作品タイトル不明
絶対的な強さの壁-16
「なら、ロシアは何と戦っているんだ⁉ 地下施設があるってことは……そっちも世界が何らかの理由で滅んだということになっていて、出られない理由があるのだろ? まさか……世界が異種族に滅ぼされたという呈で異種族と戦わされていたのは日本だけで、ロシアは平和そのものというわけじゃないだろうな?」
「半分正解で、半分不正解です」
「どういうことだ?」
「レックス、喋ルノモいいガ、前見て操縦スル」
「っつ、す、すまない」
ヒートアップするレックスにペスが釘を差すと、まだ言いたいことはたくさんあるといったような燃焼不良の様子で、仕方なく視線を鏡に向けて会話を任せたと訴えかける。
「異種族と戦わされているのは日本だけというのは正解ということです。ただ、だからと言ってロシアが平和そのものかと言われればそうではありません。日本の地下施設、ノアにいる人々と同じく……地上の大地を取り戻すことを夢見て日々暮らしています」
「戦う対象もいないのに平和じゃないっておかしいだろ? 外に危険がないんだったらいくらでも外に出て発展を目指せばいいじゃないか」
「日本とロシアとで前提が違うんですよ。もうご存知かと思いますが、日本はアースクリアの者たちと異種族を戦わせることでテストを行い、また、目を見張る能力をあるものを引き入れて異種族にその力を付与することで、より強い生物を誕生させることを目的としていました」
直接、言葉で説明されていたわけではなかったが、異種族が人間の持つスキルの能力を所有していたことや、異種族とレジスタンスを戦わせていたことからおおよその予想がついていた鏡は、「やっぱりか」と改めて認識し、表情を暗くする。
「じゃあ、ロシアはなんなんだ? 何のためにそんなことをしているのかは言えないんだろうけど……異種族もいないのにどうして外に出ようとしないんだ?」
「それはもう間もなく、モスクワに到着すると共にわかるかと思います。ほら……見えてきましたよ」
目的地であるモスクワの中心地に近付くにつれて、レックスは徐々に減速を開始する。その途中で視界に映った巨大な建造物を見て、一同は目を見開いた。
「……なんだよこれ」
あまりにも異様な光景に、鏡は表情を歪めた。
レンガやブロックで作られた日本とは異なる独特な建造物が並ぶ街並みの中心に、要塞とも呼べるほどに大きく、最下層から最上階にかけて徐々にその大きさを狭めている塔のようなものがそこにあったからだ。
「外に出ようとしないのではなく、出られないのですよ」
まるで、その運命を憐れむかのようにフローネは語る。
「ロシアの地下施設ガーディアンは……あの建造物の地下深くにあります。ガーディアンの人間は閉じ込められているんです。決して外に出ることは出来ないのに、あの建造物の最上階に誰か一人でも辿り着けば脱出できると、僅かな希望を抱かせて……」
「……言っている意味がわからねえ。あの建造物は何なんだ?」
「地下深くにあるガーディアンから、あの建造物の最上階に至るまでの階層は全て……アースクリアのデータから生み出された大量のモンスターが生息するダンジョンとなっています。勿論、長く潜るには食料の問題もありますので、一度到達した階層にはガーディアンから転送で自由に行き戻りすることが可能になっています」
「それで最上階に到達すれば解放される……まるで大昔にあったゲームの内容みたいな話だな」
「実際。あの建造物の仕組みは太古に存在したゲームの内容を参考に作られたと我がガーディアンの管理者もおっしゃられていました。ちなみにですが、いつでも戻れるため死のリスクは極端に低いです……もっとも、最上階に到達しても、誰一人として解放されることはありませんが」
「なんだよ……それ」
ノアに住む住民たちと同じく救われることがなく、むしろ外に出られるだけノアに住む者たちの方がマシであるとさえ思えてしまう理不尽な現状を前に、鏡は怒り、そして憐れんだ。
「……なんでそんな風にしてるんだ?」
「日本が強力な生物を生み出すのに適した環境であるなら、ロシアは……強力な人間を生み出すのに適した環境であるということですよ」
「強力な人間?」
「ええ、アースクリアが存在する本当の理由は知っていますよね? それの延長線上にあるものと考えていただければ結構です。最上階に辿り着けば全てを伝えられたうえで子孫を残していただきます。その子孫がアースクリアへと送り込まれ、成長して再びこのガーディアンへと戻ってきてから、また同じことを繰り返し、人間という種としての強化を図る……最上階への道のりは、今どれほどの力を持っているのかを計るテストとしての役割でしかないんですよ」
そこで鏡は、どうして最上階に辿り着いた者たちが、ガーディアン内で『到達者』が現れるのを待ち望んでいる現状を知りながらもその事実を伝えないのかを察し、冷や汗を浮かべた。
フローネは、真実を知ったものは例外なく絶望すると言っていた。つまり、全ての到達者がその種としての人間の強化に協力するほどの過酷な現実が存在しているということに繋がったから。
「テストを行い。現状の人間という種の力が上がれば、アースクリアにそれを反映させます。そして……より強い存在を作り出す。それがロシアの目的です」
「……真実を知った到達者はそのあとどうなるんだ? 子孫を残し続けさせられるとか?」
「到達者には記憶を失ってアースクリアに戻るか、子孫を残すためにそのままガーディアンへと残るかを選択してもらいます。そこは割と自由です。子孫を残すにしても無理強いはされません。到達者同士で子孫を残すことも出来ますし、そうじゃない方法で子孫を残す方法もあります」
「あんたはどうなるんだ? 実はもうお母さん?」
「いぇ……私は、その……人工的な受精が嫌だったので今相手を探してる最中です。お願いされる立場ですから子孫を残すまでに長い期間が用意されますので、それまでに相手を見つければ一応待ってもらえることになってます。それまで色々と食料の生産だったり、ガーディアンの管理などで手伝わないといけませんが……自由です。なので、今も多くの到達者があの建造物内にいらっしゃいますよ」
それを聞いて、鏡は顔色を変えると共に「どれくらいの数がいるんだ?」と緊迫した様子でフローネに確認する。
「師匠……?」
かつてないほどに動揺した素振りを見せる鏡を前に、レックスも不穏な表情を浮かべた。
「俺たちに勝ち目がないって言ってた本当の意味がわかった気がするよ。フローネ、あんたレベルいくつなんだ?」
「……221です。ですが、ステータスの値はヘキサルドリア王国出身の呪術師の方でいう263相当になります。無論、他の到達者も近い力を持っています……全体の数は把握していませんが、少なくとも千を超える到達者が控えているはずです」
あまりにもかけ離れた実力の違いが日本とロシアにあり、鏡もレックスも絶句する。
そこには、少人数ではどうにもならないという戦力の差があった。