軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化し続ける存在-10

「俺がおとなしくお前に喰われるとでも?」

『我の鎧では無理だろう。しかし……我自身であれば話は別だ。小娘の力を得た今、お前を捕らえ、身動きさえ封じれば……我の核は確実にお前の力を奪う。ほんの数十分でな』

そして、既にその準備はできているのか、不気味な光を放ち続けるデミスの核から、さらに触手が無数に生え伸び、鏡の周囲を囲う形で停止する。

「鏡さん!」

危険を感じ、ロイドは取り乱して叫んだ。

鏡を失うだけでも希望の象徴は失われる、なのに鏡の力を手にしたデミスが加われば、人類に助かる道は存在しなくなる。全てがそこで終わってしまうだろう。

それだけは、防がなくてはならなかったから。

『無駄だ……そもそもこの戦いは最初からお前たちの敗北が決まっている。絶望の中、生きぬく活力を得るためにこの者をお前たちは希望としたのだろうが……この者は希望ではない。ただ、我に吸収されるために生まれただけの存在、希望という名のまやかし』

「師匠を……舐めるなよ!」

「そうよ……鏡ちゃんはどんな絶望の中でもいつだって希望を掴み取ってきた男よ!」

「その通りだ…………ただ喰らうことしかしてこなかった怪物に計れる存在じゃない!」

いくら無駄と言われても、それで納得するわけがなかった。

いつだって鏡は、やるだけ無駄と言われるような、決して越えられない壁でも乗り越えてきた。

どんな逆境も乗り越えてきたからこそ、こうして今ここにいるのだ。

レックスも、タカコもメノウもそれを知っている。

だからこそ、なんと言われようと鏡を信じた。鏡が死ねば終わりなのであれば、その終わりがくるまでは絶対に諦めてなるものかと。

『絶対的な存在がいる前において……希望は慰めでしかない。我の一部となった小娘も、いつも希望にすがっていた。「來栖なら、きっとなんとかしてくれる」と、ありもしない希望で自分を慰め続けて……我に必死に抗っていた』

聞きたくない事実だったのか、來栖は悔しそうに歯ぎしりを見せる。

そうやって待ち続けてくれたリーシアに、今、何もしてやれない自分があまりにも情けなくて。

そんな悲痛な表情を浮かべる來栖を前に、鏡は無表情のまま周囲を囲んだ触手を一瞥する。

『結末は変わらない』

一同はあがいた。デミスの言葉通りにしてたまるものかと。しかし、何もできなかった。

ロープサイズの触手で巻きつけられただけのはずなのに、どれだけ力を入れてもビクともしない。ロイドとレックスでさえも、どれだけ力を籠めても、動きすらしないのだ。

それでも、諦めなかった。

鏡がまだ生きているからというだけではなく、諦めたくなかったから。

「何でだ? 誰が決めたんだ?」

その瞬間、鏡の周囲を覆っていた全ての触手が、風船が破裂するかのように消し飛んだ。

「よく、考えたのか?」

続いて、ロイドたちの身体を縛っていた触手が、一瞬のうちに消し飛ぶ。

「俺たちが……希望にすがってここまで来ただなんて…………本当に思っているのか?」

『事実だ。この戦いも、お前が居たからこそ始まった戦い。そうであろう?』

「違う」

鏡は一瞬の間を置かずに言葉を叩き返した。確信を抱いた、悟った表情で。

「確かに……希望を見出したから戦おうとした奴らもいたかもしれない。俺がいるからきっと勝てるって、希望を信じて、すがった奴らもいるかもしれない」

その言葉と共に鏡から、少しずつ空間を震わせる闘気が溢れだす。

「でもそれは、その一瞬でしかなくて……もし俺がいるから戦っていたんだとしたら、俺が死んだことになった時点で……皆諦めていたはずなんだ」

『お前が生きていることを信じただけのこと』

「違うね、違うって断言できる」

その場にいた全員が目を疑った。鏡の全身から溢れ出した異様な力に。

「ここにいる皆も、外で今も戦っている連中も、あるかもわからない俺という希望にすがってこんなところまで来たわけじゃない!」

静かで、でもどこか恐ろしく暴力的で、見ているだけでどこか悲しくなってくる。

そんな、身体ではなく、心を震わせる翡翠色の闘気を放っていたから。

「認めたくなかったから、そんな理不尽が許せなかったから、悔しかったから……ふざけんなと思ったから皆、皆ここに来たんだ! 恐怖を乗り越えて、強くなろうと変わり続けたから…………お前に立ち向かえたんだ!」

