軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たった一人-14

「どういうことですか?」

すぐに真意を問いただそうとティナが聞き返すと、メノウは瞼を閉じて「罠を張ったのだ」と、まるで出来れば信じたくはなかったとでも言いたげに感慨深くつぶやく。

「罠って……もしかしてレックスに発信機でもつけたのか? つっても……あれは稀少な古代文明の道具の一つで、あんたが持っているとは思えないし……」

罠と聞いて、メリーが思い出したかのように発信機の存在を口にする。しかし、メノウはそんなものは使っておらず、否定するように首を左右に振った。

「それがどういった物なのかはわからんが、その発信機とやらをレックス殿につけたとしても恐らく無駄だ。必ず外される……必ずな」

「必ずって、なんでだよ?」

「道具の存在にすぐ気付けるようなスキルをその敵が持っているからだ。嫌でも道具が視界に入るような……そんなスキルだ」

まるで、敵を知っているかのような口ぶりで話すメノウに、一同は思わず息を呑んだ。

「あがくのはやめるってやっぱり……敵の本拠地か、レジスタンスに紛れ込んでいる敵が誰なのかわかったってこと?」

恐る恐る問いかけたアリスの言葉にメノウは頷いて返す。

それを聞くと同時に、追い詰められた状況を打開できると一同は表情をパッと明るくさせるが、そんな中、そのことに気付いたメノウは浮かない顔をしていた。

「次に狙われるのは必ずレックス殿だと私は考えていた。そして、敵と思われる存在にも目星をつけていた。だがまだ確信には至っていなかった。だから、その疑惑が確信に変わるよう……レックス殿には囮になってもらったのだ」

「そういえば……突然の提案でしたもんね」

二手に別れれば必ずどちらかの仲間が狙われることになるとわかっていながら、人数も限りなく減った状況でどうしてメノウが二手に別れることを提案したのかがはっきりし、一同は納得したような表情を浮かべる。

「レックス殿と行動を共にしていたのは、私、レックス殿、アリス様の三人だ。誰が捕まっても変ではない状況で、やはり消えたのはレックス殿だった。何故だかわかるか?」

「……その中で一番強いから?」

アリスの答え返しにメノウは「そうです」と頷く。

「私が最初に考えた通り、強い者から順に消えている。だから、レックス殿が消えるだろうことはわかっていた。それと……」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

メノウの考えには明らかな矛盾がある。すぐにそのことに気付いたメリーは困惑した表情でメノウの言葉を遮る。

「強い者から順って……さすがに違うだろ! 最初に消えたのはクルルだぞ? その次はタカコだ! その次がパルナ! そしてさっきレックスが消えたんだろ⁉ 強い者から順ってことなら、最初にタカコを狙うべきじゃないのか? タカコなんて最初、一人でテントの中に孤立した状態で眠っていたのにクルルが狙われたじゃないか!」

「確かにそうだ。だがそれはある法則に乗っ取ったうえでの話でもある。私はそれを確かめるために、レックス殿を犠牲にしたのだ。そしてそれは、読み通りだった」

「どういうことだよ?」

「何故……誰からも見られる心配もなく、相手を消すのに都合が良いだろう中央施設内を散策していたメリー殿たちではなく、この場所にいた我々が狙われたと思う?」

メノウの問いかけにメリーはすぐさま思考を巡らせて答えを出そうとする。確かに狙うのであれば住宅街予定地にいたレックスたちではなく、中央施設にいた自分たちを狙った方が確実性も高く、おかしくはあった。

しかし、その理由が特にわからず、「敵の本拠地がそこにあるから?」と、唯一絞りだせた可能性を答えてみるが、メノウは首を左右に振ってそれを否定した。

「私も最初はその意図がまるでわからなかった。何故最も力を持つタカコ殿からではなく、クルル殿を先に狙ったのか? 仮に途中で我々が敵の正体に気付いて戦闘になった場合、力のある者が残っていれば苦戦を強いられることになるはずにも関わらずだ」

メノウの言い分は尤もで、その場にいたティナやアリスたちも同じことを考えてはいた。しかし、それだけ戦闘になっても問題ないほどの実力者が相手にいるのだろうという考えに至り、狙う相手もランダムに選んでいるものだと決めつけていた。

「今回はあまりにも不可解なことが多すぎた。だがそのほとんどが、ある法則に従った行動であると仮定すれば。全てほどき解かれる。別に……敵に我々の仲間を消す順番に大きな意図なんてなかったのだ……その法則に従って仲間を消していただけでな」

「その法則って?」

メノウが気付いたその法則が何なのか見当がつかず、アリスは息を呑んで問いただす。

何か意図があるとずっと考え込んでいたメノウにとってそれは、間抜けとでも言えるほどに簡単な法則で、ずっと気付けなかったことを恥に思っているのか少し躊躇いながらも、ゆっくりと口を開いた。

