軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

復讐の始まり-3

「もっと地下にいる奴等にきびきび動くように伝えろ! 過去の因縁とかつまんねえこと言ってる奴は一発ぶん殴って目を覚まさせてやれ! ようやく俺たちは前に進めるんだってな!」

「おい! こっちに物資置いとくからな!」

「昇降路動かすぞ! 地下に戻るやつは集まってくれ!」

ノアの地下施設の真上、昇降路を使って地上に出た先の周辺は、現在多くのレジスタンスの人間と、獣牙族の若者が集まっていた。

一週間前、鏡からの協力の申し出により、ノアの施設内へと侵入して大暴れした獣牙族は事態の収拾と共にその矛を収め、現在ノアの地下施設の地上真上で暮らしている。何故そうなったのかと言うと、他でもない鏡がそうするように提案したからだった。

『ふ、ふざけるな! 獣牙族と協力しろだと? 今まで殺し合ってきた相手と共存できるわけがないだろうが! 大体……いくらバルムンク隊長たちが裏でやってたことを暴くためとはいえ……お前だってエースとか呼ばれて俺たちの邪魔を散々してきたのに何言ってやがんだ! こっちはな……何人死んだと思ってやがる!』

『おいおい……でもよ。いくら犠牲があったとは言っても、こいつがこのことを教えてくれなかったら俺たちはずっと騙されてたんだぞ?』

『でもよ……! だからと言って獣牙族といきなり仲良くしろとかお前に出来んのかよ⁉』

『わかんねえよ……もう何が正解で、何のために戦ったらいいのかも……』

死んだはずの男が目の前に現れ、今まで自分たちの邪魔をしてきた獣牙族のエースが実は鏡であり、裏で全てを支配していた來栖率いるバルムンクたちを追い詰めるために今までずっと暗躍していたなどという衝撃の事実はレジスタンスの者たちにとっても受け入れ難いものだった。

『……お前らの気持ちなんてどうでもいい』

そんなレジスタンスたちを前に、鏡が選んだのは説得ではなかった。

『お前らは世界をこんな風にしていた奴等に協力していたんだよ。むしろ被害者は作り出された獣牙族たちの方だ……その獣牙族がお前たちに協力してくれるって言ってんだぞ? むしろありがたく思えよ』

『で、でも。ずっと敵として殺し合ってた連中だぞ?』

『獣牙族も同じことだろ? 自分たちだけが被害者みたいな顔すんなよ……これが現実なんだ。うだうだ言ってないでとっとと受け入れろ』

ただの命令。結果的に見れば、そうする以外に最善がない以上、鏡の進言は正しかった。だが、まだ気持ちの整理がついていない者から見れば、鏡の言葉は嫌なことを無理やりに押しつけようとしているだけにしか聞こえなかった。

『ふ、ふざけんな! 俺たちは何も知らなかったんだぞ⁉』

無論、鏡の言葉をすんなりと受け入れるわけもなく、今までの生活からの改革にも等しい提案をレジスタンスの者の多くが批判し、怒りを顕わに訴えた。

『うるせえ……黙れ』

しかし鏡にとって、相手がどんな反応を見せるかなんてどうだってよかった。

それが最善であることなど、わかりきっていたから。というより、その道を選ばせる以外に選択肢を与えるつもりがなかったから。うだうだと討論を重ね、理解してもらうための時間があまりにもおしかったから。

『お前らの目的は獣牙族を殲滅することだったのか? 違うだろ? この世界を取り戻すことだろ? ようやく外に敵を排出する存在が消えて、敵だったはずの獣牙族が協力してくれるって言ってんだ。こんなところで足踏みしてないで前に進んだらどうだ?』

その言葉は慈悲に近かった。納得を求める何も知らずに泳がされていた者に対しての鏡なりの慈悲。それが、鏡に与えられる精一杯だった。それ以上はもう、聞く耳が持てなかったから。

