作品タイトル不明
脇役なんて言わせない-7 油機&メリー ペア
「なあ……油機」
「なあにメリーちゃん? あたしちょっと今忙しいんだけどな⁉」
「いや……別にいいんだけどさ。これが試練なのか?」
片手に持った大きなネジの塊を手に、メリーは深い溜息を吐いた。
メリーと油機が降り立った場所は、一つの工房だった。
無数のガラクタの山が積まれ、油機はそれを材料に次々に道具を組み立てていく。油機のスキルは物の価値や作り方に至るまでを事細かく識別できるため、脳内に残っているレシピは多い。
しかし、メリーには何をどう組み立てればいいかさっぱりわからず、部屋の中にある道具の使い方もわからず、ボケーっとしながらガラクタを眺めていた。
「いやぁーすごいねここ⁉ ね? メリーちゃん!」
「うん……凄いと思う。正直どうでもいいけど」
「でもでも、何が試練なんだろうね? もしかしたら、ここで物をどれだけ作る事が出来るのかが覚醒の条件だったりして⁉」
「その条件だと、私は絶対に覚醒できないんだが? まあ……元々レベル1で何も期待してなかったからいいんだけどさ」
若干名残惜しく感じているのか、メリーは少し残念そうに拾い上げたネジをクルクルと手元で回す。
「手が空いてるならメリーちゃんも手伝ってよー」
「いや……私は、手伝わない」
「どうしてぇ?」
「うるせーな! いいから私は手伝わないんだ!」
先程から油機はメリーに手伝うように声を掛けているが、メリーはガラクタの山から一切動こうとせず、どこか油機の動向を警戒していた。
どうして警戒しているのか?
その理由は簡単で、そのガラクタの山に、メリーにしか見えていない子猫と子犬がいたからだ。
それだけではなく、ガラクタの山には、ガラクタだけではなく極まれに動物の彩色が施された髪飾り、ストラップ、腕輪、ネックレス等々、女の子であれば誰もが興味を示すだろうものが落ちていた。
「えーっと、ネジネジ」
「ちょ! お前急にこっち来るなよな!」
「何そんなに警戒してるのメリーちゃん? 心配しなくても後ろから驚かしたりなんかしないよ。ちょっと足りない材料があったから探しにきただけ!」
背後から急接近した油機にびくつき、メリーは「ふしゃー!」と威嚇する。
どうしてそこまで嫌がられるのかがわからず、油機は首を傾げながら「変なメリーちゃん」と呟いて再び組み立てていた道具の元へと戻った。
メリーにとって、可愛いものを全力で愛でようとしているところを見られるのはこれ以上ない羞恥だった。全力で可愛がりたい、しかし見られるのは恥ずかしい。故に隠す。
あらゆる状況で冷静さを保たなければならない者にとって、心を乱される要素があってはならない。
故に、どんなものを視界に入れても目的のために自分を見失わずに対処しなければならない。
大切なのは割り切ること。もしくは、それを目の当たりにしても動じずに平静でいること。しかし、メリーはそれに気付くことなく、子犬の頭を撫で、子猫の喉を撫でていた。
そんなメリーの心境を知らず、油機は次々に道具を組み立てていく。精神世界のため、作った物を持ち帰ることができないのも忘れて次々に組み立てていく。
それが、ただ既にあるレシピをなぞって作っているだけで、新たに生み出すことに繋がっていないことに気付かない限りは、油機の試練は始まらない。
そして、羞恥心を捨て去れないメリーにも、試練は始まらなかった。