軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全てをぶち壊して、ただ前に -2

「こ、これは……逃げ出したくなりますね」

ロイドは、手にじんわりとにじみ出る汗が止まらなかった。

鏡が一歩進むだけで伝わってくる大地を踏みしめる震動が、ロイドが抱く恐怖を更に助長させる。

「怯んではなりません! 全員ステータス低下の魔法を! 幸い……敵は固まっています! 全員、迅速に僕の指示に従ってください! とにかく鏡さんを止めるんです!」

そして、そんなロイドの掛け声を受けて多くがハッとした表情で目を覚ますと、いつの間にか抵抗せずにそれの侵入を受け入れよとしている危機に気付き始める。

直後、ガーディアンの到達者たちは一斉に身体能力の低下魔法を鏡へと向けて撃ち放った。

「……効いて、ない?」

だが魔法をかけたはずなのに、その脅威は一向に薄れることなく、それは一歩ずつこちらに向かって進み続けていた。

魔法の不発かとも思ったが、鏡を除く周囲にいた者たちにはそれがしっかりと効いており、身体能力の低下したことを示す青紫色の光が一瞬見えたのでその可能性を捨て去る。

「……ふん。この程度の身体能力低下に参っていたのですか? 暫く合わない内に随分と府抜けていたようですね」

しかし、身体能力の低下は即座にミリタリアの手によって解除される。

「お見せしましょう……身体能力低下の真髄をこの私が!」

更にそれだけではなく、ミリタリアが持つスキル『慈愛の眼差し』の力により、鏡たちの周辺一帯に存在した全ての敵対勢力の身体能力が著しく低下した。

それも、魔法による身体能力低下ではなかったため解呪が出来ず、突然の脱力感にロイドは焦燥し、歯を噛みしめる。

こちらも間髪入れずに身体能力の低下の魔法を掛け続ければ相手を同じ条件化に陥れられたが、肝心の鏡に効かないようであれば無駄と判断し、ロイドはすかさず冷静にその分の手数を攻撃に回すようにと指示を出す。

「パルナ、クルルよ、ワシに合わせろ……なんならパルナはワシの魔力を使ってよい」

「冗談。王様の魔力なんて恐れ多くて使えませんよ……あたしので充分!」

「お父様こそ……私たちに遅れないようにしてください」

「クックック……ワシの娘も言うようになったものだ」

しかし、先手はシモン、パルナ、クルルの三人による広域殲滅魔法によって奪われた。前方に控えるロイドたちの頭上に落雷と氷柱の雨が発生し、魔法使いの多くがそれを防ぐための魔法障壁を作ることに手数をそがれてしまう。

「おじい! あそこ、あそこにもいるです! あそこにも潜んでいるです!」

「ふぉっふぉっふぉ! ピッタ殿がいれば随分と索敵が楽ですなぁ~さすが鏡殿、優秀な幼女を集める技術においては、右に出る者はいませんなぁ!」

ピッタを肩車しながら、デビッドはニコニコとピッタが視線を向けた先へと手を伸ばし、手品のように手元から次々に弓矢や魔力銃機などの敵が持つ武器を出現させていく。

その度に、デビッドの周辺にあった雪はえぐり取られたかのように消え去っていた。

スキル……等価交換

効果……真の商人は、狙った商品を決して逃さない。その眼差しが捉えられる範囲に存在する同等の質量を持った物質同士の位置を強制的に入れ替える。

デビッドは修練の果てに、レベル150へと達していた。無論、それはクルルやレックスも辿った修羅とも呼べる方法をとって得た力だった。

時間は待ってはくれない。修行をしている間に鏡たちが死んでしまっては意味がない。それを理解していたデビッドは最低限力になれるだろうレベルにまで達するとすぐさまこの世界へと足を踏み入れた。

今、このタイミングにデビッド、シモン、ミリタリアが居合わせたのはただの偶然でしかなかった。偶然でしかなかったがデビッドは、導かれたかのような運命を感じていた。自分が歩んできた努力とは、今この一瞬、大切な仲間たちのためにあるのだと、スキルの力を駆使し続けた。

「さあさあ! 交換する雪ならいくらでもあります! 根こそぎ……武器をいただかせてもらいましょうか!」

死角から狙い撃とうと潜んでいたものから武器を奪いあげ、代わりに大量の雪を差し出すことにより、デビッドはそれを次々にティナのリュックサックの中へと詰め込んでいく。気付けばティナのリュックサックの中は、敵から奪った武器でパンパンに膨れ上がっていた。

「いや、重いんですけど」

「ふぉっふぉっふぉ!」

「ふぉっふぉっふぉじゃないですから! 回復してあげませんよ⁉」

戦いの真っ只中にあるのにも関わらず、どこか余裕のある表情でティナとデビッドは声を掛け合って前線を突き進む。

「……凄まじい方たちですね。レベルや力においては圧倒的な不利なはずなのに」

「そうですね、少なくともあたしたちにはなかった戦い方です。その先の未来を信じているからこそ浮かべられる……笑顔」

死地にいるにも関わらず、和やかな雰囲気を放ちながら余裕の笑みを浮かべて戦う一同に、フローネと油機は驚愕し、何もせぬまま一同の後に続く。

これが鏡の仲間であり、鏡が守ろうとしていたものなのかと、アースに来てからは、勝ちたいという気持ちは失せ、全てがこなさなければならない仕事としてしか感じなくなっていた二人は、久しく忘れていた勝利することへの渇望を思い出す。

「デビッド……死角にイタ連中ハ俺タチが片付ケタ。オマエノ指示通リ、二人で一人ヲ対処すれば一瞬ダッタゾ」

「さようですか。孤立している戦力とはいえ、ガーディアンの方々は強力な力を持つらしいですからな、念には念を入れておいて正解でしたな……ご苦労様です」

「気にスルな。仲間トハソウイウものナノダロウ?」

「お? それは鏡さんがおっしゃっていたのですか?」

「イイや……俺ガそう思っタダケダ」

そして、本来相容れぬはずの獣牙族であるウルガを見て、改めて鏡という存在の影響力を二人は思い知った。一万の部隊を相手にしているにもかかわらず、未だラストスタンドで攻撃を仕掛けなくとも何とかなっているのは、鏡の仲間たちの強さもあったが、何よりも鏡の存在そのものによる力が大きかったからだ。

仲間に安心感を与え、敵に戦意を喪失させるほどの緊張感と警戒を与えるその圧倒的存在感。

「ここからは……一人でいい」

そして、周囲に潜んで奇襲を掛けようとしていた到達者たちの一部を倒しただけで、未だガーディアンのすぐ前方に控えているロイドを含む五千を超えるであろう到達者たちの前で、鏡は立ち止まると、右手をあげて一同に止まるように指示を出した。

「そんな……私もお供します!」

「いいんだ。じゃないとあいつ等は納得しない……だろ?」

すかさず鏡に付き従おうとクルルが動くが、確認するように鏡がフローネに視線を向けると、フローネは何も言わずに頷いて肯定する。

それを確認して直後、鏡はクルルたちをその場に置き去り、一直線にロイドたち五千の到達者が待ち構える陣営へと向かってゆっくりと歩き始めた。