作品タイトル不明
バッドエンド-7
そこに映っていたのは、最早、空も見えなくなる量の敵が押し寄せる光景。しかし、無数に群がる敵のほとんどがエデン内部へと入り込めず、近付こうとした瞬間に爆発を受けたかのような衝撃を受けて吹き飛び、地へと落ちいく。
そこには、何故か海パン一丁の変態一人と、悪魔のような笑みを浮かべた平凡な男が、意図も簡単に迫りくる無数の敵を蹴散らす姿が映っていた。
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「ん……んんんんん美しくない! 次! はい、君も美しくない!」
エデンの施設外部、空に浮かぶ大陸の上空で、謎の叫び声をあげながら、海パン一丁の男が地に足をつけることなく跳ねまわる。
「すげぇ、こんな状況でも、お前がいるだけでなんかすごく余裕な状況に思えてくる」
むしろ、美しいデミス細胞や変異体なんているのだろうか? そんな疑問をディルベルトに抱きつつ、鏡は片手間に闘気を纏わせた手刀でデミス細胞の核を破壊し、変異体を力任せに殴りつけて吹き飛ばしながら、確実に一体ずつ敵を処理していた。
「焦る……それは美しくはない。常に相手より優位に立っている自分を演じる、それこそが美しいのだ。だが、演じずにそれを可能にしている君は……アァッ! う、美しい!」
「こんなのと一緒に戦うことになるなんて」
「人生、本当に何があるかわからんということでござるな」
こんな状況でも緊張感のない会話をする二人に、鏡の髪の毛にしがみついていた朧丸はヤレヤレと溜め息を吐く。
現在、二人は朧丸の空中に足場を作り出す力を利用し、連携してエデン周囲を駆け回り、内部にデミス細胞が入り込まないように対処し続けていた。
そのほとんどを鏡が倒していたが、倒しきれなかった敵を、ディルベルトがカバーして倒すことでなんとか二人だけで状況を保っている。
「しかし、かなりまずい状況だよ鏡君。私の予想が正しければ、こうやって必死にエデン内部に入り込まないように戦っているわけだけど……中は既にデミス細胞だらけのはず」
「んな、なんでだよ!」
「私たちだけで戦っている時間があまりにも長いからさ……連絡もなければ助けもない。タカコ君がさっき助けを呼びに行ったが……少し遅すぎる。私が思うに……敵は元々中に入り込んでいて、始まったと同時にデミスが更に敵を送り込んできたと考えるべきだろうね」
「だったら……早く中に入って助けにいかねえと!」
「やめた方がいい! ここで私たちが食い止めなければ、デミス細胞はエデン内部に侵入し放題になる。敵を見渡せるここで戦うのと、どこに入り込んでいるかわからない内部で戦うのとでは、被害が全然違うからね。君と私は……ここで倒せるだけ倒すべきだ」
「……既に何体かとりこぼして内部への侵入を許しちまってるのに……ほっとけってか?」
緊張感の無さから余裕に見えるがそんなことはなく、既に何体かのデミス細胞の侵入を許してしまっていた。さすがの鏡でも、360度から迫りくる敵全てをさばききることは難しかったからだ。
二人が持つ時間の感覚を狭めるスキル『エクゾチックフルバースト』の力を使えば、完全に阻止することができたかもしれないが、二人は使用せずにいる。
というのも、いつになったら流れの止まるかもわからない敵を相手に、極限に体力を消費し続けるその力を使うのはリスクが大きすぎたからだ。
「ご主人、やはりここは例のスキルを使って一気に殲滅した後、内部に戻った方がよいのでは?」
朧丸の助言を聞いて、鏡は真剣な顔つきでどうするかを考える。
「いや……それはやめといた方がいい。敵は次々に上空から降り注いでいる。エクゾチックフルバーストを発動して稼げる時間は……せいぜい数十秒程度だ。いくら僕たちのスキルがあっても、数十秒中に入って戻ってくるのは難しいよ」
