軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化し続ける存在-9

『最初は、潰すだけのつもりでいた。いつものように貪り、貪れない者は殺す。だが我は興味が沸いたのだ、我と同じ存在でありながら、我と異なる力を持ったその存在に』

ただずっと、奪い続けてきた。奪い続けることで強くなり続けてきた。しかし、リーシアは奪わなかった。奪うのではなく、分け与えられることで強くなったのだ。

奪わなくても、一部さえ手に入れば強くなれる力、それも、デミスには取り込みにくい強力な力を持った超人でさえ、意図も簡単に自分の力へとしてしまう。

デミスは恐れた。その存在がいつか、自分を超えてしまうことを。

デミスは焦がれた。その存在が持つ力の、無限の可能性を。

『故に……思ったのだ。その存在の力を手に入れれば、我はどうなるのかと? だが、その存在は、我が取り込みにくい遺伝子を持った者だった。それだけではなく、取り込もうにも周囲の邪魔が入る』

「だから、邪魔の入らない自分自身の体内で交わろうとした……でも、失敗した。そうよね?」

険しい顔を浮かべながら、タカコがデミスに問いかける。

すると、その通りなのか、デミスは数秒黙り込んでしまう。

『それこそが……唯一の想定外』

そして、それがよほど屈辱だったのか、憎悪の感じられる声色で再び語り始めた。

『あまりにも小さく、捕食対象の一人でしかない弱々しい存在。されど、我と同じ存在だった』

來栖の想定していた通りだった。リーシアは有言実行したのだ。あの日「デミスに、取り込まれる側の恐怖を教えてやる」と冗談混じりに口にしていた言葉を。

『取り込むはずが取り込まれ、我は恐怖した。そして必死に抗った。これまで積み重ねてきた全てを奪われるわけにはいかないと……そして――――』

言葉を言いかけた瞬間、見せつけられるかのように一同は眩い光に襲われる。勝色の光を放っていたデミスの核に直線状の亀裂が入り、瞼を開くようにして光が放たれたからだ。

それはまるで、眼のようだった。中心の瞳の部分以外は光に満ち溢れた、あまりにも神々しすぎる眼。

『我は、唯一無二の力を手に入れた』

そして、眼の中心にある瞳の部分は、瞳ではない別の何かであった。

「リー……シア?」

來栖が眩い光が放たれる中、その眩しさに怯むことなく目を見開く。

デミスの核の中心の丁度瞳がある位置に、下半身は飲まれ、上半身だけが飛び出す形で、全身が脈のような青い触手に侵食され、ぐったりとぶら下がるリーシアの姿があった。

全身がデミスによって浸食されている以外は、昔と変わらない姿のままで。

「リーシア……!」

声にならない嗚咽が來栖から放たれる。

そこにいたのはただの亡骸だった。全てを奪われ、デミスの一部となったリーシアの成れの果て、ただの肉の塊。だがそれは、紛れもなく來栖が愛した女性、リーシアそのものだった。

『だが我は失った。千年もの長く…………果て無き時間を』

気付けば、來栖は悲痛な顔を浮かべて頬に涙を垂れ流していた。

あんな場所で千年間、よくぞ耐えてくれたと、よくぞこの瞬間にまで自分たちを繋げてくれたと、感謝しても感謝し足りずに。

『その果て無き時間から我を解放したのが……お前だった』

デミスの言う「お前」が、誰を差しているのかは特徴を述べられずとも理解できた。

その場にいた全員が、鏡へと視線を向けたからだ。

「やはり……アースディフェンダーの稼働が原因ではなかったのですね」

なんとなく予想はつけていたのか、ロイドが気難しい顔で呟く。

「皮肉にも、希望が生まれると同時に、絶望が目覚めたということですか」

同じく來栖も、想定はしていた。元よりおかしくは感じていたからだ。

これまでも、デミスが目覚めて何度か襲い掛かってきた時の原因は、デミスの食欲を刺激させる人間が地上に出過ぎたため、リーシアがデミスを抑えきれなくなってしまった時だった。

大きなエネルギーに反応することもあったが、それは、人間が地上に出過ぎた時の比ではない。

なのに、アースディフェンダーの稼働準備で目覚めたのは、どこか違和感があったのだ。

『ほんの少し前、この身体の主導権を小娘と争っていた時のこと。肉体の支配はほとんど終わっていたとはいえど、小娘の精神力は異常だった。いつまで経っても我に主導権を渡さず、あと数年は長引く戦いになるだろうと覚悟していた……が、ある日、突然その戦いは終わった。アースの外にいる我にさえ伝わる強力な生命の波動を感じたからだ』

その生命の波動が、ガーディアンでの戦いで起きた出来事を示していることはすぐにわかった。

それは、誰もが希望を見いださずにはいられず、心臓の高鳴りを感じた瞬間のこと。鏡が覚醒を果たし、その力を思いのままに奮った時の出来事。

『その時、僅かな隙が生まれた』

教えられずとも、來栖には理解できた。リーシアはこう思ったのだ「ようやく訪れた」と。

いつ終わるかもわからない絶望の中で、リーシアはようやく「任せても良い存在が現れた」と感じ取ったのだ。しかし、その安心感が、デミスに付け入る隙を与えることになった。

