軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ-3

「全く……騒がしい連中だ……人間の王族は騒いでいないと気が済まんのか? もう少し、アリス様のようなおしとやかさを見習ってだな……」

アリスたちのいる場所からそう遠くない位置で、ポーカーのディーラーを行っていたメノウが、どこか楽しそうにしているアリスを見て、羨ましそうに嫉妬深い顔で呟く。

「そんな顔で言っても説得力がないぞ? というか……別にいいじゃないか、この日々を手に入れるために、僕たちは頑張ってきたんだろう?」

「まあそうなのだがな?」

ディーラーについているメノウのサポートとして同じテーブルについていたレックスに諭され、どこか不満そうにしながら、メノウはお客にカードを配った。

「ところで……レックス殿はいいのか? このままここで働き続けるつもりなのか? 私は、アリス様の傍にお仕えするためにここにいるが……貴殿はここに残る理由もなかろう?」

ディーラーとしての勤めを果たしながら、メノウはレックスに問いかける。

「ずっとここに居続けるつもりはないが……いずれ何かしたいとは思っている。チクビボーイ家の立て直しのためにも色々と…………それと」

そう言いながら、レックスはパルナをチラッと見た。最近、以前にも増して一緒にいる時間が増えたため、そろそろ想いを告げてもいいのかもしれないと悩んでいる。

しかし、アリスの面倒を見るためにと断られたらどうしようなどと考えてしまい、勇者であるのに勇気を出せていない。

「まあ、焦る必要はないさ。これから先、自由な時間はいくらでもあるんだからな」

そして、自分に言い訳をするように新しいトランプの封を切ってメノウへと押しつけた。

「これからは、力を必要としない世界だ……そうだろう?」

その言葉に、メノウも微笑で返す。

「だがそれでも、競い相手がいなければ張り合いのない人生になる。そこでどうだレックス殿? どちらの方がディーラーとして腕を高められるか、一勝負してみないか?」

「面白い、いいだろう」

戦いの必要のない世界で新たなやりがいのある人生を見つける。それは戦いしか知らない二人にとって簡単なようで、とても難しいことだった。

それでも、常に張り合える相手がいるのであれば苦痛ではない。それを、今回の旅で知った二人は今後、色々な可能性に挑戦して難なくこなしていくだろう。

そんな二人の友情が羨ましく、パルナはどこか嫉妬深そうに遠目に見つめる。

「ほらパルナさん、ボーっとしてないでお客さんの相手をしなきゃ」

「わかってるわよ! ったく……それにしてもあんた最近ご機嫌ね、こっちに戻ってきたばっかりの頃はくよくよしてたのに、ようやく吹っ切れたのかしら? それとも彼氏でもできた?」

「彼氏ができた……って、言ったら?」

「メノウと一緒にボコボコにしに行くわ」

「うわぁ」

パルナの返答にも苦笑いを浮かべたが、彼氏と聞いて、目の前に並んでいたアリスのファンたちが鬼の形相で耳をピクピクと動かしたのを見て、アリスは身体をびくつかせる。

「で? なんなわけ?」

「この前ね、嬉しい知らせを聞いたんだ。だからボク、ずっと待ってるの」

「……誰を?」

「もうすぐね、帰ってくるんだよ」

その人物を想像してか、アリスは太陽のようにはにかんだ笑顔を浮かべた。

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「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダァァァァァァァァァ!」

「暴れないでください、手元が狂うでしょう」

「目がぁぁぁあ! 目がぁぁぁぁぁあああ!」

「だからシャンプーをしている間は目を瞑りなさいとあれほど……」

アースクリア内、ヘキサルドリア王国の貧民街の一画に建てられた新しい孤児院で、お風呂を嫌がる小さない少年の髪を、ミリタリアは逃げ出さないように手で抑えつけながらわしゃわしゃと洗う。

