軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなものに、なんの価値がある?-9

きっと聞いても鏡は答えてくれない。変に誤魔化すか、困った表情をするだけだ。それがなんとなく分かってしまったから、あえて聞かなかったこと。

「この世界には、レベル500を越えるモンスターなんて存在しない」

アリスはそこで立ち止まって、小さくそう呟いた。

どうあがいても、そのレベルに辿り着くことは不可能であるということをアリスは知っている。魔族だからこそ、モンスターと共存できる存在だからこそ知り得る最強のモンスターの存在を知っている。出会えば生きて帰ることは出来ず、迷い込めば脱出不可能なその場所を。

「レベル500を越えることは出来ないはず。なのに……鏡さんはレベル999だった」

「レベル500のモンスターがいるなんて初めて知ったけど……鏡ちゃん以外に、レベル999に辿り着く人が現れてお父さんの命を狙わないか心配しているなら大丈夫よ」

そこで、心底レベル999に成り得る方法を気にするアリスに対し、タカコは優しく微笑みながらそう言った。

「多分、鏡ちゃん以外には無理だから」

「どうしてそう思うの?」

「鏡ちゃんは、どんな生物においても大切なものが一つ欠けているから……それと、最高に馬鹿だからかしら?」

そう言うと、タカコはガッハッハっと男らしく笑い始める。

「そ、それを教えてよ! それのおかげであの境地に辿り着けたんでしょ?」

「それはあなたがこれから知っていくことでしょ? まだ出会ったばかりなんだし、私達と本当に仲良くしたい想いがあるなら、何でも聞いてばかりじゃ駄目よ」

タカコがそう言うと、アリスは少し反省したのか、しゅんっと落ち込んだ表情を見せた。

それを見て、タカコは抱きしめたくなる衝動に駆られるが、今まで可愛い物を公共の場で抱きしめて、問題にならなかったことがないため、ぐっと堪える。

「ま、まあレベル999になる方法なら特別に教えてあげちゃう! 経験値ってね、格上と戦うことでも手に入るのよ。鏡ちゃんがそう言っていたわ」

「格上?」

「レベルが高くても、実力が自分よりも上なら経験値は入るってことよ。普通よりも弱い村人のロールだから得られるような経験値ね」

それを聞いて、尚更アリスは疑問を抱かずにはいられなかった。仮に村人が弱くて、アリスが知っているレベル500のモンスターが相手でも、レベル900にもなればきっと余裕で勝てるようになる。

スキルの存在を聞かされた後のため、尚更アリスはそう思った。考えれば考える程、鏡という存在が不思議で仕方がなくなる。

「鏡さんは……どうしてレベル999を目指したんだろ。レベル999になって、何を知ってしまったんだろ?」

「それは私でもわからないわ。でも大丈夫よ、鏡ちゃんは今も昔も変わらず優しいから。だからアリスちゃんも安心しているんでしょ?」

タカコにそう言われ、色々とモヤモヤとしていた感情がアリスから晴れる。

色々疑問は絶えないし、まだ出会ったばかりではあるが、鏡は優しい。そう思えたからこそアリスはこんなにも知りたいと思えたのだ。なら、これから知ればいい。焦る必要はない、少なくともこれから始まる旅の間は。

「そして、私がいるからアリスちゃんはより安心している」

タカコにそう言われ、モヤモヤとした感情がアリスにあふれ出す。

「僕、温泉……もう行かなくてもいいかなって、ちょっと思い始めているんだけど」

「駄目よ女の子が汗臭いなんて! 鏡ちゃんが許しても私が許さないわ!」

タカコはそう言いながら、大きな巨体をずずいとアリスに近付けて指を差す。あまりの迫力に、アリスは心が蒼白になって、諦めたからか自然と乾いた笑みを浮かびあげた。

「さあ……温泉に行くわよ!」

アリスの手を強引にがっしりと掴み、温泉のある場所に向けてタカコはビシッと指を差した。

直後、タカコが指差した方向の目と鼻の先にドズンッ! と、大きな音をたてて紫色の身体をした巨大な物体が突如落下する。

「……へ?」

大きさは、タカコの4倍はあるだろうか? たまたま、誰もいなかったヴァルマンの街で最も面積のある広場の中央に落下したため、下敷きになった者はいなかったが、それでも、誰かがいたら確実に潰されていた。

落下により、地面の石畳が粉砕されてへこみが出来ているのを見て、アリスは息を呑んでそう確信する。

「ぐる…………ぐるる……ぐる……ぐるふぅ……」

そしてその紫色の巨体は、聞くだけで背筋が凍るような低い唸り声をあげ、ゆっくりと黄色の眼光を放ちながら動き出す。二つの前脚をずんっと地面にめり込ませ、二つの後脚も同じように地に着け、突進するぞといわんばかりに地面をガッシュガッシュと打ちつけている。

かつて神話に存在した闘牛のような威風堂々たる姿で、魔族が生やす物よりも大きく黒光りする角を持ち、まるで戦うために生まれてきたかのような筋肉で埋め尽くされたその肉体は、紛れもなくブラッディ―バッファと呼ばれるレベル54のモンスターだった。

「邪魔よあんた」

「ぐる……るぉ!? ぶるぉおおおおおお!?」

だが、突然空から飛来したブラッディ―バッファは、すぐさまタカコの回し蹴りをもろに胴体に喰らい、大きな鈍い衝撃音を放つと水平方向に物凄いスピードで吹き飛び、石ブロックで出来た広場の壁に衝突すると、消滅してゴールドへと姿を変えた。

「さあアリスちゃん。温泉に行きましょう」

「いやいやちょっと待って。凄い、僕こんなに困惑したの初めてだよ」

突然空から降って来たモンスターを回し蹴りにより一撃で仕留め、何も意に介した様子も無く温泉に行こうとするタカコにアリスは目眩がした。周囲を見渡すと、今倒した一体だけじゃなく、空から次々にブラッディ―バッファが落下してきている。

何故こんな状況で、そんな落ち着いてまだ温泉に行こうとするのか? むしろアリスはこの状況よりもタカコの方が怖かった。

「あら。いっぱい落ちてきているわね。私のお店に落ちてなければいいけど」

「いやタカコさん、落ち着いている場合じゃないよ!」

実際、ヴァルマンの街内は至るところで悲鳴が上がり、騒然とした状況へと変わっていた。

どうしてブラッディ―バッファが空から落下してきているのか? アリスとタカコはすぐさま顔を見上げてその原因を探ると、十数体くらいの黒い翼を持つ巨大な怪鳥が、ヴァルマンの街を埋めつくしていた。

「あの怪鳥がブラッディ―バッファを連れてきたの? 一体どうして?」

「アリスちゃん落ち着いて。皆騒いではいるけど大丈夫よ。ここは冒険者の街だから」