軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たった一人-8

「……いたです!」

ピッタの指示に従って走った結果、鏡たちはレジスタンスの本部を離れたノアの中心に広がる市街地にまで来ていた。

音を起てないように力をセーブして走っているにも関わらず、それでも鏡の走る速度が相手を上回ったのか、ピッタが気配で捉えていた存在に追い付く。

それは、タカコよりも一回り大きく、顔を見せないように黒いフードマントを被った存在だった。

そんな、鏡と同じく幽霊が過ぎ去るかのように音もなく驚異的な速度で走り去って行くフードマントを被った存在を見て、「ようやくおでましか」と、鏡は間違いなくそれが敵であると結論付ける。

「どうするでござるかご主人?」

「……相手に合わせよう。どこで戦っても同じだろうけど、もしかしたら敵の本拠地に案内してくれるかもしれないし」

まるでついて来いと言わんばかりに走り去る敵を前に、鏡は至って冷静にすぐに追いつこうとはせず、背後をピッタリと付け回すような状態で追い続けた。

「……ッ⁉ 消えた⁉」

その途中、目の前を走っていた敵の姿が、まるでどこかへと転移してしまったかのように消え去り、その場からいなくなってしまう。鏡たちもそれに応じて立ち止まり、すぐさま周囲を確認するが、ノア内でも特に見晴らしの良い場所にも関わらず、そこには誰もいなかった。

そこは、鏡が拠点とする壁際のテントがある場所とは正反対に位置する壁際で、人どころか建造物も少なく、まるで何かの爆発物の実験場かのような、地の荒れた平地だった。

「見失ったです……気配もなくなったです」

「透明化……それと気配を消す能力か、すっげぇ厄介だな」

突如消えてしまった敵を前に鏡は慌てず、ピッタにしっかりと背中に掴まっているように指示すると、すぐさま身構えて攻撃に備える。

敵は姿どころか、気配も音すらも発していなかった。だが傍近くにいるのは間違いないと鏡は精神を集中させる。もしも敵がこちらに何かを仕掛ける場合は、必ず触れるか音を発する。その瞬間をついて、殴打を与えればいい。そう考えていた。

「強さはあっても……頭は回らないようだな」

その直後、背後から男性と思われる声が聞こえ、鏡は言葉を返さずに背後へと瞬時に振り返る。そのまま振り返った時の勢いを拳にのせて殴打を放ち、ズドンッと鈍い音を静かな平地に響き渡らせる。鏡の手元には、確かに人を殴った時の感触が残ったが――、

「倒せるとでも……思ったか?」

その男は、鏡の重い一撃を正面から受けたにも関わらず、吹き飛ぶことなく平然とした様子でその場に立ち尽くしていた。

予想外な手応えに、鏡は一瞬硬直する。だがすぐさま危険を察知し、フードマントの男から視線を外さないまま背後へと飛び退いた。

「がっかりだな……我々が姿を消せることには気付いていたのだろう? わざわざ姿を見せたのがおびき寄せるためだと何故気付かない?」

しかし、鏡に攻撃を仕掛けるようなそぶりはなく、言葉通りがっかりしているのか、首を左右に振ってフードマントの男は溜息を吐く。その行動から、鏡は今までに出会ったことのない脅威を感じた。

「……気付いてたさ。気付いた上でのってやったんだよ。じゃないとお前ら……いつまで経っても姿を見せないだろ?」

「ほぅ? うむ……まだ期待外れと言うには早かったか。すまないな」

そんなことは気付いているという鏡の言葉に、敵は安堵したようにうんうんと頷く。

敵の狙いの一つは鏡にあった。

というのも、敵も、鏡の居場所を明確には特定できていなかったのだ。

鏡という存在がいるのは敵も知っていたが、常に動き回り、更に朧丸の力で透明化している鏡の居場所を特定してクルルやタカコのように消すのは困難を極めた。

故に、メノウたちのグループ全員を捕まえず、一部だけを捕まえるだけで留めたのは、単純に鏡をおびき寄せる餌を残しておくためだった。餌を残していれば、仲間が消えている状況をピッタの力で把握している鏡は、これ以上仲間が消えないようにと必ずその餌との接触を図ると考えていたからだ。

更にそのタイミングで、わざと気配を出してやれば、鏡が存在に気付いて追いかけてくるだろうとも考えていた。そしてそれはその通りになった。

だがそんなことが狙いなのは、鏡にもわかっていた。わかった上で、挑発に乗ったのだ。

「クルルとタカコちゃんは無事なのか? ……お望み通り出て来てやったんだ。こっちの質問に少しくらい答えてもいいと思うんだが?」

「お望み通り……か、なるほど。馬鹿ではないらしいな」

フードを深く被っているせいか、顔は見えなかったが、その口調、声色、その体格から鏡はそれが誰なのか見当をつける。予想通りと言えば予想通りだったが、鏡は出来れば敵が、その人物ではあって欲しくないと願っていた。

その人物が敵という真実は、レジスタンスにとっても、ノアに住む人々にとっても、あまりにも残酷な事実だったから。

「安心しろ。まだ何もせずに保護している。お前たち全員を捕らえたあとにやってもらいたいことがあるからな。無論、その後は……いや、口にするのは無粋だな。やめておこう」

自分で捕らえておきながら、フードマントの男はそれが実は本心ではないと言うように言葉を止めて溜息を吐く。

「随分と俺の仲間のことを心配してくれているみたいだな……バルムンク隊長さんよ」

「気付いていたか……まあ、別に今更隠すつもりもなかったがな」

まるで、もう全てが終わったとでも言いたいのか、敵は躊躇することなく被っていたフードを外し、素顔を見せる。

そこにいたのは、獅子のように逆立った髪で男らしくも凛々しい顔立ちをした、レジスタンスに所属するものであれば見間違えることのない存在。バルムンクだった。