軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して越えられない壁-5

「やはり…………無理はしない方が、今までの敵とは相手が違います。私たちでさえ、絶対に勝てないと一度は臆してしまった相手……唯一臆さなかった鏡さんは、もう……いません」

不安な顔を見せるピッタに、傍にいたクルルが優しく声をかける。すると、気を遣われていると感じて慌てたのか、すぐさまクルルの傍から離れて首を振った。

「ピッタも……頑張るです。ここでくよくよしてたら……お父に怒られるです!」

本当は怖く、そしてまだ鏡がいなくなってしまったことに対する不安を拭いきれていないはずのピッタの精一杯の強がりに、アリスとクルルは優しい笑みを向けた。

あまりにも唐突すぎる鏡の死を受け入れている者はこの場にはいない。むしろ、まだどこかで生きていて、ひょっこりと帰ってくるんじゃないかとさえ思っている者もいる。

しかし、この場にいないという現実は変わらない。

そして、いないからと何もせず、諦めてしまっては鏡に叱られる、命をかけて今という時間へと繋げてくれた鏡に申し訳がたたない。だからこそ、一同は弱音を吐かずに前を向いて進もうとしていた。

それは、気が弱く、大きな力を持たないピッタでさえ例外ではない。

「お父は……ティナ姉に任せたって言ってたです。死ぬかもしれないのに……お父は諦めてなかったです。死んでもまだピッタたちがいるからって……信じてくれた」

「……なるほどね」

強い意志の感じられるピッタの表情を見て、來栖は納得して鼻で軽く笑う。

傍に立っているクルルも、隣に立っていたアリスも、ずっとピッタと同じ顔つきをしていたからだ。泣くのは後でいい、そんな気持ちが伝わり、來栖は手を叩いて一同を賞賛した。

「素晴らしい、ピッタちゃんのような小さい女の子からでさえ、強い意志を感じられる。君たちはやっぱり、特別と言わざるを得ないよ」

「全くですね……私の知っている者たちとはまるで別人だ」

誰一人として心折れていない状況に、エステラ―が來栖の言葉に賛同する。

「幼く力のなかった魔族の娘も、かつての仲間を裏切った魔法使いも、助けを待つだけだった囚われの姫も、いるかいないかもわからないくらい仲間頼りだった僧侶も、顔つきが違う」

「ちょっと、私だけ言い方酷くないですか!」

しかし返す言葉もなく、ティナは不満そうに頬を膨らませた。

「ティナちゃんはまだいい方よ、私なんて名前すら出てこないわよ?」

「お前はそんなに変わらないな、そういう意味では元々完成された精神を持っていたということだろう。まあ……随分と強くなったようだが?」

タカコから放たれる、殺されるのではないかと思ってしまう威圧感を前に、エステラーはたじろぎながら言葉を繕う。

「何より……常に何かに追われるような焦りを見せていた勇者が、随分と落ち着いたものだ。あの村人を見ているようでなんとも言い難い」

「師匠は師匠、僕は僕だ。今できることを全力でやるだけ……その準備はしてきたつもりだ」

「ふん……勇者王だったか? その名に恥じぬ、まさしく勇者と呼ばれるにふさわしい面構えになったではないか?」

「役割なんて関係ないさ、お前がこうしてここにいるようにな」

レックスのその一言にエステラーは面食らう。

しかしすぐに「そうだな」と呟くと、微笑を浮かべた。

「そう、だからこそ僕は君たちをここに招集したんだ。わかってはいると思うが、お姫様はもちろん、アリスちゃんやピッタちゃんより強い人間は他に大勢いる。少なくとも、ガーディアンに所属する到達者たちには到底及ばない」

そんな弱いはずの三人を前にして、はっきりと事実を來栖が口にする。

「それだとなおさら、彼女たちを呼んだ理由がわかりませんが?」

すると、ロイドは苦笑しながらその理由を理解しつつ、あえて問いかけた。その質問で、來栖は待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「ここが……違うからさ」

そう言うと、來栖は親指を胸に当てた。

「どんな屈強な戦士でも、心が折れれば使い物にならない。それこそ……デミスの姿を目にしただけで、全てを諦めて非道を受け入れてしまうくらい……己を見失う」

耳が痛いのか、バルムンクと油機、それとロイドは気まずそうに表情を歪める。だが、それだけ來栖の言わんとしていることが三人にはよく理解できたのだ。

試練と称し、敵として立ち塞がったからこそ痛いほど伝わるその理由。

「君たちは諦めない」

諦めない心。それは、単純な力の大きさよりも遥かに恐ろしく、敵として対峙すれば、これ以上にない厄介な能力だった。それを、一同は知っている。そして、規格外の村人から少しばかりでも受け継いでいる。

「たとえ自分が使い物にならなくなったとしても、君たちは前へと進み続けるだろう。たとえ、希望がなくとも、暗闇しか見えない未来でも、君たちは抗う。探し続ける。可能性を」

ここにいるのは鏡の仲間、そして鏡を良く知る者たちだった。たとえ、そんな大層な心を持ち合わせていないと本人が思っていても、いざという時、鏡という男の姿を脳裏にちらつかせるだろう。そして、必ず自分を奮い立たせてくれる。來栖はそう信じていた。

