軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

復讐の始まり-12

「あー……お腹空いたよ~。パルナさん、今日のご飯なに~?」

それから、暫くしてジャガイモの皮を剥き終えると、ふにゃふにゃと抜けきった顔のアリスがお腹を抑えながら姿を現す。

「あら? あんた今日の作業終わってからどこに行ってたのよ?」

「鏡さんが戻ってくるんじゃないかと思って途中で仕事を切り上げて部屋に戻ってたんだけど……今になるまで一回も顔を見せてこなくって、そしたらいい匂いがしてきてふらふらと……」

「別に部屋に籠ってなくても手伝わなければ食事の時くらいこっちに居ても文句はないでしょうに……ていうかえ? あいつ……結局あれからまだ戻ってきてないの?」

「みたいだね、戻ってくるまで待ってようと思ったんだけどさすがに僕もお腹空いちゃって」

「身体が魔力で出来ていても、お腹は空くのね」

パルナはそう言うと、「ほい」とアリスの頭をポンっと叩きながら目の前に先に炊いておいたふかした芋と、少しの肉に特製のソースがかけられた皿を差し出す。それをアリスは満面の笑顔で受け取ると、飛び強くような勢いで食べ始めた。

「……アリスちゃんは本当にもう大丈夫なの? 無理……してないわよね?」

その姿がまるで、何かを忘れようと必死になっているような気がして、思わずタカコがそう問いただす。

「大丈夫。無理なんかしてないよ」

それでもアリスは、笑顔のまま表情を変えなかった。

「悲しいのは悲しいよ……だから、いっぱい泣いた。でも、泣いたからって何かが変わるわけじゃない。望んだからって何かが変わるわけじゃない。自分から動かないと、何も変わらないの……ボクは知ってるから」

言いたいことは理解できた。昔、人間との和平を望む過程で何もしなかった時の無力さを知っているアリスならではの言葉の重みがあったから。

でもそういう自分を演じて、気丈にふるまっている。タカコはそれをすぐに察した。

そうする以外に、前に進む方法がなかったから。

本当はもっと落ち込んで、泣き喚いて、この運命を与えた神を呪いたいはずなのに、それをしないのはそう言ってられないこの状況のせいなのだろうと、タカコは察してため息を吐いた。

何もしなければ体内の魔力が尽きて死んでしまう。そうなればメノウに託された想いを果たせなくなる。まるで自分の意志とは裏腹に半強制的に突き動かされている奴隷を見ているような気がして、タカコはいたたまれない気持ちになった。

「そう……なら、今はたくさん食べて、明日への活力に繋げないとね」

「いっぱい食べられるほど、この施設に余裕はないけどね」

そこで初めて、アリスは苦笑いを浮かべる。

獣牙族と食料を折半することになったため、食料の備蓄に大きな余裕はなかった。無論、そのことに文句を唱えるものもいたが、その代わりに地上での安全と、獣牙族が将来持たらすだろう食料生産力を得られると説明することで納得してもらっている。

しかし、その後々までアリスが生きている保証はなく、タカコは思わず「不憫ね」と顔を曇らせ、自分の分の食事をアリスの皿に追加する形で盛り付けた。

「美味しそうなもん食ってるじゃねえか。タカコちゃん、俺にもちょうだい」

その瞬間、アリスの肩にもたれかかるようにして鏡が背後から姿を現す。あっけらかんとした様子で現れた鏡だったが、その姿は戦帰りの戦士かのようにボロボロで、思わずパルナとタカコは眉間に皺を寄せる。

「鏡ちゃん……何をしていたの? あれからずっと地上にいたのかしら?」

「ん? ああ……まあちょっとな」

タカコの質問にいつもの調子で鏡は適当に相槌を打ちながら、パルナが皿に盛った食事を受け取り、口の中へと運び始める。その瀬戸際、鏡の背中が視界に映り、そこに背負われていた大剣を眼にして、タカコは表情を歪めた。

「その剣……どうしたのかしら?」

「ん? ああ……そろそろ俺も武器を持とうと思ってな。ほら、もしかしたらロシアってここよりも危険なモンスターがいるかもしれないだろ? それにバルムンクの時みたいに人と戦うかもしれないし……素手での戦いも限界っていうかな」

「でも、素手での戦いの方が慣れてるんじゃないの?」

「まあね……でも、武器持ってた方が色んな状況に対応できるしさ。タカコちゃんも武器持ってみたら?」

「私は遠慮しとくわ。武器を持ってても扱いこなせないでしょうし。力の加減とかもいまいちわからないから」

ハッキリと告げられ、鏡は「そっか」と、愛想のない返事をする。

タカコの言葉通り、使い慣れていない武器を扱うと、加減という技術を損なってしまう。その武器に対する耐久度、切れ味、重さによる切り返し方など、細かな精度を求められる動きに対応できないからだ。

そうなると、力加減を間違えて相手をうっかり殺してしまうなんてことも充分にありえてしまう。故に、アースクリアにおいて武器の扱いは、モンスターを相手に使っていくことで徐々に慣らし、自分の腕のような感覚になるまで技を磨き続ける。

モンスター相手なら、うっかり力加減を間違うなんて心配はいらないからだ。

「アリスたん、ちゃんと良い子にしてたか? ゴロゴロと転がりまくってちゃんと身体を休めてたか? ふにふにだらだらとして涎を垂らしまくってたか?」

「その言い方! 鏡さんがそうしろって言ったんでしょ! 言われなくてもちゃんと部屋でジッとしてたよ! 鏡さんこそ、しっかりみんなのために働いてたの?」

「外で一人でウロウロしてました」

「ボク、明日から鏡さんの代わりに働くね」

「許さん! 俺が働く!」

いつものようにギャーギャーと言い合う二人を横に、タカコは不穏な表情を浮かべる。

確かに、モンスター相手なら武器を持つという手段は何ら問題なかった。だが、これから相手にするのは十中八九自分たちと人間。しかも、鏡ほどに力を持っている人間が武器を持つという意味がわかっていない鏡ではないはずなのに、あえてそれを手にした理由を察し、タカコは思わず心配そうにパルナへと視線を向ける。

パルナも、タカコと同じように察したのか、不穏な表情を浮かべていた。

大剣に大量にべっとりと付着していたモンスターや異民族の体液と思われる物体が、鏡の意志を物語っていたから。