軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

疑心暗鬼の夜-8

「知ってるかメノウ? 俺さ……皆を心配して制限解除のダメージも抜けてない身体でここまで走ってきたんだぜ? 信じられるか?」

鏡がメノウに語り掛けたが、先程の一件が相当心に負担をかけたのか、メノウは憔悴した表情を浮かべるだけで、何も返事はしなかった。

「ご、ごめんね鏡さん? あ、ほら、ボクはどっちかっていうと……鏡さんの味方寄りだったと思うし、……その、ほら! パルナさんやクルルさんみたいに攻撃しようとはせずに何もしなかったし!」

「ボクハナニモシラナイ」

「あの……えーっと、えへへ」

人に信じられないというのがこんなにも辛かったということを知った鏡は、アリスに言われた言葉を機械のように棒読みで復唱し、遠い目で天井を見つめた。

「紛らわしいあんたが悪いのよ、そりゃ突然何も言わずに突入してきたら誤解するでしょう?」

女々しくぶつぶつと文句を垂らす鏡を見て溜息を吐き、パルナが指を鏡へと突き刺す。

「俺、めちゃくちゃ説明しようとしてたんだけど?」

「細かい男ねぇ、だから謝ってるでしょ? いいじゃないあんたもいいもん見れたんだから」

「いい……もの?」

至って真剣な表情を浮かべながら、「そんなもの見たっけ?」と少し前のことを鏡は思い出そうとする。だが、相当インパクト強かったのか、どうしても脳裏にタオルを胸元に当てたタカコをよぎらせてしまい、「っう!」と表情を蒼褪めさせる。

「そうだそうだ。こうやって皆謝ってんだから恥かかせんなよな、男らしくねえぞ」

「お前は言いたい放題か」

パルナと同じく小さいことで一々時間を取らせるなと言いたいのか、メリーが不機嫌そうに鏡の脛を軽く足蹴りする。

女性陣二人から無下に扱われ、元はといえば自分のせいではないはずなのにと、鏡がチラッとピッタに視線を向けると、ピッタは悪かったと感じているからか、ビクッと身体を震わせて、しゅんっとした表情を見せた。

「ピッタも……お風呂入りたかったです。でも、今は危ない状態だって言ったら……入れなくなると思ったです。でもみんな無事で、楽しそうにお風呂入ってたからだったから大丈夫って……」

「気持ちはわかるけど、先に無事なの報告してくれないと勘違いするだろう? そしてこんな感じに俺たちがとてつもなく不幸になる」

「ごめんなさい……です。」

どうしても脳裏に焼き付いてはがれないタカコの半裸の姿を思い返し、鏡はげんなりする。

「いやーさすがピッタ殿でござった。透明化して浴場に入るや否や一秒もしない間にガッと掴まれて、あと口を封じるように強く握られて後はご存知の通り」

先に浴場内に向かった朧丸は、既に過ぎ去った出来事と割り切ったのか、鏡の頭の上であっけらかんとした口調でそう話す。

「お前は以外とあっさりしてるのな」

「まあ拙者に何かあったわけではござらんからな」

「お前もうちょっと俺に対する労いとかないの?」

「まあ結果的に皆無事だったのだから良いではござらぬか」

無事と聞いて鏡は真っ先にベンチの上で横たわるレックスに視線を向け、「全然無事じゃないやつもいるけどな」と、小さくつぶやいた。

外傷よりも精神面でのダメージの方が大きかったのか、レックスは魂が抜けたかのようにベンチに横たわっている。

「普段の行いのせいですね」

「お前はちょっとくらい悪いって思えよ」

謝るどころか、「ざまあみろ」とでも言わんばかりの悪い顔を浮かべながら、ティナが手を口元に抑えて「ぷっ」と笑う。

「しかし、裸を見られたのも事実……普通ならお嫁にはいけない事態。これは、責任を取ってもらわなければ!」

「え、じゃあボクも責任とってもらう!」

するとそこで、ずっと何か言おうか言わないか顔を赤くして迷っていたクルルが、意を決したかのように握り拳を作り、鏡に指を差して宣言する。それに便乗してアリスも手をあげるが――、

「はいはい、話が進まないからあとでね」

これ以上話が逸れるといつまで経っても休むことが出来ないと、誰よりも一番暴れていたタカコが冷静に手をパンっと軽く鳴らして仕切りなおした。

すると、勇気を振り絞って言葉を発したクルルとアリスは目を点にしながらも押し黙る。そして、その光景を見てパルナが声を出さないよう口元と腹を抑えて笑っていた。

鏡も、一番暴れていたやつが最も早く冷静になっているのが少し腑に落ちなかったが、今はそんなこと言っている場合じゃないかと、気持ちを切り替える。

「とりあえず、既に私たちの動向がばれているのを知って助けに来てくれた……ってのはわかったけど、特にまだ何もされてないし、鏡ちゃんもここに来る途中で何かされたわけじゃないのよね? あの隠し通路の入り口を破壊されただけなのかしら?」

「今のところそうだな……入り口を破壊するだけ破壊して、何もしてこない」

「……何が狙いなのかしら」

感慨深く顎に手を置いて、タカコは一考する。

「……何か引っかかるわね。メノウちゃんはどう思うかしら?」

「……愚策ではあるな。確かに見つかっていることをあえて知らせるのは相手に混乱や警戒を生ませ、精神面的に追い込むことは出来るが。このタイミングでやるくらいならば、安心させておいて奇襲をかけた方が相手にとって得なはずだ……あえて爆発を起こして鏡殿の注意を引くことで、入浴していた我々に奇襲仕掛けるというのが目的だったのならば話はわかるが」

結局、見つかっていることを教えるだけで、特に何もしてこなかったことにメノウもタカコと同じ引っ掛かりを感じていた。

「そうよね……鏡ちゃんがそれを危惧してここまで急いで来たくらいだもの」

タカコに促され、鏡は頭を縦に振る。実際、鏡が女性風呂に突入するくらい慌てていたのも、敵が地上を爆発させることによって鏡の注意を引き、皆と別々の行動させた後、奇襲をかけるつもりだったからなのだと考えていたからだ。

「一応、我々をこの地下施設に閉じ込めるという意味では、ほんの少しの間なら効果はあるがな、今のところ……ただ監視しているぞと、わざと教えてくれただけに近い。これが余裕なのか……何かを意図してなのかが全くわからん」

「え? どうして? 出入り口を塞がれたなら閉じ込められたのも同じじゃないの?」

そこで、不思議そうに出入り口を塞がれたのなら閉じ込められたも一緒じゃないのかと、油機がマジマジと見つめながらメノウに顔を近付けて質問する。

「メリー殿と油機殿はまだ鏡殿の力を充分見れていないかもしれないが、鏡殿であれば再び埋められた穴を掘り返すくらいのことは簡単にできる。それに私は昔、鏡殿が地面を猛烈な速度で掘っているのを見た……いや、体験したというか」

吐き気がするほどの螺旋回転をその身で体験したのを思い出し、メノウは「っう!」と辛そうな表情を浮かべて口元に手を当てる。

それを見て油機も「とりあえず、昔凄いことがあったのはなんとなくわかったよ」と、これ以上聞くのは無粋だと、「あはは……」と乾いた笑みを浮かべながらメノウの背中をさすった。