作品タイトル不明
第十七章 逃げ出さないのは
「なあおじき……嘘だろ? あんたレジスタンスの隊長じゃねえか! あれだけ世界を取り戻すために戦ってきたあんたが……外にいる敵を生み出してる連中の仲間って……何の冗談だよ!」
瞳に涙を溜め、今にも泣き崩れてしまいそうなのを必死にこらえてメリーが叫び散らす。だが無情にも、バルムンクは困ったように溜め息を吐き、「諦めろ……これが現実だ」とだけ告げた。
「みんな……小型のメシアと戦ったじゃん? その時、最後に出てきた他よりも性能の高いのに乗ってたの……あれ、隊長なんだよ?」
種明かしをするかのように油機が嬉しそうな表情で事の真相を話す。三日前の朝、バルムンクが男性陣用のテントにメノウたちを起こしに来たのも思えば、隊長がわざわざ起こしに来るという不自然な行動ではあった。
恐らくあれも、全員が変な考えを起こさずにテント内に揃っているかを確認するためだったのだろうと一同は気付く。
「でも本当にすごいよメノウさん。あたしたちの仲間に透明化する力を持った子や、気配を消す子がいるのをピッタリ当ててくるなんて。メノウさん……魔族でしょ? 人間のスキルのことなのに……よく予測できたね」
「……可能性を講じただけだ。仮に、喰人族や獣牙族、そして朧丸殿のような存在をお前たちが生み出したのだとするなら。そういう力を持っている存在を隠していても変でないからな」
「ふーん、人間の力とまでは見極めてなかったんだね。でも、まあ大当たりだよ。気配を完全に消すスキルは狩人の役割を持った彼が、姿を消すスキルは盗賊の役割を持った彼が……それぞれお互いの力を補うようにして皆に近付いたわけだから」
言われて、先程から姿は見えるが気配を感じさせない弓を抱えた希薄な男性と、動きやすい身軽な服装とバンダナを頭に巻いた男性が、腰を落としてナイフをポーンポーンと投げては受け止めるのを繰り返し、メノウたちを睨みつける、
「どうしてこんな回りくどいことを?」
「やだなぁ、自分たちでも言ってたじゃん。レジスタンスの皆にはばれたくないからだよ? メノウさんたち四人程度なら、暴れまわられることなく抑えられるだろうから人数が減るまで一人ずつ潰していったってわけ」
その行動が、何も知らないレジスタンスの隊員たちに知られることのないようにするためであると知り、メリーは表情を歪ませる。
「……ふざけんなよ! どうして、どうしてレジスタンスの皆を裏切るような真似を? 油機……お前、この世界を救うために頑張るんじゃなかったのかよ⁉ おじき! あんたレジスタンスの隊員が死なないように必死に守ってきたじゃねえか! なのに……レジスタンスの皆が敵としている獣牙族や喰人族をおじきたちがって……訳わかんねえよ! 本当は……レジスタンスの皆の命なんてどうでもいいって思ってたのか⁉」
「そんなことはない。皆……大事な仲間さ、獣牙族や喰人族、その他の民族たちの戦闘能力、そして性能を見極めるための戦闘テスト相手として、貴重な人材ばかりだ。失っていい命なんて一つもない……そう一つもな」
「全部……自作自演だったってことかよ」
「メリー、まさかお前が巻き込まれることになるとは思っていなかった。お前だけは……お前の両親との約束もあって、俺が必ず守り通すと決めていたが……こうなっては仕方がない」
「……うるせえよ」
本当にメリーは巻き込みたくなかったのか、バルムンクは残念そうに表情を曇らせながら言葉を漏らす。
「メノウさん。随分と冷静だね? 他の三人に比べて余裕があるように見えるけど?」
「取り乱していては、突破口など見つけられぬからな」
「ふーん……まだ諦めてないんだ?」
「やはりというべきか、予想通りというべきか、レジスタンスの隊長であるバルムンク殿が敵だったことに何の驚きもない。だが、予想通り敵としていてくれたおかげで、一つ疑問が生じた」
「何かな? これで最後になると思うし、答えられることなら教えてあげるよ?」
「貴殿たちの……行動原理についてだ」
メノウが静かにそうつぶやくと、聞いていたバルムンクと油機を含む全員が、ピクッと反応を示した。まるで、聞かれたくないことを的確に聞いてきたとでも言いたいかのように。
