軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六章 本当に大事なのは、金じゃない

「クルル! サポートを頼む!」

「はい!」

ヴァルマンの街より少し離れた場所にある古の洞窟。伝説の聖剣が眠っていたその洞窟内で、レックスが緊迫した表情でそう叫び、クルルが自身の身体能力を強化する魔法をレックスに対して付与する。その瞬間、レックスの全身に仄かに青みがかった光が灯る。

「喰らえ! 我が拳を! 武闘家をも凌駕するこの連撃を!」

身体能力が先程より明らかに上がったのをレックスが確認すると、目の前で様子を窺って待機しているブルーデビルに高らかにそう宣言し、レックスは目にも止まらぬ速さでブルーデビルに飛びかかろうとする。

「はい、やり直し」

だが、すぐさま鏡が横から、飛び出そうとしたレックスの背にチョップを放ち、半分強引に地べたへと這いつくばらせる。

襲い掛かろうとしてきた人間が、横から現れた平凡な人間にチョップで地面に顔を埋め込ませるという不可解な状況に、ブルーデビルが一瞬びくつき、後ずさりした。

「な、なに……をする師匠」

グググっとゆっくりと身体を起こしながら、そう言って恨めしそうに鏡をレックスが睨む。背後では、どういうことなのかわかっていない様子でクルルがおろおろとしていた。

「素手で戦えって言った意味をちゃんと考えろよな。身体能力を強化する魔法を使ったら何も意味ないだろ? 相手より不利な状況で戦わないと経験値入らないんだから」

「いや、しかしだな師匠。ブルーデビルのレベルは93。僕のレベルは今91だから別に不利な状況で戦わなくても経験値は入るぞ」

「レベル差による経験値とは別に格上との戦いによる経験値が入るんだよ。それに、今の内に不利な状況の戦いに慣れてた方がいいぞ。今は俺が見てるからヤバくなったら助けるし、安心して戦えよ。早く強くなりたいんだろ?」

そう言われて、レックスは渋々とクルルに合図を送り、身体能力強化魔法の効果を解いた。それを確認した後、いつも着ているきらびやかな装備を外したみすぼらしい旅人の服装をしたレックスが、ブルーデビルに向かって飛びかかる。

その瞬間、ブルーデビルが三又の槍をレックスに向かって突き出すが、レックスはそれを頬に触れるか否かの寸前のところで回避し、ブルーデビルの胴体に殴打を打ち込んだ。

「やったかっ!?」

綺麗な一撃がブルーデビルに入り、レックスは軽く吹き飛んだブルーデビルに視線を向けるが、その瞬間、ブルーデビルが放った魔法により顔面が燃え盛る。

「うわぁっちゃぁぁあ! 熱! 熱!」

いつもの気取ったキャラが台無しになる勢いで暴れ苦しむレックスを見て、クルルが慌てて水球を作り出す魔法をレックスの顔面にぶちまけて、すぐさま回復魔法で治療を行う。

「格上が相手なんだから一撃で倒せる訳がないだろ……油断せずに根気入れてヒット&アウェイの繰り返しで倒すんだ」

髪の毛が燃えてチリチリになったレックスを見て、鏡はアリスから受け取ったお茶をすすりながらそう呟いた。

現在、鏡達はヴァルマンの街で再び発行された古の洞窟周辺にいるモンスターの討伐依頼のクエストをこなすため、再びこの古の洞窟へと訪れていた。ブルーデビルの討伐を含めて12種のクエストを鏡は今日の明朝に受け、日が暮れ始めた現在、既にブルーデビルの討伐以外のクエストは鏡が次々にモンスターを倒しまくり、全て完了させている。

高レベルでレベル差による経験値を得られるブルーデビルの討伐のみ、レックスとクルルが強くなるためという理由で二人に任せ、こうして鍛えるために指導を行っている。

というのも、形式的にもそうしないと、今回のクエスト達成に監視という名目で同行しているデビッドに疑念を抱かれてしまうからだが、レックスとクルルにとってはむしろ好都合だった。

「あの……私はこうして回復魔法を掛けているだけでいいんでしょうか?」

疑似的にだが、クルルがレックスに回復魔法を絶え間なく掛け続けることで、鏡と同じ自動回復の効果をレックスは得ている。これにより、レベル差による経験値はレックスとクルルで分配されることになる。だが、格上との戦いによる努力値ともいえる経験値はクルルには入らず、レックスは得ることが出来る。

回復は、あくまで能力的に不利な状況を維持したまま命を繋ぐだけの行為のため、手助けとはいえど経験値として加算される。傷つき、打ちのめされ、回復を行うことで命を繋ぐ。まだ鏡が低レベルだった頃は、街の僧侶に依頼してこうしてレベルを上げていた。

