少し待って。あれは燃えているわけではないと思うの」

あの煙からは、火魔法というより、闇魔法の気配を感じる。

私は注意深く様子を見守った。すると……。

消え去った煙の中から、大量のハリネズミたちが飛び出てきた。しかも、皆、キラキラと体毛が光り輝いている。

「まあ、珍しい品種……」

「いや、どう考えても、何かの魔法が関係しているだろう。兵士どもの姿が軒並み消えているぞ」

横からシャールの冷静な指摘が入り、私もハリネズミを見てうきうきしていた心を落ち着ける。

「魔法アイテムは、兵士をハリネズミに変えるものだったということかしら?」

「そうとしか思えない。しかし、モーター教の奴らがそんな真似をするメリットはない」

「フレーシュの魔法かしら。でも、あの子らしくはないわね」

魔力量の多いフレーシュは、兵士をハリネズミに変えるなどという細やかな魔法は苦手なはずだ。どちらかというと、水魔法の大技で、相手を流し去るか凍らせるのではないかと思う。

「闇魔法といえば、得意なのはエペだけど。あの子がフレーシュに力を貸すとは思えないのよね。利害の一致でもしない限りは……」

でも、ギンギラのハリネズミたちから連想できるのは、やはりエペしかいない。

ハリネズミたちは、私の好みのど真ん中だ。

「可愛い。欲しい……」

「母上、正気に戻ってください。あれはもとモーター教の兵士です! うちでは飼えません」

「そうだぞ、ラム。あれは人間の男だ、ハリネズミではない」

二人に諭された私は、渋々ハリネズミを諦めた。

ハリネズミたちは混乱した様子で、あちこち動き回っている。

「はあ、可愛い。あら、フレーシュ殿下を発見したわ。それにエペも……」

私の声に、シャールが表情を曇らせる。

「あの男は、お前を攫った奴だな」

「ええ。仲の悪い二人が一緒にいるなんて、きっと何かあったのね」

私たちは彼らに近づいてみることにした。