作品タイトル不明
脇役なんて言わせない-5 ティナ&タカコ ペア
「ここは……どこかしら? 突然飛ばされたみたいだけど……精神世界みたいなところなのかしら? 服もいつも通りに戻ってるみたいだし」
「タカコさんと一緒ということは……一応意図は組んでくれているみたいですけど、それにしても暗い場所ですね」
ティナとタカコが送り飛ばされた場所は、薄暗く、点々と土壁に置かれた蝋燭だけが辺りを照らす、幅の狭い洞窟の通路内だった。入り組んだ構造ではなく、ただただ真っ直ぐに先の見えない道が続いている。
目を覚ました時には二人とも既にその通路内に倒れており、どちらに進めば良いかもわからず、ひたすらに直進を続けていた。少なからず、ここが普通の場所ではないということを、いつも通りの道着と修道服に身を包んだ二人は直感的に理解していた。
「ここで具体的に何をすればいいんでしょうか? なんか……モンスターとは違った別の何かが出そうでちょっと怖いんですけど」
「わからないわ……セイジちゃんは、自分のあるべき姿に気付けって言ってたけど……どういう意味なのかしら?」
ただただ歩き続けているだけで、変化のない通路にティナは少し恐怖を覚えて身震いする。通路の奥には蝋燭が必ず設置されているが明かりはついておらず、近付くことでようやく火が灯る。先の見えない通路の暗闇は、まるで自分の心を表しているかのようで、嫌な感じがしたからだ。
「…………何も見えて来ないですね」
それでも、二人に進む以外の選択肢はなく、前へ、前へと突き進んだ。
「タカコさん? どうしたんですか?」
暫くしてタカコが突然立ち止まり、ティナがビクッと身体を震わせて立ち止まる。顔を覗いて様子を探ると、タカコは信じられないものを見ているかのように目を見開いており、徐々にワナワナと身体を震わせ始めた。
「どうしてここに……いらっしゃるの? どうして……デビッドさん?」
「で、デビッドさん⁉ 何言ってるんですか? 頭大丈夫ですか?」
何が見えているのかわからず、ティナが頬に汗を垂らす。タカコの視線の先には何もおらず、ティナは困惑しながら「しっかりしてください」とタカコの肩を揺さぶった。
「その女は……誰なのデビッドさん⁉ ねえ……一体誰なの⁉ 待って! 行かないで頂戴!」
「ちょっとちょっと! 落ち着いてくださいよタカコさん! そこ何もない壁ですよ⁉」
「これが落ち着いていられるわけないじゃない! デビッドさん……今そちらに!」
しかし、聞く耳を持とうとはせず、タカコは狂ったように壁を殴りつけ始める。あまりの破壊力に壁はどんどん削岩されるが、その衝撃による揺れで今にも天井が崩れそうになってしまう。
「一体何が見えてるってんですか⁉」
「この奥に部屋があるの! そこでデビッドさんと……見知らぬ女がぁぁぁぁあああ!」
「わ、私には何も見えませんよ⁉」
しかし、何も見えない通路をひたすらに突き進むより、タカコの言葉を信じてこのままやらせた方がいいのかもしれない。そんな考えがティナに過った瞬間、ティナにもタカコが見ているものとは別の存在が見え始めた。
「なるほど……?」
それは、過去に自分が助けられなかった人々の姿だった。
ティナはレベルが50の時にレックスたちと出会い。そして鏡たちと出会い、今に至るまでの冒険を続けてきた。そのレベルが50になるまでの間に出会った人々はたくさんいる。
レックスたちとパーティーを組むまでに、色んな仲間と共に修行をしたことがある。修道院で修行の日々を送ってきた最中に、助けを求めてきた冒険者たちがたくさんいる。
「それぞれでしか見えないものがみえているってことですか? 嫌なものを見せてくれますね」
そこに立っていたのは、その出会った人々の中で、ティナがいながらに命を落としてしまった人たちだった。通路の闇の奥で、ティナを恨めしそうにずっとこちらを見ている。
「そんな風に……私を見ないでください。私だって……助けたかったんですから」
決して見捨てたわけではなかった。助けようともした。だが、助けられなかった。助けられたはずなのに助けられなかった。
「タカコさん! それは間違いなく幻影です! 目を覚ましてください!」
「幻影……? でも、でも……! デビッドさんが! あ、だ、だ、ダメェェェェ!」
「落ち着いてください! いつも冷静なタカコさんらしくないですよ!」
「そ……そうよね。ごめんなさいティナちゃん」
何を見せられていたのかはわからなかったが、ティナの必死な叫び声によってタカコは一度正気を取り戻す。
「でもこれを見続けるのは……耐え難いものがあるわね」
「しっかりしてください。幻影に惑わされてちゃ駄目です」
「幻影って言ってるってことは……ティナちゃんも何か見えているの?」
「ええ……とても嫌なものが」
先程まで通路の奥に見えていたそれらは、いつの間にか前方と後方の通路のすぐ傍にまで近寄っていた。血まみれで、救いを求める声をぶつぶつと呟きながら、恨めしそうにティナを見続ける。
「なんなんですか……一体。なんでこんなもの今更見せられなきゃいけないんですか」
「わからないわ……何が試練を突破するための手段になるのかもわからない。この幻影がヒントだとは思うのだけど……耐えろってことかしら。幻影ってわかっていても……きついわね」
「タカコさんは何を見せられているんですか?」
「……秘密よ」
変わらず、タカコは壁に視線を向け続ける。何が見えているのかはティナにはわからなかったが、今はどうでも良かった。自分のことで精一杯だったから。
正直、見ているだけで心が壊れそうになった。
今、ティナの目の前にいる人々は、選べなかった人たちだった。ティナはいつだって平等に救いの手を差し伸ばしてきた。片方しか助けられない状況でも、生きているのであれば僅かな可能性を信じて助けようとしてきた。
その結果、両方が助かることもあれば、両方を失うこともある。
所謂、優柔不断。
どうしていつもそのような選択をとってきたのかはティナ自身にもわかっていた。片方だけに救いの手を差し伸ばすことで、片方に恨まれたくなかったからだ。どちらも助けようと必死になって、どちらにも感謝の念を向けられたかったからだ。
片方だけならば、確実に救えた命。選ばなかった結果失った命。
「見ないでください……私を見ないでください! 私は……助けたかったんです! どちらにも死んでほしくなかったから……誰も死んでほしくなかったから!」
その空間は徐々にティナとタカコの心を蝕んでいく。二人が声を掛け合わなくなった時、それが心を壊すきっかけになることを二人はまだ知らない。二人の試練は、始まったばかりだった。