軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

激闘結婚式の前日譚-3

「それでいったい誰を殺すつもりなんです?」

鏡が問いかけると、タカコは照れくさそうに頬に手を当てる。

「んふ、もう! 決まってるじゃない! 言わせないでよ♡」

「グハァァァァァア!」

「か、鏡さぁぁぁん!」

そしてタカコのセクシーポーズからのウインクのコンボを喰らって、鏡は地面へと崩れた。

「あら、どうしたの鏡ちゃん? 心不全?」

「……きっと疲れてるんですよ。私が運んでおくのでタカコさんは休日を満喫してください」

「そう? 悪いわね」

崩れた鏡を見て、これを倒すのも、自覚させるのも無理だと早々に諦めをつけたティナは、鏡に肩を貸して早々に場を立ち去る。

「すみませんデビッドさん……私たちの手には負えません」

そのままティナは、鼻歌まじりに休憩室へと向かうタカコを見送り、とりあえず休憩室以外で座ることのできるカジノ内の受付へとスタッフ専用の通路を通って向かう。

きっと今頃、逃げ場のない休憩室でタカコに殺されているだろうデビッドを脳裏によぎらせ、悲しみに満ちた顔で二人は通路を歩いた。

「あら? あんたたち…………随分と仲がいいのね? いつの間にそういう関係になったの?」

その道中、補給のためにカジノのメインホールから出てきたのか、台車を引いてドリンクを配る仕事をしていたパルナと出くわした。

胸元にまで伸びたウェーブのかかった艶やかな紫色の髪は、カジノスタッフの制服とよく似合っており、元々スタイルが良いのもあって男性客からの人気が高い。それ故、パルナがドリンクを運ぶといつもすぐになくなるのだった。

「そう思っているわりには、随分と落ち着いていますね」

からかわれるが取り乱さず、ティナはため息交じりにそう返す。

「そう思っていないから落ち着いているのよ、とりあえず言っとかないと損じゃない?」

パルナはそう言うと、台車にもたれかかりながら悪戯な笑みを浮かべた。

「よくないですよそういうの、純粋な人なら、その言葉で勘違いだってするんですから」

「そういう勘違いする人は、見た段階で勘違いするから大丈夫よ」

「いや、さすがに肩貸してるくらいで勘違いなんてしないでしょう」

「あら、そうかしら?」

ニッコリと笑みを浮かべてパルナが背後に指を差したため、振り返るとそこにはディーラーの仕事を終えて使用済みのトランプの廃棄と、道具を戻しに通路を歩いていたクルルが立っていた。

綺麗な藍色の髪をくくり、ポニーテールにした姿は貴族の男性からも、庶民からも受けがよく、王家の人間であることをばれないようにつけていた仮面を、「もう今さらだ」と父親であるシモンと現王であるクルルの姉、ニニアンが外すことを許可してからは、さらに人気が増している。

そんなクルルが髪を口に咥えながら、虚ろな瞳でティナを見つめていた。

「怖っ! クルルさんが怖い!」

クルルはその後、数秒間ほどティナを見つめた後、踵を返して何も言わずに立ち去ってしまう。

「急がないと……泥棒猫さんが増えるばかり、仕方ないですよね……だって鏡さんは英雄中の英雄……………アリスちゃんに一歩リードされている今、とやかく言ってイル場合ジャナイ」とぶつぶつ呟きながら。

「えぇ~……なんか呪いをかけられた気分なんですけど。肩を貸していただけなのに」

「クーちゃんも焦ってるんじゃない? アリスに先を越されたみたいだし……鏡がこっちに戻ってから、貴族も庶民も関係なく鏡目当てで女が集まってるからね」

「それってレックスさんも同じですよね」

「……そうなのよ、色目ばっかり使う媚びた女が毎日毎日……遊びに来たんじゃないのなら迷惑だからとっとと帰れっての…………あいつはまだデレデレしないからいいけど」

「パルナさんもなんか怖いんですけど」

そこでふと、以前にアリスから「結婚してほしい」と言われ、鏡がなんて返したのかがティナは気になった。だが、二人の問題に首を突っ込むのは無粋かと思いティナは考えるのをやめる。

鏡は声をかけてくる女性をいつも適当にあしらっているため、万が一のことはないはずだったが、どう転ぶかは誰にもわからない。

ティナも、鏡がアリスとクルル以外の誰かと恋仲になるのをできれば想像したくなかった。

とはいえ、何が起きるかはわからない。

実際、たった今クルルが背後から好意による嫉妬をぶつけていたことに気付いているはずなのに、何の反応も示さない鏡が何を考えているのかわからなかった。

何故聞こえていない振りなどをしているのか? クルルが不安に思うのも仕方がないと思えてしまう。

「ところで何があったの? デミスに何度殺されかけても立ち向かった英雄の姿とは思えないんだけど……………………まあどうでもいいけどね」

「どうでもいいのかよ。ちょっとは気になれよ」

「あら、起きてたの? だってあんたの悩みっていつもくだらないんだもの。たいていのことは自分一人でなんとかしちゃうし」

「いやいや、今回は俺の力の及ばない……ガチやばの問題なんですよ。タカコちゃんとデビッドがね?」

話題が変わった瞬間に水を得た魚のように喋り出したのを見て、ティナはなんとなく察してしまう。やはりわざとそうしているのだと判断をつけると、それ以上考えるのをやめた。

結局は、本人たちの問題だからだ。

「ん? 師匠、それにパルナとティナも……何があったんだ?」

「随分とげんなりしているようだが…………まさか」

そこで、クルルと同じく仕事を終えて道具を戻しにきたレックスとメノウがやってくる。

レックスがやってくるなり、パルナが慌てて髪の乱れを整え直したのを見て、ティナは少し頬を緩ませた。鏡とは違い、こちらはわかりやすかったからだ。

「レックスお前、もう戦いも終わったんだし師匠って言うのやめろよ、もう戦うための何かを教えることもないんだし」

「いまさら師匠と呼ばなくなるのも呼びづらいだろう、師匠はこれからも師匠だ。それに僕はまだまだ強くなるつもりだぞ?」

「強くなってどうするんだよ?」

「どうするかとかじゃないんだ。ただの自己満足なのさ、師匠に追いつきたいという自分の気持ちのな」

「なるほど? いいこと言うじゃん」

戦いの日々は終わり、それぞれに少しずつ変化が現れている。

それをティナは日を追うごとに強く感じるようになっていた。

今、パルナが見せた反応もそうだった。

死ぬかもしれない戦いの日々を送っていた時には、決して見せなかった自分の気持ちに正直になっているのがわかる仕草。レックスも言葉では強さ強さと言っているが、前のように強さに執着することもなくなった。

それもこれも、それぞれが自分の未来を自由に考えていい世界になったからなのだ。

「ん? どうしたティナ殿? 妙に満足そうな顔をしているが……」

「いやぁ~平和だなぁって思いまして」

鏡が何を考えているかはわからないが、心配はしなくてもいいとティナは判断した。

何故なら今のこの世界を望み、実現したのは他でもない鏡自身だからだ。

きっと今は何か理由があって誤魔化しているのだろうが、白黒はっきりつけずに自由を奪うような真似はしないだろう。そう信じて、暫くはこのやる気を失った男が過ごす日々を見守ることにした。

きっとその内、暇じゃなくなるようなやりたいことも見つけ、今抱えている問題もこれまでのように綺麗に解決してくれるだろう……そう信じて。