軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九章 掴みかけた安息

それは、約一千年も昔のこと。まだ世界が、地球と呼ばれていた時代の話。

それは、それまで国同士で争っていた人類が科学の発展と共に矛を収め、誰もが不自由なく暮らすことのできる世界だった。

人口衛星を通して映しだした地球全体の映像から、大気の流れをコントロールすることで気象すらも管理し、環境の汚染、地震や台風による被害、それまで問題視されていたありとあらゆる問題を科学の利器で解決された世界。

科学の発展により、他国からの供給がなくても何不自由なく生産し、暮らすことができるため、また、各国が備える兵器のもたらす影響力が強まり、無暗に手を出せば世界そのものがなくなってしまうほどの力を保有したがため、なくなった紛争。

しかし、そんな世界でも問題はあった。何不自由のない世界でも、良からぬことを企む者はいるからだ。そうなってしまったのも、人類という種の一部が進化を果たし、科学の力でも対処の難しい力を保有してしまったことにある。

人々はそういった進化を果たした人間たちのことをそれぞれ力の特性の傾向から様々な呼び方で呼称した。姿形を変え、人間という形を失うことで特殊な力を得た者をミュータント、人間の姿をそのままに、念動力といった物理的ではない力を得た者を新人類、人間の姿をそのままに、人間とは思えない力を保有したものを超越者と、総じて超人と呼んだ。

そう、そこは科学の力でも対処しきれない超人たちが派閥を争う世界だった。

「……することがない。暇だ……暇すぎる」

「才能の無駄遣いだな、手が空いているなら、俺の研究の手伝いをしてくれればいいものを」

「嫌だね、どうして僕がセイジの研究成果のために手伝わなければならないんだ? セイジの地位と名声のために僕の才能はあるわけじゃないよ」

「だから……それが無駄遣いって言っているんだ」

「手伝っても同じことさ、君が作っているのって……確か第二の人生を歩めるとかがコンセプトの仮想世界を体験するおもちゃだろ? もしくはゲームか? 僕はゲームクリエイターじゃないよ。そして僕の才能はゲームを作るためにあるわけじゃない」

「よーし……歯を食いしばれ」

しかし、科学者である來栖とセイジの二人には、超人たちが世間で何をしているかなど、果てしなくどうでも良いことだった。

無論、襲われれば関係がないなんてことはなかったが、二人が働いていた場所は、兵器の開発でもなければ人類の進化について研究をしている場所でもなく、より良い暮らしができるような新たな科学の利器を生み出すための研究チームで、とても超人たちに襲われるような場所ではなかったからだ。

それも、研究していた場所は地上から百メートルはある地下深くの施設で、侵入することも難しい場所だった。

「お前……前に研究の成果を発表してから何ヵ月たった? 一体いつまでグーたらしているつもりだ? 最近、ここに顔を出せば絶対にお前がいるじゃないか」

「僕はペースを大事にするからね、むしろセイジみたいにずっと働き詰めなやつの考えがしれないよ。肩こらないかい?」

二人がいる場所は、地下という狭苦しい空間から少しでも解放された感覚を楽しむため、晴天の草原にいるかのような感覚が楽しめる、施設内に用意されたカフェテラスだった。

取り組んでいた研究が一段落ついたため、少し休憩がてらにコーヒーでも飲もうとセイジが専用の研究室から顔を出したら、何もせずにボーっと草原を見つめる來栖を見かけて今に至る。

「言っておくが、俺の研究は完成すればすごいぞ? 医療機関の人間とも提携を組んで取り組んでいてな、今まで足腰が弱くて不自由な生活を送っていた人でも、不自由なく思う存分快適な生活を過ごすことができるんだ」

「仮想空間で……だろ?」

「それの何が悪い? 夢でもいいから自由に走り回りたいと考える人々はたくさんいるはずだ。不慮の事故で足を失った人たちが……もう一度『走る』を体験できる。素晴らしいじゃないか。それに、病気で伏せてしまっている人の治療を仮想空間で過ごす間に行い、戻ってきたら健康になっているなんてこともできるんだ。俺が作っているものは間違いなく時代を変えるぞ」

「若干変な趣味も入ってるけどね、なんかレベルとか、役割とか、ステータスとか、ちょっとゲームっぽい要素も入れてるんだろ?」

「ただの仮想空間というのも味気ないからな、現実にはないエンターテイメントを入れただけだ」

「それがあるから手伝いたくないんだよ。オタク臭い」

趣味を否定するような言い方に、セイジは眉間に皺を寄せて「いい度胸だ」と立ち上がる。すると來栖は慌てて「暴力反対」と、落ち着くように促した。

「あ、でもさ、仮想空間にいる間に治療できるとかならさ、仮想空間でとった行動を現実の肉体に連動させて変化を与えるなんてこともできるよね? 人間がどういった経緯で超人に進化するのかをこの前別の研究室が成果を発表してたし、ゲームの内容に合わせて肉体を超人に進化させるシステムとか面白くない? それなら僕……手伝ってあげるよ」

「断る」

超人と聞いて、セイジは途端に冷めた顔つきになって席を立ちあがった。

「俺たちの研究施設は争いごとのためにあるわけじゃない。超人化なんて……ただ、争いの種を増やすだけだ。人間は人間のままでいいんだ。それに忘れたか? 超人に関する研究はここじゃご法度だぞ?」

「でも、その超人がこの研究施設にチラホラ顔を出してるじゃないか」

「超人化や、攻撃的な兵器の開発のためにきているわけじゃないだろう? ここを訪れる超人はみんな、医療技術の発展を目的としてきているんだ。自己再生能力をもった能力を医療に活用できないかとかな」

「はぁ……みんなつまらない研究ばっかりしてるねぇ。もっと面白おかしい研究しようよ」

「お前……いつも思うけど、なんでここの研究施設にきたんだ?」

不敵な笑みを浮かべながらふざけた言葉を放つ來栖に呆れ、セイジは溜め息を吐く。

「なんだなんだ? 我もその話に混ぜよ。面白そうだ」

「やめとけやめとけ、こいつらの話とか、喧嘩しているか嫌味を言い合っているか、自慢話しかないぞ」

「なんだ? そうなのか?」

その時、研究服に身を包んだライオンのように逆立った金髪をした目つきの悪い屈強な男性と、今時の女性が身につけているとは思えない羽衣を肩に下げた巫女服をイメージした水色と若竹色基調の服装をした、茶色のロングヘアでパッチリとした目が特徴的な美女が姿を現す。

「何度見ても面白いよね、超人ってどうしてそういう変な恰好したがるかな? リーシアの趣味なのそれ?」

「そんなわけなかろう? 皆、超人たちの能力を最大限に生かした服を特注しておるのだ。……いわゆるヒーロースーツというやつだな。まあ、デザインは完全に父上の趣味だが」

「結局趣味なんじゃねえか」

ふんぞり返るリーシアに、ライアンはすかさずツッコミを入れた。