軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なりたいものになればいい-6

ヴァルマンの街から西に十数キロ程の地点、何もない平原のど真ん中。暗く晴れ渡った星空の見える空の下で、二人の人間と二人の魔族が焚火を囲いながら、第一回人魔友好的交流会議が行われようとしていた。

というのも、途中になっていた魔王城へと向かう進行ルートの話もそうだが、暫く一緒に過ごすにあたって、ルールを決める必要性を感じたからだ。

魔族の都合とはいえ、今回のように荷馬車を鏡の知らないところで強奪するなど勝手なことをされると、鏡にとってもアリスにとっても都合が悪いと判断したからだ。

「まずは絶対に人間に危害を加えないこと、例え逆に危害を加えてきたとしても耐えてくれ。万が一の事態になると俺達だけで庇いきれなくなる。少なくとも魔王の真意を確かめるその時までは守ってほしい」

「むぅ……わかった。すまない、勝手なことをしたせいで鏡殿の立場を危うくしてしまった」

「わかってくれたなら問題ないよ。今度ヴァルマンの街に戻った時にでも荷馬車を弁償して誠意をもって謝罪すれば許してくれるだろ。勇者一行は……まあ、なんとかなるだろ」

そう言いながら鏡は、焚火に入れて温めていたお茶をアリスが持っていたマグカップに注ぐ。

あまり気にしていない様子を見て、メノウもまだ取り返しのつくことであったと胸をおろして安堵した。

「とりあえず、魔王城に行くにはアトロス島に行かなくちゃいけないのだけど、航路を使うんじゃなくて、一度自由都市サルマリアに行く感じでいいかしら?」

そこで、タカコが地図を広げながらそう言った。

孤島であるアトロス島に渡るには、唯一の陸路であるアトロス島の北東にある関所を通り、海に囲まれた要塞自由都市サルマリアを通るか、船を使って直接アトロス島に行く以外に方法はない。

基本的にアトロス島に渡る人間は、アトロス島にしかいないモンスターのドロップ品目的か、只の物好きしかいないため、訪れる者は少ない。モンスターの平均レベルが異常に高いのも訪れる人の数が少ない理由だが、行くにしたとしても、わざわざ航路を辿って行くものはほとんどおらず、陸路である要塞自由都市サルマリアを経由する。

「サルマリアってあの大きな壁に覆われている街だよね」

「そうそう、そういえばアリスはアトロス島から来たんだろ? 船で渡ったのか?」

「うん。ちょっと遠回りだったけど、村の皆が船を海辺まで運んでくれたおかげでサルマリアを通らずに済んだんだ。モンスターは僕達を襲わないからね」

アリスはそう言って笑顔を見せた。

アトロス島に隣接し、ヘキサルドリア王国の本土への陸路を塞ぐように建てられ発展した要塞自由都市サルマリア。魔王城から放たれる巨大な魔力により生み出されるモンスター達の侵攻を防ぎ、本土へと行かせない目的で作られた都市である。

都市内部は、分厚く40メートルの高さがある外壁で包まれており、並大抵のモンスターでは外壁で立ち止まることしか出来ない程に強固な守りが施されている。

壁を破って内部に入り込んだとしても、要塞自由都市に滞在する多くの腕利きの冒険者達がそれを許さない。モンスターの侵攻は日常茶飯事のため、常に戦う者と戦うための武器、修繕するための材料、そして人手と食料が必要なため、国内で最も多くの行商人と冒険者が集う場所であり、国内で最も高レベルモンスターとの戦いが起こる場所であり、魔王による攻撃の危険性が最も高い場所でもある。

未だ、魔王城とサルマリアが両立しているのは、魔王城に攻め入った者達が力足らずで魔王を倒すまでに至らず、攻めるだけ無駄と思える程に魔王に負け続けたことと、魔王がサルマリアへの進軍の意志を示したことが一度もないからでもある。