だが、ここで全てを殲滅したところで意味がないと、ディルベルトは戦いながら鏡に視線を合わせると、首を左右に振る。
「とは言っても…………キリがないぜ」
敵を倒す手を止めずにディルベルトの言葉に耳を傾けながら、鏡は同じことの繰り返しに少しずつ焦りを感じ始めていた。既にどれだけの数の敵を倒したかは定かではない、しかし、一方に減らない敵を前に焦りが増していく。
「エクゾチックフルバースト……!」
そして、耐えきれなくなったのか、鏡はスキルを発動した。
直後、稲妻が如き速さで空を駆けていた男の姿が消えてなくなる。
「アァ……う、美しい」
まるで、敵だけが時を止められたかのようだった。
エデンを覆っていた無数の敵、その全てが突然動きを停止し、垣間見える青い閃光だけが動き続ける光景。その場にいた全ての敵は、動く暇も与えられずに急所を貫かれて一瞬のうちに絶命していた。
自分が既に殺されたことを一瞬理解できず、敵は一瞬の間を置いてから地へと伏していく。
その動きに、強さという概念を超えた何かを感じ、ディルベルトはひたすら「美しい」と連呼をして身悶えしながら身体を震わせた。
「……つはぁ! やっぱ……相当しんどいなこれ、Act4でこれだぜ? Act7とかどうなるんだ?」
ほんの十数秒にして、エデンの周囲にいたほとんどの敵を、虫を強力な殺虫剤で落とすが如く勢いで倒した鏡は、ディルベルトのすぐ傍の陸地へと降りたつ。
ほんの十数秒発動しただけでも、鏡の身体はこれ以上動けないと思えるほどの負担が掛かっていた。
不死と見間違えるほどの回復力をもたらすスキル『イモータルリカバリー』がなければ、今頃もう動けなくなっていると思えるほどに。
「落ち着きたまえ……鏡君、君らしくもない。慌てる気持ちはわかるが……これから何がおきるかもわからないんだ。いくら君が回復を促進させるスキルを持っているとはいえ……無限に回復し続けるわけではないのだろう? ここでいたずらに体力を消費して全てが終わることこそ最も避けなければいけない状況じゃないかい?」
鏡の強さに身悶えしていたディルベルトだったが、ここは人類のためと一度冷静になると、真剣な顔つきを浮かべて鏡を諭す。
鏡も、その通りだと納得すると、一度『エクゾチックフルバースト』の効果を解いた。
「それに君は、仲間を信用しているんじゃなかったのかな? 私とセイジ様に君はそう言っていたじゃないか? エデン内部にはまだ君の仲間がいる……助けが遅れているとはいえ、きっと来てくれるはずだ。君は……仲間を信用できないのかい?」
「そうだな……その通りだ」
熱くなって我を忘れていたと鏡は素直に認めると「……悪い」と、一言ディルベルトに謝罪する。
再起不能なくらいに体力を大きく消耗してしまう前に止まってくれたことにディルベルトは親指を立てると「かまわないさ」と、白い歯の輝く笑みを浮かべた。
「ていうかあんた、美しいって一々言わなくても喋れるんだな」
「あぁ……美しい。私の真剣な説得が通じたことにより、君はより一層美しくなった」
「……作ってんのか? そのキャラ?」
わざとらしいはぐらかし方に鏡は引きつった顔を浮かべる。そしてすぐに、再び上空へと視線を向けた。
「……数が多い。一万なんてもんじゃねえぞ」
たった今、数百体は倒したにも関わらず、気付けば再び元通りの数がエデンの周囲を囲んでいることに気付き、鏡は深い溜息を吐く。
仮に、以前までの覚醒していなかった自分がここにいた場合を想像して、鏡は苦笑いを浮かべた。
『鏡……ディルベルト、無事か!』
その時、ディルベルトと鏡が持つ腕に巻きつけた空間管理装置を通して、目の前に視界を遮らない程度のセイジの顔が映ったディスプレイが表示される。
音沙汰の無かったエデン内部にいる者からの通信に、とりあえずは無事であったと二人は安堵した。