作品タイトル不明
激闘結婚式の後日譚-2
既に何度も試行錯誤したのが窺える鏡の無表情を前に、メリーはそれ以上何も聞かずにカップを口に運ぶ。
「あら? ていうか油機とメリーちゃんじゃない? いつこっちに来たの?」
「久しぶりだな、油機殿にメリー殿、息災だったか?」
「その流れから、さも当たり前のようにこっち来んじゃねえよ」
ジト目で鏡を見つめていたパルナとメノウが、二人を見つけるや否や顔を明るくして傍へと寄る。三角座りをしていたアリスも、何食わぬ顔で二人の後をつけてヒョコヒョコとこちらに来たため、本当にこれが日常的なことなのだと、メリーは鏡に少しだけ同情した。
「どうしたの? 遊びに来た……ってわけでもないんでしょ? あれだけ忙しいんだから」
「え? なんでパルナが外の忙しさを知ってるんだよ」
「そりゃ、レックスと一緒にたまに手伝いに行ってるもの」
知らなかったのか、鏡はすぐさま羨ましそうにパルナを見つめる。
「ほら、そういう顔するからあんたには黙ってたのよ」
「え……マジで? 俺だけのけもの?」
「ばれちゃったから言うけど、皆暇な時は外に手伝いに行ってるわよ? なんなら二時間くらい外に行って戻ってきたりするし」
「かつては外に出るのに1万ゴールドを手に入れるか、魔王を倒すしかなかった鬼門が、ピクニック感覚でいけるなんて、平和ってすごい」
チラッと鏡がメノウとアリスに顔を向けると、どうやら同じく手伝いに行っているのかサッと視線を逸らした。
「それだけ大忙しなんだよ。ロイドとフローネなんか、デートする暇もないくらい世界各地を回って復興のために頑張ってるんだぞ」
とは言いつつも羨ましいのか、舌打ちをするメリー。
「あいつらは、いつの間にそんな関係に……?」
「なんだかんだでお前、結構な時間いなかったから知らないだろうけど、色々と進んでるんだよ」
「なんか寂しいなそれ……そういやピッタとか全然顔を見せに来ないし、あいつ今どんな感じなんだ? 元気にやってんのか?」
「毎日会いたがってるぞ。でも、お父には復興した後の街を見てもらいたいって、会うのを我慢して頑張って手伝ってんだ」
素直にそれは嬉しかったのか、鏡は満足そうに笑みをこぼす。
その後すぐに、少し寂しそうに顔を俯かせた。そんな鏡の表情を見て、メリーは辛そうに溜息を吐き出す。
「言いにくいな……ぶっちゃけるとパルナの言う通り。遊びに来ただけじゃねえんだ」
「おいおい今さらなんだよ? 隠し事するような仲でもないだろ?」
「じゃあ遠慮なく言うけど、お前のことについて、セイジから伝言を預かってる」
メリーがそう言って切り出すと、油機も同じように顔を俯かせる。
その素振りだけでよくない話であることに気付いたが、鏡は話を続けるように促した。
「お前の身体が治る見込みは、ない……そうだ」
遠慮なく告げられたその言葉に、鏡ではなく、鏡の傍に立っていたアリス、メノウ、パルナの三人が顔を曇らせた。対して鏡は、既に覚悟はできていたのか表情を変えずにいる。
「もう少し……悲しそうな顔しろよ」
「決めてたからな、どんな結果でも受け入れるって」
「そんな簡単に……受け入れられるわけないだろ」
「受け入れられるさ、俺はもう……死んでるはずなんだよ。ここにいられること自体がそもそもおかしいんだ」
言葉通り大きなショックを受けていないのか、すかした笑みを浮かべながら鏡はコーヒーカップを口につける。
「あの戦いの時、あの最後の瞬間……俺は、自分の全てを、命すらも燃やして挑んだ。それほどの相手だったんだよ、デミスは。…………俺の命と引き換えに倒したはずだったんだ」
なのに、まだこうしてここにいられることがむしろおかしいと鏡は感じていた。
それでも生きている以上、寂しさを感じないというわけでもなく、鏡もたまに思いふけって寂しくなってしまうことがある。それだけの話だった。
「ちょっと待ってよ、セイジの話だと回復に向かってるって話だったでしょ!?」
「むぅ……私もセイジ殿からそう聞いていたが」
鏡とは違い、パルナとメノウは受け入れられないのか声を荒らげる。
「回復に向かってたけど、そのまま向かい続けるとは限らないってこった」
「肉体の原型は元に戻せたんだけど……見た目だけ、中身はズタズタのボロボロで動かすことすらできないって……セイジさんが」
メリーと油機も報告役を買って出たものの、まだ信じられないのか顔を暗くする。
それだけ一同の中で、鏡は殺しても死なない、スーパーヒーローのイメージが強かったからだ。
そのスーパーヒーローが二度と立ち上がることがないという事実に、顔を暗くしないわけがなかった。
「クローン技術を使えばなんとかなるのではないのか?」
「そんなの、セイジがやってないわけがないだろ? そもそもクローンはセイジや來栖や私みたいなただの人間を量産する技術であって、アースクリア出身の進化した人間に使える技術じゃねえ」
「しかし……私の身体も0から何度も作ったのだろう? 魔王様の身体すら作れたのだ……治せないわけが」
「魔族を現実に生み出す技術は、來栖が作ったもんだからセイジじゃ応用するのに時間がかかる。それに魔族はスキルを持たないから身体の構造は私たちただの人間に近いんだよ。何より……」
「……何より?」
「鏡の身体は進化したアースクリアの人間より、さらに複雑らしい。詳しくは知らねえけどよ……身体の構造が、なんていうかな」
「人間じゃない」とは言えず、メリーは途中で口を閉じる。世界を救った英雄に、人間じゃないなどと、冗談でも口にしたくなかったからだ。
だが、だからこそセイジも鏡の身体を治癒できずにいた。
人間じゃないからこそ、未知の肉体構造だからこそ、これまで培ってきた知識が何の役にも立たないのだ。超人でもなく、ヒーローでもなく、サイボーグでもなければミュータントでもない――それを超えた何か、それを何段階も超えた進化した存在になってしまったが故に、手の施しようがないのだ。
「セイジが言うに、スキルの効力を失っている理由がわからないのが一番致命的らしい。イモータルリカバリーが発動すれば、何とかなるんだろうけどな」
「ただの身体に入れ替えて外に出ることは不可能なのか?」
「それは前にも説明しただろ? 精神と肉体が一致せずに拒否反応を起こして、最悪そのまま死んじまう可能性があるって。というかほぼ間違いなく死ぬ」
すがるようにメノウが聞いてみるが、良い答えは返らず、「……むぅ」と項垂れる。
「……話の続きがあるよね?」
「あん?」
そこで、何かに気付いたのか、強い口調でアリスがメリーに問いかけた。
「治る見込みはない……それだけをわざわざ伝えにくるセイジさんだとは思わないし、治る見込みがないからって諦める人だとも思わない」
それは、パルナとメノウも思っていたことだった。
だからこそ、他に方法があるのではないかと、先程から何度もしつこくメリーに問いかけていたのだ。
そして言葉通りなのか、メリーは鼻で軽く笑って油機と顔を見合わせる。
だがその表情は、決して朗報を告げる明るいものではなかった。