作品タイトル不明
復讐の始まり-14
「あ、お父です」
ティナを励ますように手を引いていたピッタが、鏡に気付くや否や耳をピコピコと動かしながら元気よく駆け寄る。続いて、心配そうにティナの顔色を窺っていたクルルが表情に柔らかさを戻して鏡の元へと近寄った。
「鏡さん、戻っていたんですね。今日は何をされていたんですか?」
「ああ、ちょっと武器の扱いの練習にな」
「武器……ですか?」
鏡が背負っている大剣に視線を向けてクルルは怪訝な目を浮かべる。
「……約束、ちゃんと覚えていますか? 絶対に、一人で無理はしないでくださいね」
「……ああ」
べっとりと付着した大剣を前にして、鏡が一人で全てを背負いこみ、無茶をしようとしているのではないかとクルルもタカコたち同様の不安を抱いた。だが、かけるべき言葉がわからずクルルはそれだけ伝えた。これ以上何を言っても、無駄な気がしたから。
「とりあえず……その大剣渡してください。ちゃんと手入れしないと刃物はすぐ駄目になるんですからね」
「ん? あ……そういえばそうだったな、いいよ。自分でやるから」
「こんな時くらい役にたたせてください……ね?」
少しでも助けになりたい、少しでも一人で無茶しようとする考えを曲げて頼るようになってほしい。その想いでクルルは強引に鏡の大剣を奪おうと上目遣いで近付く。
その行動を遠目で見ていたアリスはハッとした表情になると、慌てて「ぼ、ボクがやるよ! クルルさんずっと働いてて疲れてるだろうし!」と駆け出した。
「駄目です! 鏡さんに働かないように言われてるでしょう⁉」
「ずるいよクルルさん! こういう時ばっかりそういうこと言って! 手入れするくらいじゃ何も影響なんてないよ!」
そんな二人の争いから逃げるように鏡は大剣だけその場にそっと置くと、やれやれとため息を吐きながら暗い表情でこちらに視線を向けるティナの元へと近づく。
「よぉ、暫く顔を見てなかったけど……大丈夫か? 何て言ったらいいかわからないけど……その……」
本当にどう言葉を掛ければいいのかわからないのか、鏡は言葉を詰まらせて頭をポリポリとかく。鏡には、ティナが元気を失っている意味がわからなかったから。
メノウを失った悲しい気持ちは同じだった。でもだからといって、今のティナのように何もしないのはただの甘えだと考えていた。何かしなければ何も変わらない。だったら、何かをするべきで、何をするのかをこれから考えていくのが鏡にとっては当然のことだった。
「私……この一週間ずっと考えていたんです。これからどうすればいいのか……これからどうするべきなのかって、ずっと……ずっと考えてました」
俯きながら吐かれたティナの言葉に鏡は思わず面食らう。
ティナは、鏡の考え通りにずっと悩んでいた。ただ、行きついた先の答えが、鏡たちとは違っていただけで。
「もう…………アースクリアに……帰りませんか?」
その言葉に、すぐ近くで揉めていたアリスとクルル、再び炊事に戻っていたタカコやパルナが視線を向ける。丁度一段落ついて休憩していたメリーまでもが、睨みつけるようにティナに視線を向けた。
その答えは、鏡たちの発想には一切なかった。アースクリアに戻ったところで、未来が閉ざされているのは間違いなかったからだ。
「アースクリアは確かに作られた世界かもしれません。そしてこの世界が現実なのかもしれません……でも、ここに比べればずっとずっと幸せでした……たくさん問題はありますけど」
「……わかってるのか? アースクリアでジッとしていても記憶を消されて負の輪廻を待つだけなんだぞ?」
「わかってます……でも、記憶消されるって言っても私たちの関係までは消されませんよね? 消されるのは……アリスちゃんのような魔族との関係のことだけ。また魔族は倒すべき敵だって認識になっちゃうかもしれませんけど……それでも! また、やり直せばいいじゃないですか!」
その言葉に、鏡は首を左右に振って「それは……難しいだろうな」と否定する。
鏡の魔族に対する嫌悪感のなさは、リセットが引き起こされるインターバル中に培われた感情だった。仮にリセットが引き起こされた時に記憶までもが弄られるのであれば、鏡が再び魔族と手を取り合うという選択をとるかも怪しいからだ。
「私はただ……皆さんが一緒にいる世界で楽しく暮らせればそれで良かったんです。例え……リセットされることになったとしても、それでも……最後の最後まで楽しく暮らせて、何も悲しい想いをすることなく全てを忘れて元通りになるなら……この世界で戦い続けるよりマシです」
その言葉で、タカコとパルナと鏡は、ティナがどういった答えを自分の中で出したのかに気付き、表情を暗くさせる。
仮に今、アースクリアに戻ったところでティナのいう皆の中の一人は既にいない。記憶のリセットが始まるまでその一人を失ったという悲しみを引きずる日々を過ごさなければならない。何より、記憶が消されるという恐怖に怯えながら過ごさなければならない。
その理屈から、ティナの言葉には矛盾があった。つまりティナは、楽しく暮らす日々を過ごすためにアースクリアに戻りたいのではなく、リセットを受けることでメノウのことを忘れたいがために戻ろうとしていた。
「……ティナちゃん」
気付いてはいたが、まさかここまでメノウのことを想っていたのかと、見ているだけで不憫で仕方がなく、辛くなって思わず顔に手を当ててタカコがふさぎ込む。