軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『ふーん』って感じ-4

「タカコちゃんと油機は何か変化ないのか?」

「私は特にないわね」

「私も~……鏡さんがやっぱり特殊なだけだよ。アースクリアの外でも関係なしに成長し続けるなんて普通ありえないもん。まさに異常者、変態」

「言いたい放題で泣きそう」

鏡に指示されてタカコと油機もステータスウィンドウを表示するが、特に変化はなく、やれやれと首を左右に振る。その隣でふいにメリーがステータスウィンドウを開くと、目をキラキラと輝かせて鏡の服の裾をくいくいと引っ張った。

「見ろ鏡! 私の役割、狩人だぞ狩人!」

「へー、すごいすごい。よしよし」

「馬鹿にしてんのかお前は! 頭撫でるな触れるな! 確かにまだレベル1だけどな……少なくともお前より才能があったってことだからな私は⁉」

「いいこと教えてやるよ、努力に勝る才能なんてないんだぜ?」

そう言いながら鏡は、己のステータスウィンドウを表示させて圧倒的な数値の違いを見せつけた。言葉通り努力だけでその境地に辿り着いた鏡にメリーは何も言い返せず、押し黙る。

「でもメリーちゃん、レベル1なのに技術のステータス値が高いね。元々狩人は技術が伸びやすい役割だけど、それでも普通の人の三倍近くはあるよ」

「なんだよ技術って? というか、このステータス値全体は何に関係してるんだ?」

「えっとね、今見てる通りステータス値には九種類あって、『HP』はその名の通り生命力のことで、無くなると死んじゃうから気を付けてね。『MP』は魔力の保有量だよ」

「この『体力』ってのは? 『HP』とどう違うんだよ?」

「『体力』はスタミナだね、全体的な運動量の限界に関与している数値だよ。多ければ多いほど疲れにくかったり、技を使った時なんかの身体への負担が小さいの。『力』はその名の通り力強さ、『耐久力』は殴られたり魔法なんかで攻撃された時、如何にダメージを抑えられるかに影響するよ。この値が力より低いと殴られた時すごく痛くて、逆に力より勝ってると全然痛くなかったり」

その時チラッとメリーは鏡のステータスを覗いて自分のとを比べると、「一撃で殺されるじゃねえか」とそそくさと油機の背後へと隠れる。対する鏡は、「俺は猛獣か」と腑に落ちない顔を浮かべていた。

「それで? 残りの『知力』と『素早さ』と『技術』と『運』は何なんだ?」

「えーっとね、『知力』は魔法を覚える速さや、魔法に籠められる魔力の精度に影響してね? 『素早さ』は反射神経や瞬発力、総じて運動神経に影響するよ。で、メリーちゃんがちょっと高い『技術』は、闘気を利用した技の精密さや、その技を覚える速さ、あとは器用さや感性の鋭さに影響するんだ。メリーちゃんの場合、ずっと銃を扱ってきたからその値が高いのかもしれないね」

「レベルを上げる以外にもステータスを上げる方法があんのか?」

「まあ少しだけだけどね、筋トレとか、本を読んで魔法の理解を深めたりとかでもステータスは変化するよ。でもやっぱり基本はレベルを上げて、強制的に肉体を強化するのがてっとり早いかな」

「ふーん……この、『運』ってのは? 運の良さなのか?」

「運の良さ……だと思うけど、実はよくわかってなかったり」

「なんで現地民のお前がわかってないんだよ」

本当によくわかっていないのか、困った顔を浮かべる油機から視線を外したタカコと鏡へと向けるが、二人もよくわかってないのか首を左右に振る。

「一般的には良いことが起きる可能性に関係するって言われてるけど、正直パラメーターで上がったからってどう違いが出るのか皆わかってないのよ。モンスターを倒した時に出てくるドロップアイテムが出やすいとかも言われてるけど……具体的にどう影響するかは不明なの」

タカコの言葉に、鏡もウンウンと頷いて同意する。実際、レベルが上がって運のステータス値が上がる過程で、その恩恵を実感できたことが鏡にもタカコにもなかった。

「來栖に聞けばいいじゃねえか、あいつは開発者だから知ってんじゃねえのか? 油機ならあいつと一緒にいた時間が長いんだから聞いてるんじゃねえのか?」

「勿論聞いたけど、來栖も良くわかってないっぽいんだよね。そもそも來栖も言ってたけど、アースクリアを開発したのはセイジって人だからさ。來栖もアースクリア内における運の良さと考えてたみたいで、アースにおいては関係ないって切り捨ててたし」

