軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化し続ける存在-2

「よし、直下掘りしよう」

その時、これまで特に喋ることなく一同に続いて走り、黙々と敵を倒し続けていたレックスが唐突に立ち止まってそう提案する。あまりにも突然の突拍子のない提案に、その場にいた全員が呆け顔で「はい?」とツッコミをいれた。

「このまま彷徨い続けても僕たちがいずれ骨になるだけだ。方角はわかっているんだろう? なら、一か八かを賭けてその方角を掘り進んだ方が、まだ希望があるんじゃないか?」

「最初に言ったよね? それはあまりにも危険すぎる、どんな悪影響があるかもわからない。それに……一度試したけど駄目だったのは君も覚えているはずだ」

デミスを内側から破壊するのも兼ねて、來栖たちは一度それを試していた。

「この再生する肉壁はどうするつもりだい? 無論、君がそれをやっている間にも敵は迫ってくる……それも大量にね」

肉壁を削ると、まるでダークドラゴンのいるダンジョンに続く聖の森の地面のように再生を繰り返し、とてもじゃないが進めるような状況ではなかった。一歩間違えれば再生した肉壁に取り込まれて命を落とす可能性もありえたからだ。

さらには再生だけではなく、肉壁を削ろうとすると大量のモンスターと変異体が押し寄せた。それだけは絶対に許さないと言わん勢いで。

「何より、ここはデミスの体内だ。アースクリアでダークドラゴンのダンジョンに行くのとは訳が違う…………どれだけ掘り進めればいいかわかっているかい? リスクが大きすぎる」

「なら諦めるのか? ハッキリ言ってやる、クルルもさっき言っていたが、限界は近いぞ。お前は……それはわかっているんだろう?」

真剣にそれしか道はないと感じているのか、レックスは鋭い視線を來栖へとぶつける。

來栖も、その視線を前に浅い考えで言葉を返すわけにはいかないと、口元に手を置いて思考を始めた。

限界が近いのは、誰よりも來栖が一番よくわかっていた。ただの人間が肉体改造を施しただけの來栖に、この長すぎる道のりを走り続けるのはあまりにも厳しすぎたからだ。

ほとんどの戦いを周囲に任せ、スキルによるサポートのみに徹しているだけなのに、今すぐ立ち止まって眠ってしまいたいくらいに疲労感を覚えている。なのに、周囲の者が疲れていないはずがない。

疲れを感じさせず、涼しい顔を浮かべているのはこの中ではロイドだけで、レックスも顔に汗を浮かばせている。恐らくは、レックスも焦りを感じての判断なのだろう。

だからこそ、慎重に考える必要があった。

焦りから生まれた、愚かな判断ではないことを確認するために。

「……やろう」

そして、來栖は答えを導き出す。

「いいのですか? それは……最終手段と言っても過言ではありません。恐らく失敗すれば、今の体力だと必ず全滅することになりますよ?」

ロイドも慎重になっているのか、確かめるように來栖に問いかける。

「元々、何か……嫌な引っかかりを感じていたんだ。このまま走り続けて、本当にデミスの核へと辿り着けるのかってね」

「リーシアさんとの比較……ですか?」

「君も気付いていたか」

「ええ、僕たちよりも圧倒的に力の劣るリーシアさんたちが、僕たちより早くたどり着けるとは思いませんからね。何より…………」

ロイドは疲弊した一同を一瞥して表情を強張らせる。ここまで執拗に敵に迫られる状況で、そもそも辿り着けたことが不思議でならなかったからだ。

「そもそも僕たちが選んできたこの道が正解とは限らない。近付いてはいるけども……もしかしたら途中で分岐していた道のどれかが正解だった可能性もある。もしかしたら、リーシアは一発で正解の道を選び続けたのかもしれないね」

それがありえないことは、來栖が一番わかっていた。だからこそ嫌な予感がするのだ。今自分たちが進んでいる道が、正解でない可能性が高いと。

「……やりますか」

覚悟を決めたのか、ロイドは肩を回して微笑を浮かべた。

するとすぐさま立ち止まった來栖たちに合わせて待機していた者たちに「これより肉壁を掘り進めてデミスの核を目指します! 恐らく……これが最後の休憩になります。皆さんしっかり補給してください」と指示を出す。