「そういやメノウ。ヴァルマンの街を襲撃したということはサルマリアも攻めたのか?」

「無論だ。ヴァルマンの街と同じく宣言が目的だったため、呆気なくやられたらしいがな、だが、近いうちに本格的な進軍が始まるはずだ。そうなれば……最初に狙うのは……」

「サルマリア……か」

鏡はそう呟くと、溜息を吐いた。

要塞都市と呼ばれる程だ。そう簡単には墜ちないとは思うが、急がないと取り返しのつかないことになるのは明白だった。

どうするか悩んだ末、メノウの今の話で不安そうな表情を浮かべるアリスを鏡はチラッと見た後、チラッとケンタ・ウロスへと視線を向けた。

荷馬車が置かれたその傍らに、野菜をスナック菓子のようにむさぼるケンタ・ウロス達が、鏡と同じように汚物を見るような視線を鏡に向けていた。

「どうしよう、あれに乗って旅とかマジで勘弁願いたい」

鏡は真顔でそう言った。急がないといけないのはわかるが、どうしてもあれに乗りたくないジレンマが鏡を襲う。

「本当に鏡ちゃんったらアホねぇ~本当にアホ。後先考えないでどうするのよ。ここから魔王城に向かうのにどれだけ距離があると思っているのかしら?」

そしてそんな鏡を、憐れむような表情でタカコは呟き返す。

「そうだぞ鏡殿! 一刻も早く魔王様の元へと向かい、安否を確認し、アリス様のおっしゃる魔王様の理想とは違うその行動の意図を聞きださなければならない! タカコ殿のおっしゃる通りだ! この後に及んで移動手段を捨てるなどアホのすること!」

焚火の前でどっしりとした構えで座り、腕を組みながら鏡に対してメノウはそう言いきった。

アリスが少し不安げな表情で言い争う三人を見守るが、一応アリスもケンタ・ウロスには出来れば乗りたくない派だ。

「だってこいつらヤバいぜ? もう何がヤバいかわからないくらいヤバい、突然裏切って襲い掛かってくるところとか凄いめんどくさいし」

その言葉に、メノウとアリスは首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべた。

「それは制御出来なかったらの話じゃない。私は制御出来る自信があるわ」

そう言う鏡に対し、タカコは「ふふん」と余裕のある笑みを浮かべてそう言い返す。

「あ、あの……鏡さん、裏切られるってどういうこと?」

至極当然の如く抱いた疑問を、アリスは恐る恐る尋ねる。その瞬間、鏡はケンタ・ウロスに視線を向けて「今、この魔族のおっさんは何点だ?」と、不可解な事を聞き始めた。

「5点だ。魔族の者とはいえ、我々の足元にも及ばない。そこの魔族の少女はどこか気品を感じる……20点。そこの大男は人間にしては中々……2点」

すると、ケンタ・ウロスは見下すかのように鼻を一々ふんふん言わせながら一行を舐めるように見回すと、一人ずつ指を差してそう言いだした。

低い点数を言われたメノウだけが心外なのか、ぷるぷると腕を震わせてケンタ・ウロスを睨みつける。その瞬間、ケンタ・ウロスはやれやれと首を振りながら溜め息を吐き。

「反抗的……マイナス5点。つまりお前は、0点だ」

「なん……だと?」

とんでもない採点方式にメノウは思わず殴り掛かりそうになるが、すかさずタカコが止めに入る。この点数が何なのか全くわからないアリスは、唖然とした表情で鏡に点数について尋ねた。

「評価が100点からマイナス100点まであって、マイナス100点になると普通のモンスターになって襲い掛かってきます」

まるで当たり前かのようにそう言いきった鏡にメノウは思わず「はぁっ!?」と声を上げる。

ケンタ・ウロスはあくまでもモンスターだ。人間と魔族と同じように知性を持ち合わせた特殊なモンスターだが、それは自分にあるメリットのために理性で人間を襲わないようにしているだけにすぎない。自分にあるメリット(鞭で叩いてもらう等)以上のデメリットがその対象にあると判断した場合。ケンタ・ウロスは襲い掛かってくる。

その時のみ、ドM等の特性が消え去り、普通にモンスターとして突然裏切って襲い掛かってくるので厄介極まりない。おまけにモンスターとしてのレベルもそこそこ高く、64もあるためケンタ・ウロスを扱おうと思えば、定期的な鞭入れが必要になってくる。

「しかもこいつら、プラス評価の時はそのままだけど、マイナス点の時は突然ダブルアップとか言い出してどこからともなく取り出したトランプの出目でマイナス点を倍増するから、油断していると凄いマイナスされている時がある」

「うわー……」

鏡が切なそうに語った真実に、アリスは苦虫を潰したかのような表情で呟き返す。一応、トランプはどこから出しているのかをアリスは聞くが、鏡は無表情のまま答えようとしない。

「ちなみに俺って今何点なの?」

「マイナス50点」

「うぇええええ……!」

そして、いつの間にかマイナス点を受けてダブルアップされていた屈辱に耐えきれず、鏡は思わず悔しそうな表情でカエルが鳴いたかのような潰れた声を上げる。

「ちなみに……評価がプラス100になるとどうなるの鏡さん?」

「背中に乗せてくれるようになる」

「捨てよう」

その時、アリスが無表情で下した決断には、迷いが一切見られなかった。

結局、急がないといけない現状と、サルマリアの内部に入るのに、荷馬車とブルーデビルの角があればメノウを隠して通ることが出来るという理由から、極力鏡だけケンタ・ウロスの前に姿を見せないというのを条件に、そのまま使い続けることになった。

ちなみに、運転手はタカコである。