作品タイトル不明
たった一人-5
「…………すぐに合流しよう。予想通り敵は複数人を同時に消し去ることはできないようだ……二手に別れて行動する意味はもうない」
『メノウ……さん?』
「すまないティナ殿、私の考慮不足…………私の失態だ。恐らく私の考え通りであれば、今しばらくは敵も奇襲を仕掛けてこないはずだ。すぐに合流してくれ」
そう言い残すと、メノウは歯を食いしばりながら通信機を切る。
メノウは敵ばかりを見て、味方に存在した敵が作りし存在に目を向けていなかった。それは、朧丸が使える能力の一つ『透明化』。仮に喰人族が失敗例だとするならば、朧丸は成功例。そして喰人族のオリジナルが存在すると仮定するならば、無論、朧丸が持つ能力のオリジナルが居てもおかしな話じゃない。
「クソッ!」
考慮出来ていたはずなのに、考慮しきれなかった自分に腹が立ち、メノウは拳を地面へと打ち付ける。何よりも腹が立ったのは、『透明化』、『気配消し』、『音消し』の能力を持つ敵の奇襲の防ぎ方を思いつけないことに対してだった。
仮に考慮しきれていたとしても、防ぎようがなかったと。結局、踊らされていただけだったのだと。
「落ち着けメノウ。お前のことだ……今回で色々とわかったこともあるんだろ?」
「……ああ」
レックスの言葉通り、今回のことでわかったこともあった。だがそれでも、今のところ防ぎようはなく、メノウは頭を抱えて悩み始める。
とりあえずわかったことの一つ目は、『透明化』、『気配消し』、『音消し』の能力を合わせた敵の奇襲の方法。そしてもう一つが、その力によって犠牲になるであろう数だった。
今回も前回も、一人に限らず全員消せばいいはずなのに消さなかった。これは、一人しか消す方法がないと仮定する以外にない。仮にオリジナルがいたとしても一人、もしくは複数人のオリジナルのスキルをもった存在が力を合わせて行っており、殺すではなく捕縛という手段を使っているため、複数人はその能力を持ったものたちだけでは運びきれず、捕まえる対象を一人に絞らざるを得ない状況なのだろうとメノウは判断した。
「恐らく敵は透明化が使える。ティナ殿が言っていた目の前で消えたというのは恐らく敵のスキルの影響を受けて消えたのだろう」
「喰人族の能力に加えて透明化か……防ぎようがないな。だが、タカコがあっさりとやられるとは僕には思えないんだが?」
「この世界には我々が知らない技術が多すぎる。眠らせる薬や痺れ薬など、投与されれば終わりのものを与えられればタカコ殿でも防ぎようがないだろう。それに我々は……攻撃に特化しすぎているからな」
よく考えれば、自分たちのパーティーは純粋な正面からの戦闘に特化しすぎているとメノウは苦笑する。捻ったスキルを持っているとしても、ティナぐらいだろう。
まさか、こんなにも幅広く様々な力が存在するとはメノウも思ってもいなかったからだ。
「ティナ殿のスキルがダメージだけではなく、そういった身体の自由を奪う力にも抵抗できるものであれば良かったが……人間とは、凄まじい生き物なのだな」
そしてそれが今、自分たちにとっての敵である事実にメノウは畏怖した。敵のスキルの全容を知らない限り、対策の練り用がないからだ。
「しかし、やはりタカコが攫われたか……やはり強い者から順に消しているようだな」
「いや……それなら最初にクルル殿がいなくなったのはおかしいであろう? 確かにクルル殿も賢者の役割を持ったかなりの実力の持ち主ではあるが」
「だが、その空間内にいた最も強い者には変わらないだろう? 狙った対象のグループ内の強い奴を狙ったと考えれば、辻褄は合うはずだ」
レックスが言うように、確かにグループ内で狙ったとするなら、それは正しかった。賢者の役割であり、攻撃と回復も得意とする厄介なクルルを先に始末したと考えれば、辻褄も合う。
だがそれでもメノウは腑に落ちなかった。それでも万が一にも正体がばれて戦闘になれば、最も厄介になるのは古代兵器を用いても、防御力を無視して攻撃できるタカコのはずだったからだ。
仮にクルルとティナの眠っていたテントを狙ったとしても、すぐ隣にタカコが一人で、それも無防備に眠っていたのに狙わない理由がわからない。
何か別の意図が存在しているような気がして、メノウは頭を悩ませた。
「ねえメノウ……クルルもタカコさんも大丈夫なのかな?」
その時、いなくなってしまった者たちを心配してアリスが不穏な表情を見せる。
「恐らく大丈夫でしょう。他の者がすぐに襲われないということは何らかの方法でタカコ殿を眠らせ、今運んでいるという状態。つまり生きてはいるはずです……恐らく」
生きていると聞いてアリスはほっとしたような表情を浮かべる。
だが逆にメノウは更に深刻そうに溜息を吐いた。
捕まえるということは何らかの利用価値があるからだと、メノウは理解していたからだ。もしかしたら死ぬよりも辛い目に合っているかもしれない。朧丸から聞いた実験の話を聞いて、メノウはそんな不安を感じていた。
「タカコ殿……すまない」
自分の浅はかさを呪ってメノウはそう吐き捨ててマンションの屋上から立ち去る。
その後、案の定敵からの追撃はなく、ティナたちと合流を果たしたメノウたちは、確保した物資を持ってバルムンクへと報告に向かった。
レジスタンス内に敵が存在し、そいつらが消した等と言えるはずもなく、ただタカコが姿の見えない敵によって攫われたと説明すると、案の定、タカコは喰人族が進化したであろう存在の手によって殺されたことになった。そんな存在、いるはずもないのに。
もしそうなら、一緒にいたティナ、メリー、パルナも死んでいるはずなのに、たまたま運よく生き残ったとして処理された。
そしてそれは、バルムンク一人の判断ではなく、一緒にいたレジスタンスたちとの話し合いによって決議されたことだった。
むしろバルムンクは、ティナたちが殺されなかったことからタカコは殺されずに巣に持ち運ばれたのではないかと、まだ生きている可能性を考慮して捜索するように提案してくれていた。
だが、それがどれほど危険であるかを知っていた他のレジスタンスの隊員たちが、犠牲が増える前にタカコを諦めて帰還し、このことを報告しようと提案した。
それがまた、誰が本当の敵なのかをわからなくさせ、メノウたちは見えない敵を相手に苦しむこととなった。