軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逃げていても始まらない -9

「お前……魔王はどうしたの?」

『安心するがいい。ちゃんと保護しているさ……我が空間の歪の中でな。それよりお前こそどうした? 神をぶっ飛ばすのではなかったのか? 次のステージこそ、神に近づくための手段であると気付けない男ではあるまい?』

エステラーがそう問いかけると、鏡はめんどくさそうに溜息を吐く。

「くだらねえこと聞くなよな。神に挑むために、大事なもん失ってたら意味ねえだろ?」

『ほう……? 魔族がリセットされるべき作られた存在であると知っても大事であると?』

「生まれがどうとか、リセットの度に作られる存在だとかどうでもいいよ。今、この世界で自分の意志を持ってちゃんと存在しているあいつらが大事なんだ」

『やはり面白い男だ……この仕組みを知りながら、魔族の身を案ずるとはな』

鏡の返答にエステラーは満足そうに笑みを浮かべた。その佇まいを見て「いや、お前も魔族じゃん」と、特別な存在であるのはわかりつつも鏡はそうツッコむ。

「鏡殿……私は感動した! 魔王様に仕える身ではあるが、このメノウ、鏡殿に何かあれば命を賭して守ると約束しよう!」

「あ、じゃあ今後もカジノの運営よろしく」

「それのどこに命を賭す要素が?」

すっかり場に戦いによる緊張が薄れ、激変した空気感にダークドラゴンは困惑した表情を浮かべる。だが、すぐに鏡の内に秘める殺気を気取り、ダークドラゴンはすぐさま気を引き締めた。

『どうだダークドラゴンよ? 面白い男だとは思わないか? 場に応じて一時的に殺気を引っ込めたかと思えば、目的を果たすまでは戦う意思は消そうとしない。例え、自分の身がどうなろうとお構いなしにだ。こんな人間……見たことがなかろう?』

『面白いのはわかるが……先程からどういうことだ? どうやら面識があるようだが……魔王を保護しているだと? 嘘だらけとはどういうことだ?』

『説明がまだだったな。……この男は魔王様を倒してなどいない』

『ど、どういうことだ? 魔王の気配は感じられぬぞ?』

『説明すれば長くなるが……あまりにも到達者が現れぬため、そろそろ頃合いだと思ってな、二ヵ月ほど前にメシアを動かし、人間どもに危機感を与えて成長を促そうとした……が、この男に倒された』

『倒された……!? メシアを村人が!?』

『お前はまだ、この男の真の実力を知らないのさ。まだ、隠し玉を残しているぞ』

そう言葉を交わしながら、エステラーは鏡へと視線を向けて微笑を浮かべる。その視線を受けて鏡は、「ばらすなよ」と溜息を吐き、やはり魔王軍の襲撃はそういうことだったのかと苦笑した。

『これほどの力を持っていながらこの男はご存知の通り変わっていてな、魔王様を倒そうとしないどころか救おうとしたのさ。それ故、私は新たにルールを設けたのだ……一年間、誰にも魔王様を殺させない代わりに、一年以内に1万ゴールドを集めなければ再び魔王様を使って襲撃を開始するとな。そうすれば、この男は魔王様の命惜しさに必死に金を集めると考えた。集められるだけのポテンシャルは持ち合わせてもいたのでな』

「え、じゃあ何? 結局、俺をここに来させるために焦らせようと嘘ついてたってことか?」

『嘘ではないさ、私達もいつまでも来ない者を待ってはいられんのでな。一年が過ぎれば……予定通り私は魔王様を使い、新たな強き者が生まれるように促していたさ』

「ていうか……お前も魔族だからリセットされるんじゃねえの?」

『もうわかっているだろうが、私もダークドラゴンと同じこの世界の機能を保つべき存在だ……リセットはされん。もっとも、ダークドラゴン程に力はないし、リセットされる度に誕生する魔王様に仕え、魔族としてその調和を保つ立場だがな。まあ……今回のようなのが良い例だ。新たな動きがいつまで経ってもない時、私みたいなのがいないと困るだろう?』

