軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『ふーん』って感じ-13

「ずっと、お礼が言いたかったんだ」

『お礼だと? 何を言っている?』

「ボクがダークドラゴンさんに感謝してるってこと」

事の多くを包み隠して、アースという魔族にとっては過酷でしかない地に送り込んだダークドラゴンにとって感謝される筋合いはない。なのに、心の底から嬉しそうに笑顔を見せるアリスを理解出来ず、ダークドラゴンは困惑する。

『言う通り……我は全てを知っていた。お主が魔族というデータだけの存在でしかないことも知っていた。そして來栖様より、お主とあの男を実験体にすることを知りつつ、我は命令通りに外の世界へとお主を送り出した……非道者だ』

「なら、どうしてボクたちに選択肢を与えたの?」

その問いかけにすぐ反応せず、ダークドラゴンは数秒間押し黙る。

「ボクとメノウが外の世界へと向かったのは、間違いなくボクの意志だ。本当なら、自分たちから外の世界に出ようとするのは好都合でしかないはずでしょ? なのに、ダークドラゴンさんは外の世界の危険をボクたちに教えてくれた上で……選択肢をくれた」

『教えたところで、お主たちは選択を変えることはない。そう判断したうえで、アースの危険性を説き、己が意志で外に出たかのように促しただけだ』

「嘘……下手だね?」

言葉を取り繕うが、アリスはすぐにそれが本心じゃないことを見破って、再び問いかけるように笑顔を向けた。すぐさま言葉を重ねて取り繕おうかとも考えたが、下手に言葉を重ねても見抜かれてしまうと観念し、ダークドラゴンはため息まじりに再び口を閉ざす。

「そんなことをする意味のなさは、ダークドラゴンさんが一番理解しているはずじゃないの? 外に出してしまえば、説明しようがしまいが同じだよね? どうせ、予定では消えてしまう相手なんだから」

『やはり……面白いな娘。アリスと言ったか? そうまで深読みしてくるとはな』

「深読みなんかじゃないよ。確信して言ってるんだ」

『……だがやはりそれは勘違いだ。確かに我はお主たちに選択肢を与えた。だがそれは慈悲ではない……天秤にかけただけだ。来栖様の指示に素直に従う方が良いか、村人……鏡浩二を信じてお前の支えとなる存在を守った方が後々のためになるかをな……その迷いの答えを出すための、一時的な問答だったにすぎない』

「なら、やっぱりありがとうだよ」

『何故だ?』

本心を説明しても、それでも感謝の言葉を向けてくる意味がわからず、ダークドラゴンは心の底からの疑問の言葉を吐きだした。

「少なくとも、ダークドラゴンさんも鏡さんの可能性を信じたから迷ったんでしょ? どっちにしろ……あなたはボクたちに問いかけてくれた。それが全てだよ」

その言葉に、ダークドラゴンは一瞬鼻で笑いそうになった。だがすぐに、ならば何故、自分は魔族の二人に選択肢を与えたのかという矛盾に気付き、表情を歪める。

『システムから生み出された存在でしかないお主が……おかしなことを言う』

「それを言うならダークドラゴンさんも同じだよ? ただのシステムの存在でしかないなら、來栖さんの命令……ううん、この世界の意志に逆らえないはずだよ。それを捻じ曲げて……信じてくれてありがとう」

そこで、ダークドラゴンは自分の異常に気付いた。自分はただのシステムの存在でしかなく、迷いが生まれることなど本来ない。來栖の命令は絶対であり、それに逆らうことは許されない。なのに、どちらの方が良いか等という天秤にかけて來栖を無意識の内に裏切っていた。

その事実に驚嘆し、ダークドラゴンは「馬鹿な……」と言葉にして沈黙する。

「ねえダークドラゴンさん」

『……なんだ?』

「ボクたちはこの世界のシステムに作られた存在かもしれない。でも……ボクたちにはちゃんと心がある。考えて、自分の意志で何事にも立ち向かえる……そうだよね?」

言われて、ダークドラゴンは一考する。たとえシステムによって生み出された存在だったとしても、自分の意志で考え、迷い、そして決断し、システムの枠から飛び出して外の世界へと羽ばたいた者がここにいる。それと同じ存在であるならば自分も――そんな考えを。