始まれば、デミスの体内に入ってから最も激しい戦火に巻き込まれることになる。だからこそ、始める前にしっかりと準備を整える必要があると判断したのだ。

これが、最後になるかもしれないから。持ち込んだ物資を無駄にしないためにも。

「クルルさん、どうぞ」

「え、いいんですか? フローネさんの分が……」

「逃げながら戦うことになったので、呪術師はあまりやれることがありませんでしたから魔力に余裕はまだあります。皆をサポートしながらずっと戦っていたクルルさんの方が必要と判断しました。飲んでください」

フローネは半ば強引に魔力補充用の小瓶をクルルへと押し付けると、これから始まる戦いに向けて、大量にこの場に迫りくることになるモンスター対策のためにあちこちを移動し、呪術による罠を張り巡らせていく。

そんな、自分のことよりも作戦の成功を優先しようとするフローネの覚悟に疲れで気が緩んでいたクルルは気を引き締めなおし、小瓶の液体を一気に飲み干した。

「パルナ、回復魔法を頼む」

「嫌よ、味方に僧侶がいるんだから、僧侶に任せればいいじゃない。私だって魔力を温存しなきゃいけないし」

そう言いながら魔力補充の小瓶を飲み干し、パルナは煙たそうに手でレックスを払う。

「なんというかな……言いにくいんだが」

すると、レックスは珍しくどこか気恥ずかしそうにパルナから視線を逸らし――

「最後になるかもしれないだろ? だからその、理屈じゃなく……お前がいいんだ」

ハッキリとそう言い切った。

あまりにも唐突で恥ずかしすぎる発言に、パルナも何が起きたのかよくわからず、驚き呆けながら無言でレックスに回復魔法をかけ始める。

「あぁんデビッドさん! 私も回復魔法をお願い! 理屈じゃなくあなたがいいのぉ!」

そんな二人をこっそりと陰で見ていたタカコは、早速二人を参考にデビッドへと迫った。

「ふぉっふぉっふぉ! それだけ元気ならタカコ様は大丈夫です! それに私は回復魔法を使えませんのでこれにて失礼!」

「あぁん! 待ってデビッドさん! せめてお手伝いさせて頂戴!」

しかしデビッドは華麗に受け流すと、そのまま自分が持ち込んだ魔力補充の小瓶を疲弊している他の者へと渡しに逃げ出した。

「あまり休んでいる時間はないぞ? そうこうしている間にも敵が来る、肉壁を掘り進めなくともな、そうなれば休憩も無駄になる」

「わかっていますよ。長く休ませるつもりはありません」

前線で戦い、特に疲弊していたバルムンクとロイドは、休憩することなくフローネと同じように周囲の警戒に当たった。バルムンクも口では厳しいことを言ったが、休憩と聞いて生き返ったとでも言うように膝に手を置いた一同を見て、この休憩の重要性を理解する。

これがあるのとないのとでは、この後に行われる戦いの状況がかなり変わっただろうと、どこまでいっても冷静に判断を下せるロイドに、バルムンクは年下相手ながらも素直に尊敬した。

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三十分にも感じられる濃密な三分間の休憩が終わったあと、一同はレックスとロイドとタカコを中心に、お互いの背中を守り合えるよう輪になって立ち並んで待機していた。

丁度、レックスとロイドとタカコが立っている真下を掘り進めることになる。

「準備はいいですか?」

來栖の掛け声に、その場に居たほぼ全員が頷く。

それを見て、來栖は満足そうに鼻で軽く笑った。

「勝率の低い戦いです……なので絶対にとは言いません、だからこれはお願いです……僕を」

その瞬間、場に居た全員が始まりを予感して目を見開いた。

「リーシアの下まで!」

來栖の叫び声が響き渡った瞬間、レックスは跳び上がり、真下に向けて全力の真・剛天地白雷砲を撃ち放つ。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

それに続いてタカコは全力の殴打を、真・剛天地白雷砲によってポッカリと出来上がった穴へと叩きこむ。すると、タカコの拳から大きな爆発が巻き起こり、さらに深くへ穴は広がった。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァぁぁぁ!」

間髪入れず、タカコは殴打を繰り返して爆発の発生する拳を何度も肉壁へと打ち付ける。

そしてタカコが深く掘り進めていく中、ロイドは素早く広がった穴の内周を走り回り、再生しようとする肉壁で穴が塞がってしまわないように絶え間なく剣で斬りつけて全員が通れるように広げていく。初撃を行ったレックスも、その作業へと加担した。