軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なりたいではなく、ならねばいけない時-6

「さすが俺が作ったメインシステムの一つ、その通りだ……無論、実体を殺してはいない。冷凍睡眠……コールドスリープで眠らせているだけだ」

『馬鹿な、たとえその場合でも、実体との交信は不可能なはず!』

「そう、だが俺はそれを可能にした。実体がなくとも、人間の意識だけをアースクリアへと保存し、永久に生活ができるようにな。新しい命が生まれたとしてもそれは意識だけの存在……アースクリア内が定員割れで入れないという心配もなくなる。人々は現実の肉体を捨ててこの世界で未来永劫平和に楽しく暮らせるということだ」

その真実に言葉を失う。それは平和とは名ばかりの、人という概念を捨て、存在そのものを偽りのものとして生き永らえる最終手段とも呼べる人の末路だった。

「今のグリドニア王国の住民のようにな」

そして、セイジの目の前の空気中に突如二つのモニターが出現し、映像が映し出される。そこには、グリドニア王国で平穏な暮らしを過ごす人々と、その人々が氷漬けにされ、カプセルの中で死んだように佇む姿が映っていた。

「そんなの……死んでるのに気付かず、自分のコピーがアースクリア上で勝手に動いてるのと一緒じゃねえか……身体があるから、自分の身体がちゃんと繋がってるから生きてるって言えるんだろうが!」

それを見れば誰もが抱く当然の葛藤を、メリーが言葉にしてあらわにする。そんな風になるために、今まで戦ってきたわけじゃないと。

「どうかな? そこの魔族の娘に同じことを聞いてみればいい。それも……身体は存在しない意識だけの存在だぞ? 今は現実世界に来栖が作った肉体があるようだが、それ以前はシステムが作っただけのただのコピーだったと言っているようなものだ」

セイジの言葉に、メリーはハッとした表情を浮かべる。

「悪いアリス……そんなつもりで言ったわけじゃ」

「ううん、大丈夫。ボクも同じ意見だから」

カッとなってアリスの気持ちを考えていなかったと、冷静になって落ち込んだ表情を浮かべるメリーに、アリスは優しくポンと背中を叩いて慰めた。そしてすぐに、キッとセイジを睨みつける。

「このアースクリアも……アースの皆も、長い時間アースを取り戻すために戦ってきた。それを無駄にして身体を放棄するなんて……今までその犠牲になってきた人の想いが無駄になる。たとえボク自身が意識だけの存在だったとしても……ボクは反対だよ!」

「元々……アースクリアが最初に作られた時の形に戻すだけだ。來栖とライアン……それにリーシアが勝手に俺の開発していたアースクリアを改造してしまったせいで、こんなにも遠回りしてしまったが……ようやくだ。ようやく、人類は再び安寧を取り戻せる」

拳を震わせながら、セイジは歓喜に満ち溢れた笑みを浮かべた。

元より、セイジが開発していた仮想世界を利用してアースクリアは作られたと來栖とライアンより聞いていた一同は、どうしてセイジがその結論に至ったのか納得し、表情を強張らせる。

「それでも、最後には賛同したからお前もアースクリアを今の形にしたんだろ? なのになんで今更諦めるんだ」

だがそれでも、一度は打倒デミスを目指したものが、今になって諦めようとする理由がわからず、鏡が問いかける。

「確かに……今までのアースクリアは、入り込める人員が限られていた。そのせいで犠牲になる者がいてはならない……そう思い、全てを奪ったデミスに復讐するということに賛同した。いや……それだけじゃないか、俺も……家族を奪われているからな」

「なら……どうして」

「当時ではわからなかったことが、今ではわかってしまったということだ」

本当であれば復讐を果たしたい。それを感じさせるほどにセイジは悔しそうに歯を食いしばりながら、悲しげ瞳で鏡を睨みつける。

「ハッキリと言ってやる。デミスと戦うのを諦めろ……お前たちじゃ絶対に勝てない」

「勝てないって……何を言ってるんですか! 鏡さんの強さはあの来栖さんとライアンさんも認めたくらいですよ⁉ 鏡さんが無理なら、一体どんな人なら勝てるっていうんですか⁉」