『その答えは……我より、お主の隣にいる村人の方が詳しいはずだ』

そして返された言葉を聞いて、アリスは鏡へと視線を向ける。鏡が少し照れくさそうに頷いたのを見て、アリスは満面の笑顔を浮かべながら「うん、そうだね!」と鏡の腕へとしがみついた。

『もうじき、グリドニア王国の領域内に入る。我が力によって認識をすり替えられぬように保護をかけるが、念のために、領域内に入ったら変化がないか確認させてくれ』

ヤレヤレとため息を吐きながら、ダークドラゴンは切り替えてこれからのことを鏡へと問いかける。グリドニアの領域に入ることで認識が自動的にすり替えられるため、ちゃんと保護によって認識が保たれているかを確認する必要があったからだ。

「もう着くのか? 早くないか?」

『領域内に入るだけだ。陸地に辿り着くにはまだ時間が掛かる……まもなくだ』

ダークドラゴンが言葉にしてから十数秒も経たないうちに、鏡たちの正面の空間が突然パシッと電気が走ったかのように歪み、一瞬のうちにその場を通り抜ける。

『越えたが……どうだ?』

直後、ダークドラゴンが鏡たちの認識がしっかりと保たれているかを確認するが、ダークドラゴンの背中に乗っていた一同の表情は、全員呆けたものへと変わっていた。

「いや、特に何も変わらないけど……魔王はヘキサルドリア王国にもいるとか、とりあえず認識は何も変わってない」

それを聞いて一安心し、すぐに正面に意識を向ける。そこでどうして鏡たちの様子がおかしかったのかに気付き、ダークドラゴンの表情が歪む。

「なんだ……これ?」

鏡が呆けた顔で空気中に散布された不思議な物体に視線を向ける。

グリドニア王国の領域内へと入ると、快晴の空の下に海が続くだけの景色が変化し、所々に光で象られた花が空から舞い落ちる不思議な空間へと変化した。

「なんていうか、お花畑っていうか……平和臭がするというか?」

まるで楽園にいるかのようなメルヘンチックな華やかな光景に、鏡が苦笑いを浮かべる。そんな鏡に、突然タカコがトントンと肩を叩き、人によっては精神的なダメージの大きいセクシーなポーズを取り始めた。

「ねえ鏡ちゃん……見て? この背景と私……すごく似合ってると思わない?」

「スゴク……ニアッテマス。メリーも凄い羨望の眼差しでタカコちゃんを見つめてるくらいだ」

「ちょ、こ……この野郎! 私に……んぎぎ、な……す……り……つけんな!」

そんなタカコを一切視界に入れず、鏡はメリーの身体をぐいぐいと寄せてタカコの前へと移動させようとする。

『……ぐ、なんだ?』

その時、不穏な気配がダークドラゴンが漂った。苦しんだ声をあげると共に、グラグラと左右に揺れ始めたのだ。

「どうした?」

『わからぬ、我が力が…………徐々に弱まっている。このままでは……』

かなりきつい状態が続いているのか、ダークドラゴンは苦しそうに表情を歪めると、身体をグラグラと左右に揺らす。ダークドラゴンほどの力を持った存在に何が起きているのかはわからなかったが、そ異常事態であることは、突然視界に広がった光の花びらの件もあって明白だった。

「ちょ、おいおい! こっから泳いでグリドニアの陸地まで行くのはごめんだぞ⁉」

『わかっている……なんとか陸地にまでは運んで見せる!』

揺れはどんどん激しくなり、いよいよ立っていられなくなった一同はダークドラゴンの背中にしがみついて身体を屈ませる。

だがその時、一同は目を疑った。

ダークドラゴンの身体が少しずつ降下を初め、このままでは海へと落ちてしまうのではないかと不安を過らせたその瞬間、一同の目の前に、一同が開けるステータスウィンドウに似た形式のモニターが、突如、高速で空を移動するダークドラゴンに並走する形で一同の目の前に現れたからだ。

そこには、こう書かれてあった。

『ようこそ楽園 グリドニア王国へ 全てを忘れ あなた方に永久の安らぎを』