軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化し続ける存在-6

「メノウさん、さっき……ここに来る道中でまだほとんど何もしていないと言いましたが、それは……鏡さんが敵を全て倒したから何もすることがなかったという意味ですよね?」

「いや? 確かに鏡殿が敵を全て倒してくれたが、そもそも敵はほとんど出てこなかったぞ」

「ああ……そうそう、だからロイドの言っている意味がわからなくてさ。どうしてお前らはあんなに敵に囲まれてたんだ? 何かやらかしたのか?」

メノウと鏡の言葉が信じられなかったのか、來栖とロイドは顔を見合わせる。ここまで来る道中、敵に襲われなかったことがなかった一同には、とても信じられない話だったからだ。

「敵がこっちに集中していたのでしょうか?」

もはやそう考えるしかなく、フローネが可能性を示す。

「いや……考えにくいですね、そんな数が少ないとも思えないですし、どこに居てもデミスの身体となる肉の壁から敵が出てきた以上、鏡君たちが狙われない理由にはならない」

「まあ、稀に変異体が出てきたりはしたけど…………ロイドたちみたいにあんな大勢に襲われたりはしなかったな。正直遠目で襲われているのを見た時はかなり焦ったぜ?」

あと数秒遅ければ、ここにいる数名の命はなかっただろう。心底間に合って良かったと鏡は横になってパルナとメノウから治療を受けるクルルと、同じく僧侶の女性に治療を受けるバルムンクに視線を向ける。

「…………そういえば、君たちはどうやって僕たちと合流したんだい?」

「來栖殿が持っている通信機の反応を拾ってな。小型の通信機だったから電波も弱く、使い物にならないと思っていたが……内部で合流することを想定して渡してくれていたのだな」

「いや……その通信機は万が一のために持たせた非常に電波の弱い道具だ。近くにまでこないと反応を示さない…………それまではどうやって移動していたんだ? 君たちはどこにデミスの核があるかはわからないだろう?」

その問いに、メノウは少し困った表情を見せた。

「鏡殿が突然、声が聞こえると言いだしてな……それを追ってここまで来たんだ」

「師匠……どうしてしまったんだ?」

「おいちょっと待て、その謎の力に目覚めた痛い人に向ける視線を俺にぶつけるのはやめろ」

レックスが別人を見るかのような警戒した表情を浮かべる中、來栖だけはメノウの話が嘘だとは思わずに思考する。

「それで……ここまで辿り着いたということですか?」

「いや、本当なら声は別の方角から聞こえてたんだけどな、メノウが來栖の電波を拾ったって言うから優先してこっちに来たんだ」

それを聞いて確信する。

鏡が聞こえた声というのは、自分たちと合流させるためのものではないことに。

「合流できたのは、三日間走り続けたおかげで出くわしただけの偶然……だとすれば」

鏡が聞こえたという声は恐らく、かつて、リーシアにも聞こえたものと同じだと判断した。

そう推測するしかなかったのだ。

「今も……鏡君が来なければ全滅していたかもしれなかった」

なのに、リーシアたちが無事に辿り着けるはずがない。

となれば、ここまでの鏡の状況と同じく、敵が現れなかったとしか考えられないのだ。

疑問は、何故鏡だったのか? 何故リーシアだったのか?

共通点はある。二人がその時代において、特殊な力を持った存在だったということだ。

「確かめるには……辿り着くしかないですね」

「そうですね、不可解ではありますが、こうして合流できたのです。希望が見えてきたのは間違いないでしょう」

ロイドも來栖と同じことを考えていたのか、とにかく今は進むことが大事だと結論づける。

「か……がみ、さん?」

その時、意識を取り戻したのか、弱々しくはあったがクルルの声が聞こえる。

慌ててクルルの下へと駆け寄ると、クルルは薄っすらと目を開いて微笑を浮かべていた。

「クーちゃん…………あんた、良かった。良かった本当に! 心配させてんじゃないわよ」

「まあまだ危険な場所に変わりはないから安心はできん。クルル殿は私がおぶって進もう、魔力の都合上、私は極力、戦闘は避けたいのでな」

「メノウ……さん? そっか…………そういうことだったんですね」

メノウの顔を見て、鏡と同じく色々と思い当たる部分があったのか、納得した顔でクルルは來栖に視線を向ける。來栖はその視線を受けて頷くと「今は休んだ方がいいと」返した。

「もう大丈夫だ……とはまだ言えないけど、とりあえず……来たぞ?」

「遅い…………です」

「……悪い。前回みたいにタイミングよくは来れなかった」

責めるつもりはなかったのか、クルルは慌てて首を左右に振る。

「ここからは俺が全力でお前らを守る……絶対大丈夫とは言わねえけど、信じて休んでくれ」

「…………あの、鏡さん?」

「ん?」

「帰ったら…………一緒に暮らしてくれますか?」

相当弱っているのか、突拍子のない大胆な発言に鏡は表情を硬め、パルナとフローネはもれなく口元を手で抑えて紅潮し、レックスは見てられないのか顔を上にあげ、タカコは興奮しているのか表情だけで叫び始める。