またしても、鏡の実力を疑うかのような発言に我慢できず、ティナが声を荒らげる。

「知っているさ、俺も見ていたからな……だがそれでも恐らく、あれに勝てる存在はいない……いやいなくなったと言うべきか」

「いなくなった? どういう……ことです?」

「デミスを眠らせることで、俺たちはリベンジの機会を与えられたと長年あがいてきたが……無駄だったということだ。本当に倒せるチャンスは、最初に戦ったあの時だけだったんだ」

言葉の意味がわからず、一同は首を傾げる。納得させるには全てを話す以外にないと思ったのか、セイジはため息を吐くと、そのまま言葉を続けた。

「ステータスウインドウ。アースクリアを今の形にする時に最初に考えついたシステムだ。効率的に個体の成長、才能の表示、そしてスキルの詳細を確認することができる」

そう言いながら、セイジは目の前にステータスウィンドウを表示させる。そこには、セイジのものではない、説明用のためにわかりやすく分類分けされた仮のスキルの一覧が表示されていた。

「もう知っているだろうが……スキルとは過去に存在した超人たちの遺伝子を注入して発現する力であり……その遺伝子による身体の組織の劇的な変化に耐えられれば、必ずスキルは生み出される」

『それは理解しています。ですが、その超人たちが持っていた力を一人が複数所有するだけでも、かつての超人たちよりも今の人類が優れているはずです』

「確かに、レベル200を超えるものであれば、かつての超人たちよりも優れていると言えるだろうな。身体能力においても……な、だが……それでも人類はデミスには勝てない」

『それは、何故です……?』

「デミスも、人類と同じく複数のスキルを手に入れてしまったからだ」

それは、ただでさえ絶望的な相手が、より絶望的な存在へと昇華してしまったことを告げる、あまりにも無慈悲で、残酷な衝撃の事実だった。

すぐには信じられず、鏡とフラウとディルベルト以外の全員が口を開いたまま目を見開いて言葉を失う。

「言葉も出ないか……どういうことか教えてやろうか? デミスの特性は知っているな?」

「他の生物を媒体にして繁殖する化け物だろ? 多くの人類がそれでモンスターになったって聞いたが? まあ……聞いたのも最近の話だけど」

「そんなとんでもない化け物なのか……」

デミスを知らないフラウが、鏡の言葉から想像を膨らませ、肩を震わせる。対するセイジは、鏡の言葉を頷いて肯定すると、話を続けた。

「俺は……デミスを倒すための方法がないか、過去の映像を調べてデミスの生態を調べた。どんな力が必要なのか? どんな能力を持っているのか? その全てをな」

するとセイジは、表示させていたモニターに、ガーディアンの施設内でも來栖に見せてもらった過去のデミスとの戦いを記録した映像を映し出す。

「そして気付いたんだ。デミスは……最初は使っていなかった力を使っていたと」

更にセイジは、二つのモニターを表示させてそれぞれに過去にデミスと戦った時の記録を映し出す。そのままセイジは右側にデミスと戦い始めた頃の映像、左側にデミスと戦い始めて後半頃の映像と説明する。

「なるほど……理解しました」

そして、デミスが右側の映像では味方の超人が使っていたはずの全身の身体を一時的に硬質化させるスキルと思える力を、左側の映像ではデミスが使っている光景を目の当たりにして、ロイドが冷や汗を浮かべる。

「デミスがモンスター化させて繁殖するのは主に普通の人間を利用してですが、超人たちも取り込まれにくいというだけで、取り込まれることもある……そういうことですね?」

その言葉に合わせるようにして、その硬質化を使っていた超人が、デミスの細胞と思われる物体に取り込まれる映像が流し出される。暫くその細胞に抵抗してもがいていた超人は、時間経過と共に大人しくなり、モンスターへと転化した。通常の人間が転化するよりも凶悪なモンスターとなって。

「そうだ……そしてモンスター化した超人たちは最終的にはデミスに取り込まれる。つまり……もうわかるな?」