「バルムンク殿が今、メリー殿を残念がっていたように、貴殿たちは出来得る限りはレジスタンスの隊員たちを殺したくないようにみえた。なのに、やっていることは自分たちで作った怪物を戦わせて、更なる強化を図ることの繰り返し……何か矛盾しているように感じてな」
「……なるほど。ここまで追いつめれる訳だ」
的確に自分たちから漏れ出た些細な行動から情報を読み取り、推測するメノウを前にバルムンクが感心したかのような声をあげる。
「その問いに答えるなら。俺たちもレジスタンスの隊員たちを利用して外にいる化け物たちを相手させるのは本意じゃないということだ」
「どういことだ?」
「そうするしかないから、そうしているだけだ」
何を言っているのかはわからなかったが、メノウは取り乱さずに冷静に言葉の一つ一つを整理していく。
「俺たちも……元々はお前たちと同じ立場にあったからな」
その言葉でメノウは気付く。今、自分たちの周囲にいる敵は、アースクリア出身の者しかいないことに。アースの世界でありながら、レジスタンスを利用し、アースの世界に化け物を放っているのがアースクリア出身の者しかいないという言いようのない違和感をメノウは覚えた。
「皆さ、この世界……アースに最初に来た時、來栖から何一つ隠されることなく、この世界の事情と、あたし達が住んでたアースクリアの仕組みについて教えてもらったよね?」
メノウが何かに勘付いたことに気付き、油機が感慨深い表情でそう告げる。
「あれは全部本当の話。でも、本当の話だからこそ皆……騙される」
「來栖か……お前たちは全員。來栖によって仲間に引き入れられたんだな」
メノウの問いかけに、バルムンクが頷いて返す。元々、來栖が黒幕であると考えていた一同にとってそれは不思議なことではなかったが、元は自分たちと同じく何も知らずにここに来たはずのバルムンクや油機たちが、どうしてそんな非道な計画を練る來栖に味方をしているのかがわからず、一同は怪訝な表情を浮かべる。
「自力で気付けるだろう疑問を、誤魔化されずに最初にほとんど包み隠さず説明されれば、それが全てで、もう隠していることなんて何もないって思うじゃない? それが來栖のやり口、たった一つの隠し事を隠すための、カモフラージュ」
「知っているものはどれだけいる?」
「ほとんど知らないよ。來栖が考えたこの繰り返しを知っているのは……選ばれた人間だけ。死のリスクが極端に低いバルムンク隊長のようなタフな人にレジスタンスの総指揮を任せるためだったり、あたしみたいな……物の価値が一瞬でわかるようなスキルを持っていたり、価値を認められた人だけが來栖の仲間に迎え入れられる」
「何故……來栖の味方をする? おかしいのは明らかだろう?」
「まさか、自力で來栖のカモフラージュを破って、ここまで辿り着くなんて思ってもいなかったよ。本当なら……成す術なくあたしたちに良いように利用されて、より強い異種族を生み出すための糧になってもらう予定だったのに」
「質問に答えろ! 何故來栖の味方をする? 何故、世界を人間が住めない環境にしている? お前たちがモンスターや異種族を生み出さなければ……平和に暮らせるはずだろう⁉」
痺れを切らし、メノウが怒りの混じった声色で叫ぶ。だが、油機は答えようとはしなかった。それどころか、周囲にいた油機の仲間たち全てが伐が悪そうな顔を浮かべ、表情を暗くする。
メノウたちには、それが異様な光景に見えた。
非人道的な行為を平然と行う敵のはずなのに、本当はやりたくないのに仕方がなく手助けしているかのような、そんな哀愁の漂う表情に、メノウは言葉を止める。
「悪いけど……教えられない」
「何故だ……少なくとも、お前たちも快くは思っていないように見えた。何か事情があるなら話してくれ。我々で良ければ力になれるはずだ!」
「何も知らないくせに……いけシャアシャアと! 黙ってなよ!」
心に語り掛けられるのが嫌だったのか、油機は咄嗟に手元に隠し持っていた小さな爆弾をメノウの顔付近に投げつけて爆発させ、ダメージを防ごうと身構えた瞬間を狙って拘束状態から離れる。そしてすぐさま背中に背負っていた巨大なスパナを手に取ってメノウへと構えると、それに呼応するようにバルムンクが同じく背中に背負っていた大剣を構え、周囲にいた者たちも各々の武器を構えた。