その闘気は揺れていた。波のように静かに美しく、鏡の髪の毛を炎のように揺らめかせて。

「希望なんて簡単な言葉で片付けるなよ。誰もまやかしなんか見ちゃいない、勝てるかもなんて浅い希望だけでここにいない! デミス……お前が! お前という理不尽を認められなかったから………お前という絶望受け入れられないから! 無様に抗うためにここにいるんだ!」

何が起きているのかわからず、その場にいた一同は言葉を失ってその不思議な色をした闘気に目を奪われた。

「魔…………力?」

その時、鏡から放たれる力にくすぐられて目を覚ましたのか、メノウの背中で薄っすらと目を開いたクルルが覇気のない声で呟く。

「クーちゃん……あんた起きて大丈夫なの?」

「大丈夫です…………状況は……なんとなくわかります」

クルルには、それが何なのか見た瞬間にわかった。

闘気に混じっているせいでハッキリとはわからなかったが、それはいつも自分が扱っている力と同質だったから。

闘気と混じりあうことで異なる何かに昇華してはいたが、その力からは薄っすらと魔力を感じとれた。

「…………綺麗」

闘気と魔力が均等に混じりあって、それは見た者を落ち着かせる不思議な光を放っていた。優しく、でも暴力的で、なのに嫌な感じがしなくて、吸い込まれそうになる光。

それは、鏡がずっと所有し続け、なのに自分をずっと蝕んでいた最後の力。

これまで放出されることなく溜めに溜まりこんだ魔力が解放されて、抑えられず闘気と一緒に体内から漏れ出ることで放たれた光。

スキル……リバース

効果……レベルが低ければ低い程、強力な技や魔法をコスト無しに使用できる。だが、レベルが上がれば上がる程、強力な技や魔法を使える幅が狭くなる――

それは、弱きものに慈悲を、そして、強き理不尽を打ち砕かんための力

『素晴らしい……ここに来て、まだ強くなるか』

暫く見入っていたデミスは、物欲しそうな声色でその力を褒め称える。

『その力……いただく。…………是が非にも!』

次の瞬間、鏡たちの周囲に再び無数の触手が迫った。

だが、触手は一同の身体に触れることなく、肉片を飛び散らせて消し飛んだ。

何が起きたのか、最早わからなかった。

鏡が無重力にも関わらず、一瞬のうちに一発ずつ、全ての触手に殴打を加えたのを視界に捉えられたのはロイドとレックスだけだった。

「鏡君……気をつけて! リバースが、以前に僕たちが推測していた通りの力だとするなら……その力を全開まで引き出させているデミスは恐らく君よりも……!」

レベル999の鏡が、弱いと判断できるほどの強い力をデミスがもっている可能性を案じ、來栖が叫んだ。

「自分よりも強い相手と戦うのは慣れてるよ。人生ずっと……そうだったからな!」

しかし鏡は臆すことなく、拳を握りしめた。

直後、間髪入れずに再び無数の触手が鏡たちを襲った。

先程と同じく鏡は触手を消し飛ばすが、消し飛ばした矢先に連続で触手が襲いかかる。

また、デミスは時間の感覚を狭めるスキル「エクゾチックフルバースト」を発動し始めたのか、触手は徐々に速度を増して鏡たちへと迫った。

『いつまで耐えられるかな?』

本気を出していないのか、余裕のある声でデミスは呟く。

実際、触手の動きは徐々に早まり、一同を襲った。

あまりの手数と速さに鏡も全てを捌ききれなくなり、メノウとクルルの下に向かった数本の触手の接近を許してしまう。

だが――

「これは結界……? 防御魔法か⁉」

メノウの周囲に薄緑色の光を放つ、セル状の壁が突如出現し、触手から身を守った。

