軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなものに、なんの価値がある?-7

「まあまあ、そんな心配そうな顔するなよ。悪い奴じゃないからさ、俺が保証する」

その後、鏡もその人物を信頼しているのか、連れてくることに何も心配していないかのように、真っ直ぐ宿屋へと向かい、部屋を確保した後、アリスを部屋に置いて鏡はその人物を探しにでかけた。

「鏡さん……遅いな」

宿屋に置いて行かれた後、アリスは10帖くらいの広さで、二つのベッドと、窓から街を一望出来る場所にテーブルとイスが置かれた部屋で2時間程待機していた。

外に出ようかとも思ったが、万が一のことを考えると鏡がいないと不安になり、ベッドの上に腰を掛けて足をプラプラさせたり、窓から街を眺めたりして時間を潰していた。

とはいっても、さすがに2時間も何もない部屋にこもりっきりなのは退屈する。魔族の集落から古の洞窟に行くまでの野宿生活に比べれば、こうやってちゃんとした寝床で寝られるのは凄くありがたいことだが、やはり窮屈には感じてしまう。

「おーい、居るか? 部屋のカギを開けてくれー」

そして、そんな不満が少し募り始めた頃、部屋の出入り口であるドアから三回ノックをする音が聞こえ、鏡の呼び声が耳へと入る。

その瞬間、アリスは表情をパッと明るくし、腰かけていたベッドから飛び出してドアの前へと移動した。

「お帰り鏡さん! 今開けるね!」

ご機嫌な様子でアリスはドアノブの上部にある鍵を横から縦に回し、ガチャンっと音がなると同時に勢いよくドアを開けた。

そして、すぐに閉めて鍵をかけた。

ドアを開けた瞬間、アリスは無表情になった。てっきり鏡がドアの前に立っているかと思ったら、全ての髪の毛をまとめて1つに三つ編みに括って後ろへと垂らし、鏡の1.2倍くらいはあるだろう身長と、クマを連想させる筋肉隆々でムキムキでピンク色の道着を着用した大男が立っていたから。

「おーい、アリス。俺だよ俺、鏡さんだよぉー。開けてくれって」

しかし聞こえる声はやはり鏡だった。名前まで言っているからには、やはりちゃんと確認せざる得ないと考え、アリスは再び鍵を開けてドアをゆっくりと開ける。

「あらやだ……可愛い!」

アリスはあまりの迫力に腰を抜かして後ろへと下がった。

まるで戦うために生まれてきたかのような肉体を持ちながら、二重に分かれたケツアゴのごつい顔に化粧が施され、タラコの唇にリップクリームと思われる保湿剤を塗ったようなあとがある姿を見て、アリスは脳内で逃げるのコマンドを選択した。だが逃げ道はない。

ピンク色の道着と、その容姿から考えられるのはこの大男がアレ系であるということ。そして、その鍛え抜かれた筋肉の総量は完全にヤバい奴ということだけだった。

「ちょ、タカコちゃん。怯えているから先に俺を中に入れて」

そしてその大男を押しのけて、ようやく鏡が部屋の中に姿を見せる。その瞬間、ようやくアリスは心を落ち着かせた。

「んもぉー……怯えることないのよぉ? お嬢ちゃん、私、優しいんだからね?」

そんな見た目で言われて説得力がない、っと鏡は思う。とりあえず腰を抜かして倒れるアリスを起こし、ピンク色の道着を着た大男を部屋の中に入れてドアを閉める。

「よいしょ、ほら……薬を買ってきたぞ。無くさないように俺が持っとくな」

そして部屋に入るや否や、ドカドカと背負ってきた大きなリュックサックを窓際へと置いて鏡がそう呟く。恐らく旅の支度を整えてきたのだろう。

それと同時に、肩から掛けるタイプのバックから何やらティーセットを取り出し、魔法瓶からこぽこぽと紅茶らしき香りを放つ飲み物を用意して、イスに座り、優雅に飲み始める大男。

「あ……あの、鏡さん? 鏡さんが言っていたお仲間って、あの……この人?」

そんな二人の行動を、ぼーっと目を点にしながら眺めていたアリスは、恐る恐る鏡に向かって質問する。

「ん? そうだよ? 俺が最も信頼するレベル124で武闘家のタカコちゃんだ」

アリスがレベル124と聞いて、あまり驚かなかったのは、そうでもあってもおかしくないと思えるような見た目だったからかもしれない。

アリスの脳内では、武闘家という納得感と、鏡さんが最も信頼しているという意外な発言だけだった。

「聞いているわよぉアリスちゃん? んもぉー可愛いわねぇ……食べちゃいたい」

その言葉を聞いて、顔の表情を変えないままスススっと移動して鏡の背後へと隠れるアリス。

「だから怯えるなって。タカコちゃんはお前が魔族って知っても全然何も問題なく味方してくれる良い人だから」

「え……! 魔族って知っているのに……嫌がらないの?」

予想もしていなかった鏡の言葉にアリスは驚き、表情を和らげる。不思議なことに、自分が魔族と知っているのに敵対しないというだけで、親近感が沸きあがった。

「自己紹介がまだだったわね。私、タカコ=ビルダー、さっきも鏡ちゃんが言った通り武闘家よ? あなたが魔族だからって攻撃するようなことは絶対にないから、安心していいわよぉ」