「まあ、レベル差による経験値しかもらえなくなるけど、クルルはまだレックスみたいに伸び悩んでいないみたいだし、それで少しずつ強くなったらいいよ」

「ですが……これだと私が王都の兵士達に強くしてもらっていた頃と変わりありません!」

「いやーまあ、そうかもしれないんだけどさ」

鏡はどこか気まずそうに頭をポリポリと掻くと、そう答えを返す。言葉にしていいものなのかどうか思い悩んで一度お茶をすすると、その様子を見てデビッドが一歩前へと出た。

「クルル様。鏡様は恐らくですが、あなたをご心配なされているのです」

「私を……ですか?」

「クルル様はレックス様とは違い女性の身、さらには賢者も前線で立つ役割ではなく、僧侶や魔法使いと同じく敵の攻撃に打たれ弱くあります。鏡様のお話を聞く限り……この格上との戦いは常に危険が伴い、強くなるにも回避出来ない苦しみが必ず訪れます」

「ですが、鏡さんは私よりも更に打たれ弱い村人の役割でここまで来たではないですか」

納得がいかないのか、しかめた顔でクルルがそう言うと、鏡がどこかバツが悪そうな表情で「いやでも、女の子だしな……痛い思いとか、怖い思いとか無理にさせたくないって言うか……なんていうか」とブツブツ呟く。そしてその言葉が微妙に聞こえたのか、クルルは少し頬を赤くして、鏡が気遣ってくれていることを嬉しく思った。

「し……師匠、女の子だからと言って、僕と、扱いが……違いすぎないか」

「お前は男の子だしな」

ブルーデビルと殴り合ったのか、顔が所々腫れあがったレックスが、よろよろと鏡の肩をポンッと叩いてそう言うと、鏡は「頑張れ」と言わんばかりの満面の笑みでそう答えを返す。

正直なところ、鏡がクルルにあまり無理させたくなかったのは、女性だからというのもあったが、その苦しみに耐えられないと感じたからだった。

レックスは不純な動機も少しはあるとはいえど、それに耐えうるである覚悟と信念、そして志がある。現に今、うだうだ言いながらも、躊躇うことなく立ち向かっているのが良い証拠だった。鍛えるために気遣いをしないのは、鏡がレックスを買っているからだった。

そしてクルルには恐らく、その芯となるものがない。

それに、そもそもレベルがまだ45であるならば、無理してそんな戦いをせずとも、賢者ならこの段階でまだ楽に強くなる方法があるため、それで上げれば良いと感じていた。

「私がこの旅を始めた時、まだレベルは42でした。それがまだ……3つしか上がっていないんです! 3つだけですよ?」

「そりゃ……そんなに多く戦わずに過ごしていたならそうだろ。しかも旅を始めたのって二ヶ月前の事だろ? 焦る気持ちはわかるが落ち着けよ、今日はレックスの番だけど、ちゃんと強くなるための方法は考えてるからさ」

「……約束ですよ?」

「ああ、約束だ」

「ちゃんとレベルが200になるまでは面倒見てくださいね?」

「え? あ……う、うん。ヤクソクデスネ」

鏡はそう言うと全力で目を逸らした。その不審な行動にクルルが詰め寄ってじーっと疑うかのような視線を向け「どうして視線を逸らすんですか」と吐きかける。だが、それでも鏡は視線を合わせようとしなかった。

その傍ら、回復の手が止まり、どんどんボコボコになっていくレックスを見て、アリスが慌ててポーションをレックスの口元へと運びに向かう。そのアリスの慌てっぷりでようやく気付いたのか、レックスの惨状にクルルは血の気を引かせるとすぐさま「ご、ごめんなさい!」と叫んで、レックスの回復へと向かった。

「ほほ、戦いの指導は見事な手際ですが、女性を心を誘導する術は心得てないようですな」

「うるへー、ていうか監視ってここまでする必要あるのか? ちゃんと頼んどいたカジノオープンのための準備はしているんだろうな? もう明後日だぞ?」

「ぬかりございません。全て完了させています。今日は一日暇になったので付き添ったと言っても良い程でございます。無論監視も仕事故に必須ですが」

愉快そうに品のある笑いをデビッドはすると、鏡は喰えねえ奴と溜め息を吐いた。

カジノオープンまで明後日に控えていた。デビッドが来てからというもの、オープンまでの準備は一足飛びに順調に進んで行った。むしろ、デビッドがいなければ駄目だったかもしれないと思える程の手際の良さで、準備が行われた。

カジノで使うための用品の取り揃えと機具の作動チェック。ルールの把握とスタッフへのルール把握。景品の取り揃えとレートの取り決め、スタッフ達が働く日程や勤務時間まで何から何までやってくれた。

そうなると後は、タカコにバーや居酒屋関係の取り仕切りを任せ、教会のことはティナに任せるだけで良い。鏡が本来やっておかなければならないことのほとんどを、デビッドが肩代わりしてやってくれたのだ。

「正直感謝してるよ。監視とか言ってて最初ヤバい奴が来たと思ったけど、あんたがいなかったらやばかったと思う」

「ほっほ、私だけの力ではございませんよ。タカコ様でしたか? あの方も随分と手際よく、更には自分から荷運び等を手伝い、スタッフに任せっきりではなくお仕事に向かっておりました。スタッフからの信頼も厚く……あの方こそ男の中の男というに相応しい」

「え? タカコちゃんは女だよ?」

「え?」

「ん? いや、だからタカコちゃんは女性だよ? ピンク色の道着、着てたでしょ?」

「恐れ入ります。あれは女性と呼べる代物ではございません」

「タカコちゃんがここに居たら間違いなく死んでたから、早く現実受け入れてね」