「敵が我々の仲間の誰かを消す時は、必ず別れて行動する時でした。そしてその時、消えた仲間の周りにいた仲間の構成を考えればわかります」

最初に消えたのはクルルだった。その周囲にいた人物はティナ、メリーの二名。

次に消えたのはタカコ。その周囲にいた人物はティナ、パルナ、メリーの三名。

次に消えたのはパルナ。その周囲にいた人物はアリス、ティナ、メリーの三名。

そして最後に消えたのがレックス。その周囲にいた人物は、メノウ、アリスの二名。

そのことから一つの法則に気付いたのか、メリーが「なるほどな」と言って思案顔を見せる。

「その中にいる一番レベルの高いやつから順に消えてるな」

メリーの見解が正解だったのか、メノウは頷いてそれを肯定する。

「でも、それだけだろ?」

「いや……違う」

一見、ただ敵がたまたま狙ったグループの中で一番強い者が消されているように見えたが、メノウはそれだけではないと、まるでその真実を口にするのを躊躇っているかのように否定する。

「その中で一番強い者を消していたという事実ともう一つ、気付ける法則がある。そしてその法則をもとに考えることで敵は導き出される。そして、それを敵とすることで……あらゆる不可解だった疑問が解決するのだ。気付かぬか? 一人……消えていった仲間たちの傍に必ずいない者がいるのだ」

その瞬間、それが誰なのか瞬時にに一同は気付き、時が凍り付いたかのような感覚が襲った。それと同時に、一同は信じられないといった表情を浮かべて一人の人物を注視する。

「油機殿……貴殿と共にいない者が必ず狙われるのだ」

仲間と思っていた人物が敵であったということが相当堪えているのか、メノウは苦しそうな表情をしつつハッキリとそう告げる。

対する油機は、疑心の眼が周囲から降り注がれる中、表情を変えずに「いやいや、やだなー」と、穏やかな笑みを浮かべて立ち尽くしていた。

「最初にタカコ殿ではなく、クルル殿が狙われたのは……油機殿と共にいたからだろう? 恐らくは……油機殿とは別行動をしている者を狙わせることで、疑心の眼を逸らすためのカモフラージュだったのだろうが……裏手に出たな」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 確かに油機さんがいないグループが敵に狙われているけど、最初にクルルさんが狙われるのはやっぱりおかしくない? ボクたちだって油機さんのいないテントで眠っていたし、タカコさんを除けば一番強いはずのレックスさんが消されなかったのは変だよね? ってことは、メノウの考えは何か間違ってるんだよ! 油機さんが敵みたいに言ってるけど……そんなはずないよ!」

油機が、敵と内通しているかもしれないという事実が信じられないのか、アリスは庇うように必死になって、メノウの推理に綻びがないか思考を巡らせる。

だが、アリスのその反論に対しても説明がつくのか、メノウは遠回しに「現実を受け止めてください」と言うように、首を左右に振ってその理論を否定した。

「我々はテントを締め切って眠っていました。仮にその状態で姿の見えない何者かがテントの出入り口を開けて入ってきた時、その中にいる誰かが起きていれば失敗に終わる。そのリスクを負わないためにクルル殿が眠っていたテントを狙ったのでしょう」

「な、それはクルルさんのいたテントも一緒のはずじゃ!」

「忘れましたか? 油機殿は……朝、日課をこなすという名目でメリー殿を起こしにクルル殿のいたテント内に入り込んでいる。その時……出入り口のドアを開きっぱなしにしたのでしょう」

それを言われて、アリスはハッと思い出したかのように押し黙る。

今思い返せば、確かにそれは不自然な行動ではあった。昨日の今日で勝手な行動は慎むように伝えていた中、それを破るかのように日課と称して外を出歩いていたからだ。

その時は油断を装っていたが、今考えれば、それは明らかにおかしな行動だった。

「ま、待てよ! 油機なわけねえだろ⁉ 油機は昔からずっと私と行動を共にしてきた仲間だぞ⁉ あんな……モンスターを外に排出したり、獣牙族のような化け物を作ったりするような奴等の仲間なわけがないだろ⁉ 現に油機は私と一緒で何も知らなかったんだぞ⁉」