「ど、どうして? 魔族が邪魔じゃないの?」

「アリスちゃんみたいな可愛い子、殺せる訳ないじゃなーい……それに、魔族も人も関係無いわ。そりゃ昔は私も魔族を倒さなきゃってなっていたけど、昔、回復薬を切らして命を落としかけた時に魔族に助けてもらってね……人間も魔族も変わらないって気付いちゃったの」

タカコのその言葉に、アリスは目を見開いて鏡とタカコを交互に見回した。

「あ、あの! 僕に協力して欲しいんだ! 人間と友好的な関係を築きたくて」

「それは無理よぉ。だって、理解してもらえないんだもの。実際、魔族が人間に害になっているのは変わらないわ。だから私も戦うの馬鹿らしくなっちゃって、冒険者なんて引退してこの街でバーと、クラブGACHI MUCHIを作って経営して、のんびりと暮らしているのよ?」

そんな中で、ふらっとバーに遊びにきた鏡と意気投合し、仲良くなって冒険者はやめたが一緒によくお宝探しやクエストをこなしたりしていると野太い声色で言葉を付け足し、タカコは溜め息を吐いた。

「鏡ちゃんったら最近遊びに来てくれないから、久しぶりに来て喜んでいたのに……まさか用件が魔族の護衛をして欲しいって、驚きよぉもう! 鏡ちゃんの頼みだったら断れないけど」

「だってタカコちゃん、バーを営業している日が少なすぎんだよ」

「クラブに来ればいいじゃない! そっちの方が売り上げあるのよー?」

「やだよあんな恐ろしい所、絶対に行きたくない」

そんな二人のやりとりを見て、次第にアリスもタカコに対する警戒心が薄れつつあった。

「あの……ごめんなさい。最初、変に驚いちゃって」

「あらっ! 礼儀正しいのねぇ~? いいのよ? こんな見た目ですもの……驚くのも無理ないわ?」

「これからよろしくお願いします。タカコさん!」

そう言って、アリスは誠意を見せるために頭を下げた。

「いいのよ? あ、そうだ! アリスちゃんってずっと野宿だったんでしょ? お風呂に入りたいんじゃない? この街にある温泉に一緒に行きましょうよ? 大丈夫、ほとんど人がいない穴場だから」

そう聞いて、アリスは過剰に反応して見せる。ずっと野宿生活が続いていたため、実はずっとお風呂に入りたかったのである。

途中、水浴びを何度かしたが、やはり暖かいお湯につかりたいという気持ちは捨てられない。

「う、うん! 行きたい! 鏡さんも行こ!」

「行きたいなら二人で行ってこいよ。どうせ男女で分かれることになるんだし、一緒に行く意味ないだろ?」

「……え? タカコさんもそれは一緒でしょ?」

「なに言ってんの? タカコちゃんは女だよ?」

その瞬間、すごいよ鏡さん、時を止める魔法が使えるなんて! と思える勢いでアリスの思考が停止する。

「えっと……え? その、鏡さんより……タカコさん、大きいんだけど?」

確かに化粧はしているし、着用している道着もピンク色だ。だがどう考えても身体のサイズが女の基準を遥かに越えている。

「だが女だ」

鉄板とも言えるような筋肉で引き締められた胸板。立っているだけで見る者を圧倒する鍛えに鍛え抜かれた筋肉は、岩石を砕いてもおかしくないと思える風貌。誰よりも男らしい。

だが女だ。

丸太のように太い足と腕、見た瞬間凶暴なクマを連想させる圧巻の見た目、実力も伴ったレベル124。そしてヴァルマンの街にバーとクラブGACHI MUCHIを経営するオーナー。

だが女だ。

「ちょちょちょっと待って! あの、タカコさん、その、胸とかないし! あの、その!」

「タカコちゃんのおっぱいの脂肪とか、全部燃焼して筋肉に変わっちまったよ」

そう言いながら、慣れたかのような雰囲気で荷物の整理をしゃがみながら行う鏡。

「んもぉー! 鏡ちゃんったら! 言葉を選ぶってことを知らないの?」

「はは、ちょっとマジやめてタカコちゃん、HPガンガン減ってるから、ね?」

失礼な発言をしたからか、タカコは丸太のような太い足で鏡の首筋をローキックでズッドンズッドン蹴り始める。蹴った時に激しい衝撃音が鳴り、軽く地面が揺れる。

耐えている鏡も相当だが、そんなローキックを放つタカコさんにも驚きを隠せない。これが……女? そう疑問に思ったアリスの表情は無表情だった。