軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

己が意志-6

「メノウ……メノウ、しっかりしろ!」

メノウの身体からは、光の塊は放出されなくなっていた。代わりに、メノウ自身が光の塊となっているかのように、全身から眩い光を放っていた。

「今、今、俺がなんとかしてやる!」

バルムンクは魔力を注ぎ込むことは出来ると言っていた。つまり、方法はある。例え來栖が助けようとしなくても、この施設を探し回って自力でなんとしてでも助けてみせる。鏡はそう考えてメノウの身体を抱き上げる。

直後、鏡の表情は絶望したかのように歪んだ。メノウの身体が、羽を持っているかのように軽くなっていたからだ。

もう、助ける方法を探し回っている時間は残されていないと理解してしまうほどに。

「メノウ……メノウ!」

「メノウさん!」

「メノウちゃん!」

直後、捕らわれていたはずのアリスたちが解放されたのか、メノウの傍へと駆け寄る。

油機が皆を解放したのかと鏡が視線を向けると、そこには、後ろめたい表情で顔を俯かせる油機と、何食わぬ平然とした表情で立ち尽くす來栖の姿があった。

「コングラチュレーション! まさか……あの逆境を覆し、獣牙族の力を借りてこの危機を突破し、更にはバルムンク君を倒してしまうとは思わなかったよ。君は……僕の予想を遥かに超えてくれた。正直、予想外だったよ。そこまでの力があるなんて」

パチパチと手を打ち鳴らしながら、來栖は鏡へと向けて称賛を送る。

その瞬間、鏡はメノウをアリスへと預け、來栖の背後へと一瞬にして近付き、逃げられないように捕縛しようと動いた。

だが、鏡が來栖の身体を掴むことは叶わず、何も触れることができずにすり抜ける。

「無駄だよ。これはただのホログラフィックで僕はここにいない。君の目の前に姿を現すわけがないだろう? 一瞬で殺されちゃうからね」

まるで小馬鹿にしているかのように、來栖は「クックッ」とわざとらしい笑い声をあげる。

「しかしバルムンク君も酷いよね。僕が皆を簡単に切り捨てるとか言っちゃって……酷くない? 僕はそんな薄情者じゃないんだけどな」

「だったら姿を現せよ。そして……メノウを助けろ」

「構わないよ?」

あっけらかんとした表情で吐かれた予想外の言葉に、鏡は怪訝な表情を浮かべて困惑する。

「どういうことだ……意味がわからないぞ」

「僕もね、君たちの力は惜しいとは思いつつ、最初は目的のために泣く泣くこの世界の秘密を知ってしまった君たちを処分しようと思っていたよ。つまり……元々、君たちを殺してしまうのは気乗りしていなかったんだよ」

「……なんで急に気を変えた?」

「君が想像以上の力を持っていたからさ。僕が……思わずゾクゾクしちゃうくらい、かつて見たことがないほどにね」

嘘を言っているようには見えない、真剣な表情で吐かれた來栖の言葉に、鏡は更に困惑する。

「何を言っているのかわからないが、助けられるならさっさと助けろ!」

「ああ、いいよ? 助けられるなら……ね」

「……どういうことだよ?」

平然とした表情で告げられた言葉の意味を、鏡は理解しつつも、納得できないのか、笑みを浮かべて自分を誤魔化しながら來栖に真意を問いただす。

「助けられるなら助けてあげても良かったけど……もう無理だ。彼に魔力を注いだところで、身体を構成するための情報組織が失われ過ぎている。もうどうあがいても助けられないよ」

「なんだよ……それ」

「助けられない。そう言ったんだよ」

「何だよそれぇえええええ!」

鏡の怒号が空間内に響き渡る。それと同時に、先程まで放っていた殺気が再び鏡からオーラを纏っているかのように溢れ上がった。

傍に立っていた油機が、その鏡の姿を見て思わず「っひ!」と声を上げて腰を抜かすほどに。

「出てこい……助けられないなら、メノウをこんな目に合わせたお前を……ぶっ飛ばすだけだ」

「馬鹿だね。そう言われて姿を現すわけがないだろう?」

その場に立っているだけでも卒倒してしまうような重い空気が、二人の間に流れ始める。

「怒りのままに暴れるなんて君らしくないじゃないか。もっと利己的に動く方が君らしいよ。ずっと今まで死んだことにして潜み続けて……ここまで辿り着いたのが君だろう?」

「お前がそうさせたんだろう?」

「僕の目的のためには必要な処分のはずだったからね。君たちは……どうあがいてもアースクリアを優先するだろうし。きっと相容れない……邪魔になると思ってね」

油機と同じような言葉を吐いたのを耳にして、タカコがピクリと反応する。

「私たちもまだ知らない敵のことね……それは一体何なの? あなたたちは一体、何をしようとしているの?」

「あー……お喋りなバルムンク君が少しだけバラしちゃってたね。でも、それが何なのか、僕たちが何をしようとしているのかは教えられないよ。君たちに教える条件はただ一つ、アースクリアの世界がリセットされるのを許容するか、僕が認めるほどの力を見せつけるかだ」

「……力?」

「僕はずっと待ってるんだよ。英雄たる存在を。それが現れるまで……僕の戦いは終わらない」

まるで、終わらない悪夢を見続けているとでも言いたげなうんざりした表情で、來栖は感慨深くそう漏らした。

鏡には、何を言っているのかまるで理解できなかったが、タカコにはその一言で、アースクリアを諦めてもらうしかないと言っていた意味を理解した。

『英雄を待っている』。『想像を超えた敵』。『強い存在を作り続けていた來栖の組織』。そして、『人間の進化をもたらすアースクリアの存在』。それらの要素から導き出される一つの答え。

來栖は、その敵を倒しえる存在を作りだすため、数十年規模で計画を練っている。

鏡の強さを見て、その力が惜しくなって気が変わったと言ったのも、鏡にその敵を倒せるかもしれない可能性を感じたからなのではないかとタカコは推測する。

そして、仮に鏡にその力がなく、その敵を倒せるだけの力を持った存在を生み出すために協力を自分たちに求めるのであれば、それは、アースクリアを五年以内に救うという条件を諦めてもらうことになる。アースクリアを元の強い存在を生み出すための、魔王を倒すのが目標の世界へと戻すためにだ。

そうなれば、無論自分たちはそれを拒む。そして、來栖に敵対することになるかもしれない。それ故に來栖が邪魔になると言って排除しようとしたとするなら?

だがそれは、未だ推測の域を出ない。