「今日まで生きてきて、そして鏡君と出会ったことで、一つだけ僕も確信したことがある。終わりが見えない暗雲の未来でも、必ずいつか光は差す、だから、諦めない心こそが、人間の持つ最強の武器なんだってね」

來栖の宣言を聞いて、同意見なのか傍にいたライアンとセイジは感慨深く頷いた。

リーシアがその身を犠牲にすることで始まった長い戦い、それを今日というこの瞬間にまで繋げられたのは全て、三人が『いつか訪れる可能性』を信じて諦めなかったからだ。

故に、賛同しないわけが、胸に響かないわけがなかったのだ。

「まあ、お前が言うと凄く気持ち悪いが」

「はいでた、セイジの十八番、茶々入れ」

「いや、すまんがセイジに賛同だ。お前が言うと気持ち悪い。一番お前に似合わないセリフだと思ったわ、やっぱりお前が演説しなくて良かったってひしひしと思ったくらい」

「カンペを見て感情を籠めて読むくらいなら僕でもできるけど?」

「いや、カンペとかじゃなくてキャラの問題だな。お前はどっちかっていうと悪役として世界征服を宣言してたほうがしっくりくる」

言われたい放題だったが、実は自分でもそう思っている節があって何も言えず、來栖は冷めた視線を二人にぶつけつつ押し黙る。

「私たちをここに集めた理由はわかりました、早速ですが……作戦の内容を教えていただけますか? こうしている間にもデミスから放たれた変異体や細胞たちは押し寄せてきています。悠長にしていられる時間もないはずですから」

そこで、地上に残してきた者たちが気になって落ち着かないのか、フローネが少し強い口調で來栖を促す。

來栖もすぐに話すつもりだったのか不敵な笑みを浮かべて頷くと、突如、部屋が薄暗くなり、中央に現状のこの星とデミスを映したホログラフィックのディスプレイが表示された。

「隊は大きく分けて四つ。一つはこの星に変異体やデミス細胞が入ってこないよう、アースディフェンダーのバリアが展開されている外で戦う部隊。もう一つはこの星の地上でその部隊が漏らして侵入させてしまった敵を仕留める部隊だ。戦えない者を守る最後の砦と思ってくれていい」

「どうせその部隊に僕たちは入らないのだろう?」

映し出されたディスプレイの中にポイントされた、デミス本体のすぐ近くに配属されることになる二つの部隊を見て、レックスが問いかける。

「その通り、地上は喰人族や獣牙族、ノアにいるレジスタンスやエデン内部にいる少しの人数でなんとか守ってもらうつもりだよ。地上は拠点さえ守ればいいから多くの人数を割く必要はない。バリアのすぐ外の部隊も、ガーディアンの到達者たちを中心に配置する予定さ……この部隊の指揮はライアンにしてもらうつもりだ」

「なるほどな……残り二つは?」

次に、レックスはアースディフェンダーが展開するバリアの外、デミス本体すぐ傍の位置を指差す。

「内部に侵入した部隊を追いかけてこさせないようにデミスの周囲で待機する部隊はさっきも少し言ったけど、お姫様とピッタちゃん、それにウルガとペス、ラストスタンドの部隊、ガーディアンの到達者たち、それと……魔族の部隊を配置させるつもりだよ。さすがに、いつ出れるかも、どこまで行ったら深部に到達できるかもわからないデミスの体内に、魔力というタイムリミットがある魔族を連れて行くのは、無駄が多いからね」

「ということは……我々、私とエステラー……それにアリスは外の部隊ということか?」

そこで、確認するように魔王が問いかける。するとその通りなのか、來栖はすぐに頷いた。

「ちなみに……この部隊を指揮するのはセイジだ。頑張ってラストスタンドに乗って死なないようにね、セイジ君」

皮肉たっぷりに來栖はセイジへと言葉をぶつけるが、セイジに異論はないのか素直に頷いた。「ここまで来て、命が惜しいとは考えてないか」とわかりきっていたこと聞いてしまったと、來栖は少し面白くなさそうに苦笑する。

「ん?」

「どうしたんだいセイジ? 何か質問でも? 質問は今のうちにしといてくれよ?」

「ここに俺が配置されるなら……お前はどうするつもりなんだ? 全体の指揮をとるために地上に残るつもりか?」

「まさか、僕はそこまで君たちを信用していないわけじゃないよ。任せると言ったら任せる。僕は君たちが指揮する部隊を気にするつもりはない」

「なら……どこに?」

「どこにって……決まってるじゃないか。枠はあと、一つしかないだろう?」

聞き間違えたかと、セイジは眉間に皺を寄せる。しかし、それは聞き間違えじゃないと念を押すように、來栖はディスプレイに映るデミス本体が位置する場所へと指を突きつけた。

「僕は、デミスの内部に突入する」

そして放たれた信じられない言葉を前に、セイジだけじゃなく、その場にいたほとんどが「はぁ⁉」と声を上げて目を見開いた。