それが、今へと繋がる結果となった。

「俺をここに導こうとしたのはなんでだ? お前なんだろ? ずっと俺を呼んでたのは」

『まさか……他の者まで連れてくるとは思わなかったがな』

「目覚めさせたお礼でもしてくれるってか?」

『そんなつもりで……わざわざここに呼ぶとでも?』

嬉々としたデミスの声色を前にして、鏡たちは一斉に身構える。

目的は既にハッキリとしていた。

かつてリーシアをここへと呼び寄せたように、デミスは鏡を喰らうつもりなのだ。

『我を目覚めさせた存在を見た時、最初は期待はずれだと落胆した。もしかしたら、我等のように他者の力を得ることで、無限に強くなる者がまた現れたのかと思っていたが故に』

「だから……試した。そうですね?」

ずっと気になっていた疑問が解消され、來栖が問いかける。

デミスが放ったマジックバーストの威力は、エデンそのものを消滅させるほどの威力だった。鏡がその身を挺して庇わなければ、エデンにいた全ての者の命が失われていただろう。

だからこそ、ずっと疑問に感じていたのだ。わざわざマジックバーストを使用せずとも圧倒的に優勢な立場で、捕食対象である人間を滅ぼそうと思ったのかを。

『そして……我は気付いたのだ。その者は他者から奪うことなく、他者から力を分け与えられることもなく、戦いの中で徐々に、確実に力を増していった。故に、窮地に陥れば陥るほどに強まるその者の力を確かめるべく……我は、試した』

そして、鏡は生きて戻ってきた。圧倒的な窮地を生き残り、ガーディアンでの戦いでクラスチェンジを果たし、真の力に目覚めたように、また一つ強くなって。

それを知った瞬間、デミスは思ったのだ――

『奪わずとも、分け与えられずとも、己が力のみで際限なく強くなれる可能性をもった存在。もしも、その力を我が得た時…………既に唯一無二の存在である我が得た時、どうなると思う?』

この者を喰らいたいと。

デミスにとって、それは信じがたい力だった。どれだけ痛めつけところですぐに回復し、強くなって戻ってくる。あらゆる生物を喰らい続け、他者から力を得る以外でその強さの境地にまで至った鏡の能力を、デミスは心の底から欲した。

もしも、鏡の力を得れば、この先どんな存在がデミスの前に現れたとしても、敗北はなくなるだろう。強い者が現れても強くなり、弱い者が現れても強くなれる。

『我は……未来永劫、誰も止めることのできない、成長の化身となれる』

それは、デミスに決して逆らうことのできない、言葉通りデミスを神とした世界。

そうなってしまえば、最早、デミスを止めることはできなくなってしまうだろう。この先、リーシアや鏡のような存在が現れたとしても、対抗は絶望的でしかない。

『さて、少し遊んでやろうとも思ったが……拒まれては致し方あるまい』

「……っ! 皆、避けろ!」

デミスが残念そうに呟いた瞬間、溢れ出した殺気を感じとった鏡が一同に叫び散らす。

すると、デミスの核から一斉に無数の触手が飛び出し、柔軟さを利用して軌道を変え、全方向から一同へと襲い掛かった。

ここに来る途中で既に力をほとんど使い果たしていた一同に対処できる余裕はなく、鏡を除く一同は絡みついた触手によって身動きを封じられる。

「皆を……どうするつもりだ?」

しかし鏡は取り乱さず、放たれる殺気を押し返す勢いで殺気を放ち、デミスを見据えた。

『我は捕食者、無論……喰らう。だが、その小さき魂でここまで辿り着いたことに敬意を示し、お前が喰らわれ、我と一つになる瞬間を見届ける、栄誉を与える』

「馬鹿言うな……鏡殿を喰らうだと? 我々が……それを黙って見ているとでも思ったか?」

あまりにも理不尽で、一方的な物言いを繰り返すデミスを睨みつけると、まだ魔力に余裕のあったメノウは両腕から魔法で炎を噴出させ、触手を焼ききろうとする。

だが、触手は何事もなかったかのようにパルナの身体を縛り続けた。

「この触手も……外の触手と同じように耐性があるってわけ⁉」

デミス本体へと突入する前、触手に物理的なダメージ以外はほとんど通用しなかったのを思い出してパルナが苦い顔を浮かべる。

「メノウさん! 爆破魔法です! この触手は魔法に対する耐性があります……物理的なダメージを与えられる爆破魔法なら……!」

フローネの呼びかけに反応して、メノウはすぐさま爆破魔法を誰もいない真上へと向けて撃ち放つ。

巻き込まれた触手が消し飛び、解放された一瞬を利用して他の者を助けようと画策するが叶わず、触手は爆破魔法を受けても無傷のままだった。

『無駄だ……ただの鎧でしかない外のあれらと一緒だとは思うな』

「鎧……ですと?」

これまで戦ってきた想像を絶する相手が、デミスにとっての道具でしかなかったという事実が信じられず、デビッドは狼狽する。

『お前たちが通ってきた道、そして今も尚、外にいる者たちが戦っているのは我の鎧。我とは完全に切り離された第二の我。オリジナルである我を守るために我が作った……ただの鎧』

それを聞いて一同に悪寒が走った。言葉にできない恐怖を、絶望を確かに感じ取ったからだ。

今まで戦ってきたのがただの鎧だとするのであれば、本体は一体どれだけの力を隠し持っているのか、想像もつかなかったからだ。

そしてそれが嘘でないことは、今、自分たちを縛っている触手が物語っていた。

「何よ……それ」

狼狽しながらパルナは呟く。

仮にそれが事実だとするならば、自分たちが命を削ってまで戦っていたのが全て無駄だったことになった。千年前の戦いも、デミスではなく、ただの鎧と戦っていただけで。

そして、鎧だけであれほどの力を持っているのに、本体がそれ以下であるわけがなく、鏡がデミスに吸収されてしまうのではないかと不安になった。