「なんだよそりゃ……ま、これからそのセイジって奴に会うわけだし、その時に聞ければいいか……で、役割ってのはそのステータス値の上がり方に影響するって考えでいいのか?」

「そうだね。ステータス値は勿論、覚えられる魔法や技に影響したり、身につくスキルも役割に影響するよ。武闘家……タカコさんなんかだと力や素早さが凄かったり、商人の私なんかだと体力と技術が高かったりで……まあでも結局、レベルが上がらないとどうしようもないけどね」

納得したのか、メリーは「なるほどな……よし」と頷くと、飲んでいたジュースをテーブルにドンッと強く置き、立ち上がってそのまま外に出ようとする。

「いやいや、どこに行くんだよ?」

「決まってるだろ? レベルを上げに行くんだよ。鏡が気になってたスキルの変化も見れたし、もうここにいる必要もねえだろ?」

「お楽しみ袋から出てきたおもちゃで早速遊びたくて仕方がないガキかお前は、來栖も説明してただろ。レベルを上げるのはそんな簡単じゃねえんだぞ?」

先程自分が吐いた言葉に似た言葉を返されて、メリーは少し赤面しながら「ば、そんなんじゃねえよ!」と慌てて面白半分でやろうとしてるわけじゃないことを主張する。

「別に無理するつもりなんてねえよ! モンスターとの戦いなんてアースで慣れてるし、とりあえず上げれるところまで軽く上げといた方が絶対にいいだろ⁉」

「魔力銃器もないのにか? 言っとくがアースクリアにはあんな便利なもんねえぞ?」

「レベル1から5くらいまでのモンスターなら、石とか投げつけとけばどうにでもなるだろ」

アースという過酷な環境で戦ってきたからか、最も安全な同じ発想に辿り着いたメリーに何も言えず、鏡は押し黙った。

「……レベル10くらいまでならすぐだし、そんなに危険もないか」

そしてすぐに、諦めたように溜息を吐く。

「よし、俺が死なないように面倒見てやるから、勝手に一人で行くな。約束出来るか?」

「お、おう!」

鏡が見てくれると言ってくれたことが予想外だったのか、メリーは面喰らいながらも、嬉しそうに表情を和らげる。

「レックスたちが来るまでは俺たちも暇だし、のんびりダラダラできるだろうからな。付き合ってやるよ……10ゴールドで」

「金取んのかよ」

その後、「ビタ一文まけません!」という鏡の言葉を合図にメリーとの言い合いが勃発する。そんな光景をアリスは、ジュースの入ったコップを両手にニコニコと笑みを浮かべながら眺めていた。

「随分と嬉しそうじゃない?」

表情に気付いたタカコが、コーヒーカップを片手にアリスの傍へと近寄って声を掛ける。

「懐かしいのかしら?」

「うん、三年前に戻ったみたい。やっぱり……鏡さんがいるからなのかな?」

「……どうかしら」

カップを口元に運びながら、自分が経営するバーの中で騒々しく言い合う鏡を視界に、タカコはまだアリスが幼い見た目だった頃のことを脳裏に思い浮かべた。

確かに、鏡が戻ったことで昔のような雰囲気は戻ったが、それでもまだタカコの中では昔のようにと言うには足りなかった。その足りないものを埋めるには、巻き込まれてしまったこの戦いを終わらせなければならない。

だがそれは、かつてないほどに苦しく、危険が伴う戦いでもある。終わらせるために、今ここにいる誰かがいなくなってしまう可能性だってありえてしまう。敵は、未だかつて対峙したことのない星サイズの敵だから。

「全員がここに集まれる日は……来るのかしらね」

「来るよ。ボクはそう信じてる……信じて戦わなきゃ。そうなるものもならなくなっちゃうよ?」

「……そうね」

鏡が言っていたように、『死んでも』戦うのではなく、『生きる』ために戦う。その気持ちで挑まなければきっと生き残れない。助けられる命でも簡単に見捨ててしまうようなってしまう。アリスにはそれがわかっていた。

願わくは、再びこの場所にメノウを含める全員が、五体満足の姿で集まる日々が訪れるように祈りながら、タカコは再びコーヒーの入ったカップを口元へ運んだ。

「残念ですが、ゆっくりしている暇はそんなにないみたいですよ?」

その時、一同の和やかな雰囲気を断ち切るようにバーの扉が力強く開く。

扉が開いた先には、不穏な表情を浮かべたフローネと、いつも通りのどこか余裕のある柔らかい笑みを浮かべるロイドの二人が立っていた。