「いやー……その、なんだ? うん、いいぞ。だから今はしっかり休め」

「……はい」

いつもの軽い口調が心地よくて安心したのか、クルルは微笑を浮かべると再び瞼を閉じて寝息を立て始めた。血も多く流れてしまっていたため、相当体力がなくなっていたのが窺える。

寝息をたて始めたのを見て、メノウは移動に備えてクルルを背負った。

「あんた良かったの? アリス怒るわよ~?」

そしてすかさず精神攻撃を行うパルナ。

「ん? 別にいいだろ? だって言わなきゃ休みそうにもなかっただろ? クルルって意外と頑固だしさ。それにあれだ、元々カジノで働いて用意した同じ宿舎に寝泊まりしてたから、一緒に暮らすって言ってもこれまでと変わらんだろ?」

「前から思ってたけど、あんたってわりと糞野郎よね」

パルナの下衆を見るような視線に、鏡は心底わかっていないのか首を傾げる。

本当に帰ったらこれまで通りカジノの宿舎で一緒に暮らす程度でしか考えておらず、クルルが結婚を遠回しに迫っていたことには気付いていない。

そして、鏡は何食わぬ顔で身体を捻って準備をし始めた。

「そろそろ……移動か? よし」

鏡が準備を始めたのを見て、横になっていたバルムンクは起き上がる。

「バルムンク様……まだ動かれては」

「大丈夫だデビッド、こいつも言っていただろう? 俺は……タフだからな、もう充分休んだ」

心配して駆け寄るデビッドに微笑むと、バルムンクは治療を行ってくれた僧侶の女性に感謝を述べる。

すると、足手纏いにはならないという意志の籠った視線を鏡へと送った。

「さって……やるか」

鏡はその視線を受けて頷くと、表情を切り替えて視線を真下の肉の壁へと向けた。

「やるかって……声が聞こえるのだろう? それを追っていくのではないのか?」

「それだと時間掛かるだろう? 聞きながら歩くのももう面倒だし……直接乗り込もうぜ? ほら、來栖の発信機もあることだしさ」

鏡はそう言うと、チャージブロウによるオレンジ色の光を両手の拳に纏わせ始めた。ただそこにいるだけにも関わらず、鏡から溢れ出す闘気によって一同の肌がピリつく。

ガーディアンでの戦いでも見た、ただの溢れた闘気が物理に干渉する現象。それが何を意味するのかを瞬時に理解した一同は、鏡の傍から一斉に退避し始める。

「地面直下掘りは……俺が最初にやり始めた裏技だぜ? パクんなよな……お前ら!」

拳に宿った光が満ちた時、鏡はそう叫ぶと共に、拳を地面へと殴りつける。

すると、殴りつけた地面からレックスやタカコが使うどの技とも比較にならない強い衝撃波が発生し、一同は吹き飛ばされそうになって足を踏ん張らせた。

「ちょ……何この威力?」

明らかに、ただのチャージブロウから放たれた殴打には見えず、一同は驚愕する。

しかし一同には、その威力に見覚えがあった。それは要塞とも呼ばれたガーディアンの厚い外壁を一撃で削った怪物の所業。それと同じ威力の攻撃が今、地面に向かって撃ち放たれたのだ。

「お、開いたっぽいな……行こうぜ?」

鏡に呼ばれて一同はすぐさま駆け戻り、穴の中を覗き込む。

するとそこには一つだけではなく、一度に二つ分の通路を開通させた穴が開いていた。

「あんた……どうしたのよその力?」

「わからん。でも、デミスに一度ぶっ飛ばされてからずっとこんな感じなんだ」

あまりにも強すぎる鏡が多少強くなったところで、普通、変化は感じられない。だが一同には、ハッキリとこれまでとは違う恐ろしさを感じた。その一番の理由として、鏡が今、全力で殴ったようには見えなかったからだ。

これまで何度も鏡の全力の殴打を目にしてきた一同には、それがハッキリとわかった。

「頼もしいったらないですねこれは……」

あまりの破壊力に、ロイドさえも苦笑いを浮かべる。

「鏡君がいるからデミスと戦う判断を決めた僕はやはり……間違っていなかったね。彼がいるだけで……こんなにも簡単になってしまう……次元が違うよ」

想定外の威力を前に、來栖も顔を強張らせて頬に汗を垂らす。

同意見なのか一同は黙って頷いて來栖に賛同すると、穴が塞がってしまう前に飛び降りた。