そして、これ以上聞いても無駄ということを、レジスタンスの者たちは瞬時に理解した。理解して、押し黙った。

『もうお前らだけでも世界を取り戻せるんだ。あとはお前らの気持ち次第でどうにでもなる。だからさ、時間…………取らせるな。俺は、早く、ロシアに行かなきゃいけないんだよ……』

まるで、こうなってしまったのはお前たちのせいだと訴えられるかのように、鏡の眼差しは憎しみで溢れていたから。そう思わせるほどの威圧が、一同を襲った。

睨まれただけで膝を崩した者が何人かいた。これ以上に不要な問答を繰り返せば自分の命まで危ないと思わせる殺気が鏡から放たれ、その場にいた多くが思考を加速させた。

生き残るためにも、無駄な発言は避けなければいけない。そうするしかないとわかっていても、駄々をこねて整理のついていない気持ちをぶつけてはいけない。それがわかったから、一同は理解に努めた。

そして、不満をどこか残しつつも、動き出せる者から順に前へと向かって歩き始めた。不満があっても動き出せたのは、単純に鏡の言ってることが何も間違いではなかったからだ。

「防壁を作るのにあとどれくらい物資が必要だ? 手は足りてるのか?」

「少なくトモ、持っテキタ分では足りナイ。人手はアル。ダが……指導者ガ足りナイ」

「っち……やっぱふてくされてる連中を早く立ち直らせるしかないか、物資の在りかには心当たりがある。だが行くには護衛が必要だ……お前たちの何人かを借りるぞ」

「ワカッタ」

モンスターや異種族を生み出す存在はもういない。何よりも今まで脅威だった獣牙族が今度は味方として傍に居続けてくれる。これが決定的な前進要素だった。

元より過酷な地上で暮らしていた獣牙族は、ノアの地下施設の真上の地上で暮らすことになったからといって生活が変わることはない。そして外に出ることに対する危険性は、そもそもの身体能力の高い獣牙族にとって何の力も持たない人間が外にでることよりも遥かに少ない。

そのため、人間が持つ建築技術や農作物を育てる技術を与える代わりに、地上で人間が安全に暮らすことのできる環境を整える取引を獣牙族と交わした。

現在、その環境を整えるため、ノアの地下施設の真上の地上を円形になるように防壁を設置する工事が行われている。無論それは、レジスタンスに所属している建築に関する知識を持っている者を主導に、獣牙族と人間が協力し合って行われている。

「…………フン」

「なんだよ……その態度!」

「おい、また始まったぞ! 止めろ!」

まだ認めていない者も多くいるせいかところどころで衝突はたまにあれども、より良い暮らしのためにいざこざが起きれば獣牙族も人間もすぐに周りが止めるように努めている。

そうしないと、再び殺し合いにまで発展してしまうからだ。そうなれば誰も得しない。誰も前に進むことが出来ない。まだ憎んではいてもそうやって本心を押し殺せられたのも、獣牙族もレジスタンスも長い年月の間、安寧を渇望してきたからだった。

「やってるな」

あちらこちらでカンカンと音を立たせて着々と工事を行っている中、様子を見に来たのか鏡がそう言って、現場で大きな問題が起きていないか管理をしていたウルガの元を訪れる。

威圧するような気を放ち、退屈そうにボーっとしているピッタを肩車しながら、腕を組んで獣牙族たちの働きを見ていたウルガも、鏡が声を掛けると気を少し緩ませて鏡に向き合う。

「鏡……上にキテいたノカ」

「ああ、どうだ? 調子は?」

「順調ダ……マダ、納得シテいなイ者は多いミタイダガナ」

「多分こっち側だな。悪いな……人間って頭の固い連中が多くてさ。損得で動けない感情の生き物っていうか……なんていうかな。ま、お互い怪我がなければそれでいいや、喰人族とかの外敵からの被害は出てないのか?」

「ああ……コノ子の力ガがアレば、喰人族ナド恐れるに足リん」

感心した様子でウルガはポンポンと肩車しているピッタの足元を叩く。それに呼応するようにピッタはえっへんと、ふんぞり返りながらピースを鏡に向けた。