軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

102:伯爵夫人と行方不明の聖人

こっそり寝台から抜け出した私は、風魔法でそっとシャールの袖を引いた。

そして、静かに振り返ったシャールに「魔法が解けた」と目配せする。

鋭いシャールは正確に私の意図を汲んでくれたようで、続けて双子に目配せした。

双子も彼の言いたいことがわかったらしく、揃って頷いてみせる。

メルキュール家の連携が凄い。

ついに魔法の打ち合いを始めた弟子二人を横目に、私たちは無事合流。私が魔法を発動させて転移を試みる。

エペが私の魔力に気づき、「あっ!」と声を上げるも、もう遅い。

私たちは一瞬ののちに今いる場所から転移した。

「で、どうして転移先がメルキュール家でなく、レーヴルの王宮なんだ?」

シャールが不満丸出しの顔で、私に抗議する。

現在、私たちは四人揃ってレーヴル王国滞在中に使っていた客室の中に立っていた。

「だって、私が誘拐されて間もないでしょう? こっちの人たちに無事を伝えておこうかと思って。予定ではテット王国に帰るのはまだ先の話だったし……」

私が攫われてから、既に半日以上が経過している。

「きちんと伝達をしておかないと、心配をかけ続けることになるわ」

後々メルキュール家の評判が悪くなるのは嫌だし、レーヴル王国の人たちとは互いに友好的でいたい。

「あと、虫かごに入れた聖人たちも回収しなきゃ。このまま放置したら、フレーシュ殿下が帰ってきたときに高確率で凍らされてしまうわ」

シャールがこれ見よがしにため息を吐いている。

それを見なかったことにして、私はキョロキョロと部屋の中を見回した。

聖人の入っている虫かごを探すためだ。

「おかしいわね。棚の上に置いてあったはずなのに、誰かが移動させたのかしら」

エペが魔法を使ったどさくさに紛れて、床に落ちてしまったのだろうか。

それとも、私のいない間に、フレーシュが処分してしまったのだろうか。

親切な誰かが別の部屋へ移したのだろうか。

「仕方ない、追跡魔法を……」

魔法を構築し始めたところで、ぐらりと目眩がし、傍にいたシャールにもたれかかる。

早くも今日の体の限界が来てしまったらしい。

(またなの!? あと一回は使えると思ったのに。エペの魔法を無理に解いたせいで、いつもよりも体力の消耗が激しいのかしら)

事情を察したシャールは黙って私を抱きかかえた。

「ひとまず、城の人間にこちらの事情を説明した上でメルキュール家に転移する。第一王子の従者は魔法使いが多いから理解はできるだろう。早くしないと、あの王子が戻ってきて、事態がややこしくなりそうだ。聖人たちは……また今度回収する。あれだけラムに傾倒している王子なら、聖人を凍らせはしても、勝手に殺しはしないだろう」

双子もシャールの言葉に同意する。

「シャール様と奥様はともかく、僕らは不法侵入だもんね。早く戻った方がいいよ」

「そうですね、色々疲れましたし。さっさと帰りましょう。そして休みましょう」

面倒くさがりなフエの本音がダダ漏れになっている。

おそらく、シャールも双子も私を助けるために、相当無理をしたのだろう。

魔法を覚えたばかりの彼らがエペたちを相手にするのは、本来ならかなり厳しいのだ。

ひとまず、シャールがフレーシュの部下に事情を説明し、誘拐事件や私の体の状態が悪いのもあって、転移でメルキュール家に帰れるようになった。

ついでに聖人入りの虫かごが発見されたら引き取りに行くことも伝えてもらった。

「ラム、これでいいか? さっさと帰りたいのだが……」

「ええ、ありがとう。大丈夫よ」

シャールの気遣いが嬉しい。

「エペとフレーシュが喧嘩を始めたら、数刻は終わらないわ。五百年前から彼らの喧嘩は長引くの」

「そうか。では、今のうちに転移するぞ。奴らを相手にするのは避けた方がいい」

どことなく悔しげなシャールは、危なげのない転移魔法を展開する。

そうして私たちは無事にメルキュール家の庭に着地したのだった。