それは鏡が強く、仲間を守りたいと願った瞬間に現れた防御魔法だった。

鏡自身もわけがわからず、一瞬戸惑いを見せたが、もしかしてと再び強く守りたいと願った瞬間、來栖たちの周囲に光の壁が生成され、デミスの触手の接近を防いだ。

「鏡殿が……この魔法を?」

「そっか……鏡、あんた今なら魔法が使えんのよ! これまでずっと使えなかった力が!」

これが鏡の力によるものだとすぐに気付くと、パルナは閃いたように鏡の『リバース』によるスキルの力と結びつける。

「どんな技でも、どんな魔法でも……今のあんたなら使えるんじゃないの⁉」

「恐らくは……大した消費もなく」

確信しているのか、パルナの言葉に賛同して來栖も頷く。

とは言っても、具体的にどうやって「リバースの」力を扱えばいいかわからず、鏡は困惑しながら迫りくるデミスの触手の対処をし続けた。だが、鏡は戦っているうちに感覚で力の扱い方を理解していく。

イメージすればいいのだと。その力を扱う自分の姿を、その力が使えると信じて。

「これで……どうだ⁉」

直後、來栖たちを覆っていた光の壁が拡大し、鏡も覆って球体状の空間ができあがる。デミスの触手はその防御空間を貫けず、光の壁にへばりついた状態で押し留まった。

「レックス! 剣を……いや、やっぱいい! 今なら多分……!」

すると、鏡は考えがあるのかそう叫び、右手を前に出して目を瞑る。

そして、イメージを掴んだのか目を見開いて手を握りしめると、そのまま引き抜くように横へと薙ぎ払った。

「まさか……僕と同じ、いえ、恐らく僕以上の……!」

鏡が作り出した物体が信じられず、ロイドは目を見開いた。

鏡の手に握られていたのは、紛れもなく剣だったからだ。

それも、闘気で作られたようなただ光を放つだけの剣ではなく、魔力によって仄かな輝きだけを放出させる、本物とほとんど変わらない不思議な形をした片手剣。

それは、闘気で敵を斬り裂くための形と質量を作り上げ、魔力によって彩り、ロイドの技を更に昇華させた技。「闘魔剣」。

「レックスの凄さを思い知れ……! 真・剛天地白雷砲ぉおおおおお!」

そして鏡は、その剣を天高くに掲げると、更に魔力を剣へと流し込み、雷の迸る白く輝く飛ぶ斬撃をデミスの核へと向けて撃ち放った。

『ぬ…………ぬぅうううううううううううう⁉』

鏡が放った斬撃は、レックスが撃ち放つ、真・剛天地白雷砲よりも数倍は大きく、迸ると表現するよりも、雷雨と呼ぶべき雷を周囲に撒き散らしながら、デミスの核へと一直線に飛んだ。

すかさずデミスは、本体と、本体から離れたデミスの鎧の触手すらも伸ばして斬撃を防ごうとする。

だが、斬撃の勢いは止まらず、斬撃の前に伸ばした触手は全て斬り裂かれ、雷撃によって塵へと変えていく。

そのまま斬撃は、リーシアにギリギリ当たらないところでデミスの核へと衝突し、デミスの核に斜めの大きな傷跡を刻み込んだ。

「師匠……なんていうか、傷つくんだが」

「いいじゃない減るもんじゃないし、どうせこの戦いが終わったら使わなくなる技でしょ?」

「まあそうなんだがな? 僕にもプライドというものがあってな?」

パルナの言葉にそう返しつつも、レックスの顔は笑っていた。

ここまで圧倒的に力の差のある同じ技を見せられては、天晴としか言いようがなかったからだ。

恐らくは、溜まったダメージを攻撃にのせて返すレックスのスキル『リベンジ』を使っても届かない威力。それを見せられてはむしろ、清々しいくらいだった。