そこまで聞いて、鏡はますますわからなくなる。この世界のその機能が、どうしてそれなのかという理由に。だが、それを聞いたところで恐らく、『次のステージに行った者のみが知れる』と言われ、はぐらかされる。それがなんとなくわかり、鏡は何も言わずに押し黙った。

『いや……なら待て、この者はこれ程の短期間で1万ゴールドを集めたというのか?』

『残念ながらそれも違う』

『では一体どうやってここに来たというのだ?』

『地上から穴を掘ってここに自力で辿り着いた』

『………………………………………………………………………………っ?』

エステラーの言葉を受けた瞬間、ダークドラゴンはその仰々しい竜の顔からでもわかる程の呆けた表情で固まってしまう。それから数秒間一切動かず、ようやく理解できたのか、大きく息を吐くと、小さく、『っふむ』とつぶやき――、

『すまぬ。もう一回言ってくれ』

と言って、信じられぬといった表情で再確認を行った。

『私もまさか、自力でここに辿り着くものが現れるとは思っていなかった。さすがの私も驚いたよ。再生する大地を前に、再生が追いつかぬ程の速度で掘り進むとはな』

『馬鹿な……あれは神が作りし仕組みの一つ! レベル500を超える勇者であろうと抜けられるわけが……!』

『その男は、一時的にだがレベル999の勇者と同等、もしくはそれ以上の力を発揮できるのだ。まさか……神もレベル999の勇者がわざわざ地面を掘ってここにくるとは思っていなかったのだろうな』

その言葉を受けた瞬間、ダークドラゴンは『レベル999の勇者!?』と叫び散らしながら、猛スピードで顔を鏡へと近づけ、まるで確かめるかのように鏡をあらゆる角度から見始めた。

『仕組みの抜け穴を通るのが得意のようでな。魔族が放つ魔力を抑える布といい……見ていて退屈せんよ』

『では……この者は神が与えた次のステージに行くための二つの条件を、どちらとも満たしていないということなのか?』

『そういうことだ。だが……これ程までの実力だ。わざわざその道を通らせる必要もあるまい? 条件を満たしたとして扱ってもよいのではないか?』

『……いや、ならぬ。お主も我と同じく神に作られし者ならわかるであろう? ルールには逆らえぬ。例えこの者がどれだけ強かろうがだ』

『だがダークドラゴン、お前も先程の戦いで見たであろう? この者の規格外の力を、希望を』

エステラーがそう言うと、ダークドラゴンは思いつめた様子で押し黙った。そしてその光景に、鏡は異様な違和感を抱いた。

まるで、ダークドラゴンもエステラーも、この世界の仕組みに縛られているかのような、助けを求めているかのような、そんな感覚。

ダークドラゴンが言っていた希望という言葉が鏡の脳内でエコーする。そして、その度に次のステージという存在が、気になって仕方がなくなった。

『どのスキルが与えられるかの条件は役割に関係している以外は不明で、ほとんど運で決まると言っていい……あのタイミングであのスキルを得たのは剛運だったとしか言えん。だが……運も実力の内。例え運であろうと土壇場で全てを覆し、己が信念を貫き通せる者こそ、真に我らが求めている存在なのではないか?』

『……むう』

『それに、魔王様が倒されていない以上。リセットする必要性もない……その男が抗う理由もなくなり、全てが噛み合う』

深刻そうな表情で会話するダークドラゴンとエステラーの間に緊迫した空気が流れ、メノウは思わず息を呑む。

「あの~ちょっといい?」

だが、そんな空気の中、いつも通りの声色で「はいはーい」と手をあげながら、鏡がダークドラゴンとエステラーの会話に割って入り込み――、

「どっちにしろ俺、今次のステージとかに行く気ないから、地上に返してくれない?」

あっけらかんとした態度で、会話のそもそもの主軸をぶった切った。