「ミリタリア先生もうちょっと優しく洗ってくれよぉー、泡立てないようにとかさぁ」

「無茶なことを言いますね。自分で髪を洗えないと言うから手伝っているというのに……あまり我儘を言っていると三時のおやつは無しにしますよ?」

睨みを利かせた脅しで子供がおとなしくなると、ミリタリアは慣れた手つきで泡を洗い流し、少年の髪の水気をタオルで拭き取る。

「すまないな、お前にまで手伝わせてしまって」

ようやく全ての子供たちを風呂に入れ終えると、いつもの貴族服ではなく、平民が着用する平凡な布の服に身を包んだシモンが、外で子供たちが使う布団を干すのを終えて、コーヒーカップを両手に姿を現した。

「いえ、我が王のためならこれくらい…………使命を終えたとはいえ、私にとってあなたは崇拝すべきお方であることは変わりません。まさか、孤児院を建設するとまでは思いませんでしたが」

「ずっと……ここにいる者たちが気になっていたのでな」

「今も気にする必要はなかったのではないですか? あの戦い以降、他者から奪う必要もなくなり……この貧民街も治安がよくなったではないですか」

デミスに勝利した今、アースクリアの存在理由はなくなった。とはいえ、これまでずっとアースクリアで暮らしていた者たちが、アースの未開発の土地に放り出されて生きられるわけもなく、暮らしたいと思うわけもなく、そのまま第二の故郷として残されることになった。

より早く、アースへと強い冒険者を輩出するために三倍の速度で成長を促していた機能もなくなり、今ではアースクリアとアース間をいつでも行き来できるようになっている。

無論、この半年間で全てのアースクリアの住人の身体を完全に調整できたわけではなく、時間の間隔だけ肉体の調整を施しており、アースへと行くことを希望すれば、アースクリアへと繋がるカプセルの中に入っていなくても活動できるよう、調整を施してくれることになっていた。

多くの者にとって新世界であるアースで、新しい人生を始めようと出て行った者もいるが、アースクリアに残っている者は多い。

強い人間を作り出すために弱い者が死ぬ必要がなくなったため、アースクリアもまた、危険のない平和な世界になっていたからだ。

金銭の巡りがこれまでと変わらないようにモンスターなどは未だ存在し、倒せばこれまで通りに経験値もお金も手に入るが、死にそうになれば自動でモンスターは人間を襲うのをやめるようになり、また、モンスターから人間を襲うことも一切なくなった。

これまで死の恐怖に怯えてモンスターを避けていた多くの者たちもこれを機に挑み始めたが、結局死にそうなくらい痛いのは変わらないため、結局断念している。

だがそんな者たちに対しても、どんな者でも身分を問わずに働ける労働施設がセイジの手によって設けられ、冒険者たちがクエストをこなすように労働することで報酬が支払われるようになったのだ。

そのため、貧民街にいた働き口のなかった者たちも、普通の暮らしができるようになった。

「大人はいいかもしれん。だが、環境が変わったとはいえ、まだ幼きあの子らにはきつい話よ」

誰でも労働ができるようになったとはいえ、親を失い、文字の読み書きのできない子供たちにとっては変わらずこの世界は不便だった。ある程度、自分でなんでもこなせるように教育する必要があると感じたシモンは、こうして孤児院を開いたのだった。

これまで、多くの者を利用してきた人生の償いに、今後は多くの者たちの可能性を導こうと。

もう、この世界は誰かから奪わなくてもいい世界だから。

「まさか、ヘキサルドリア国王自らが孤児院の運営を行うとは、あなたの今のその姿をいったい誰が想像できたのか」

「残念ながら今のワシは国王ではない。ただの貴族のおいぼれだ」

「ミリタリア先生~」

「それに、そういうお前も随分となつかれているではないか?」

子供に名前と顔を覚えられるくらい、ミリタリアも孤児院へと足を運んでいた。

これまで、シモンの使命に心酔するあまり、多くの子供たちを戦うための道具とし、道具にもならない邪魔な存在であれば自分の息子でさえ手にかけた。だが、これからはそんなことをする必要もなくなる。

「まあ……罪滅ぼしだと思ってください」

「ふむ……まあお前も、ワシとそう変わらん理由なのだろう。ワシたちは……奪い過ぎた」

「その終止符を打ったあの男には、感謝しなければなりませんね」

そんなミリタリアの息子の墓には、欠かさず常に綺麗な花に包まれている。