レジスタンスの中に潜んでいた敵の一人が、油機であるかもしれないというのが認められないのか、メリーは荒立ってメノウの胸倉を掴み掛かる。

「メリー殿、貴殿は油機殿に無理やり起こされたと言っていなかったか?」

だがメノウは至って冷静な表情で、メリーにそう告げる。メリーもそのことを思い出したのか、ハッとした表情を浮かべると、徐々に胸倉を掴む手を緩めていった。

「それに……油機殿が敵と内通していたと考えれば、初日ではなく翌日の朝にクルル殿が消されたことや、初日に鏡殿が掘った隠し通路が爆破されたことにも説明がつくのだ」

「どういうことですか?」

ずっと意図がわからず、結局出入り口を塞ぐだけで何もしてこなかった初日に起きた爆発の件の答えが気になり、ティナがメノウに注視する。

「油機殿とは別に、クルル殿たちを消した敵が存在する。それはずっと油機殿と行動を共にしていたにも関わらず仲間が消されていたことから明白だとは思うが……初日の爆発が起きたその日、我々を消そうと行動していた敵はまだ、我々がこのノアの施設内に戻ってきていることを知らなかったのだ」

「知らなかったって……でも、出入り口は塞がれましたよね」

「鏡殿が作った隠し通路は、あの日になるまで誰にも見つからずにあったものだ。確かに小型のメシアと一戦交え、我々の存在が敵に露見したとはいえど、あの隠し通路を我々がノアの施設内に戻るまでの短い時間で見つけるとは考えにくい」

「じゃあ誰が出入り口を……」

ティナもまだ信じたくないのか、誰がやったのか既に答えが自分の中で出つつも、その現実を受け止めるためにメノウに言葉にしてもらえるように話を促す。

「……油機殿だ。我々がノアの施設内へと戻るタイミングで爆弾を設置したとしか考えられん。あの時はまだ、隠し通路の存在が敵に伝わっていなかったと考えるならな」

メノウの言葉にティナが「やっぱり……そうなんですね」と、どこか残念そうな表情を浮かべる。それと同時に、ティナにとっても不可解に感じていた部分のほとんどが、ほどき解かれるように辻褄が合っていった。

ずっと変には思っていた。まずは出入り口が塞がれた速さとタイミングの良さ。仮に、油機が戻る間際に爆弾を仕掛けておき、起爆させたとするならばその速さとタイミングにも説明がつく。

「ま、待てよ……それならお前たちにだって可能だろ?」

だが、それでもまだ納得がいかないのか、メリーが震えた声で異論を唱える。

「……塞がれた隠し通路内は爆弾を使ったであろう火薬の匂いがしたと鏡殿は言っていた。つまり、敵は遠隔で爆弾を爆発させることの出来る技術をもった相手に絞られる」

「それだと、私って可能性もあるだろ? なんで油機なんだよ」

「油機殿といない者が狙われるという件もあるが……一番の理由は、我々が隠し通路を通って戻ってきた時、油機殿が最後尾を歩いていたからだ。あの状況で我々に気付かれず爆弾を設置できるとなれば……最後尾を歩いていたもの以外にありえん」

当時の状況を脳内で再生し、メリーは表情を蒼褪めさせる。その時、最後尾を歩いていたのは確かに油機だったからだ。

「その時同行していたピッタ殿の五感で油機殿が爆弾を設置したことに気付かなかったのは、それが気にならないほどの小型のサイズの爆弾であり、皆が歩く時の足音に紛れさせて転がしたからだろう。そしてそれが可能なのは最後尾にいた者だけだ」

念を押すかのようなメノウの言葉にメリーは押し黙る。メリーは、小型ながら大きな爆発を巻き起こせる爆弾の存在を知っていたからだ。無論それが、メノウたちには扱えない代物であることも。

何よりも、それを作り出すための方法を知っている者は、ノアの施設内にいる人間の中でも限られていたが、油機はそれの作り方を知っていた。一目見るだけでアイテムの作り方や性能さえもわかってしまう油機のスキルであれば、一度見たことのある道具であれば作りだすことが可能だったからだ。

「油機殿……貴殿は鏡殿が破壊したあとの隠し通路をすぐに掘り返すことが出来ると聞いた時、異常なほどに驚いていたな? まるで、想定外かのように」

メノウの問いかけに油機は何も答え返さず押し黙る。

「思うに……我々をノアの施設内に閉じ込めるのが目的だったのではないか? ノア内にさえいれば、捕まえることは容易い……そう考えたのだろう?」

そしてそう仮定することで次に、風呂場で呑気に入浴している隙だらけのタイミングがありながら、敵が襲いかかってきたのが翌日からだったという謎が明かされる。

相手を捕まえるのに絶好のチャンスがありながら、わざわざ隠し通路を破壊してメノウたちに監視しているということを知らせて警戒させるだけで、何もしなかった不可解な一連の流れ。それは、その段階で戻ってきたということを知っていた敵が油機だけだったとするなら、仲間として行動している油機には何も出来ず、初日に敵が襲い掛かってこなかったことに説明がついた。