作品タイトル不明
それでもただ、前へ-5
「どうしてこんな場所にいるのだ? レジスタンスの者たちからは死んだ扱いになっていたが」
「しかもがっかり英雄とかまで言われてましたよ? それにあれだけ邪魔して、邪魔した相手の居住地で暮らすとか肝太すぎでしょ」
色々疑問はあったが、まずここにいる経緯をメノウが問いただす。その上でティナが、鏡が知らないであろう陰で言われていた事実を呆れ果てた様子で口にした。
「がっかり英雄って……まあ確かに生きているのに戻ってないならがっかり英雄か、まあ全部話せば長くなるけど……とりあえず何があったのかくらいは説明しよう」
それから、鏡がこの世界に来てからの経緯の説明が行われた。
「まずここに来た時に最初に思ったのは……何これ? こんなの期限以内に世界を救うとか無理だろ? しかもやってること魔族と人間との争いとほとんど変わらないし! だった」
1年前、鏡はアリスたちと同じように來栖にこの世界の説明を受けた。アースクリアはアースを救うために強い人間を作り出すためのシステムだったとか、自分たちがカプセルの中で眠り続けていた存在だった等、アリスたち全員がもれなくショックを受けた話を全て聞いていた。
だが鏡にとってそんなのはどうだってよかった。
自分が生きていた場所がどこであろうと、そういう生活が実際にあって楽しく生きていたのだから、どんな形でもどうでもよかった。鏡にとって重要だったのは、どうやったら世界が救われるのか? それだけだった。
「なんか魔力銃器を持った男勝りな奴と、でっかいスパナを背負った奴に案内されてとりあえず出来ることからしようかって、レジスタンスにも加入はした」
でもやっていることは、世界を救うのには程遠い地道な作業だった。アースの住民が生活しやすいように物資の補給や、周辺のモンスターを駆除するなどの作業ばかり。
そしてようやく訪れたレジスタンスの世界を救うための大チャンスも、結局、獣牙族を殲滅してアースに存在する生命体を一網打尽にするだけの作戦だった。レジスタンスの掲げる世界を救う定義は、『アース上に存在する人間以外の生物を全て滅ぼす』だったからだ。
「ぶっちゃけ、それも一つの手だとは思った。でもあれだ、期限以内に世界を救うには圧倒的に時間が足りなくてさ。二年で全部滅ぼすって現実的じゃないし、何より獣牙族って、魔族と一緒でほとんど人間と何も変わらないからさ……個人的にも戦いたくなかったんだよね」
鏡は初めて獣牙族と相対した時、人間と同じように仲間を重んじ、老人や子供を率先して守ろうとする姿を見て、戦う気力を失わせた。戦わなければいつまでたっても世界を救えないのはわかっていても、行動する気になれなかったから。もしそこで獣牙族を自分の手で始末すれば、自分の中にある信念が崩れ去るような気がして。
だが同時に、魔族の時のように和解するのも無理だと鏡は悟った。獣牙族が、話し合うのも不可能なほどに人間を憎んでいたのもあるが、何より、魔族の時と違って和解する理由が何一つなかったからだ。
アースクリアの場合、人間が一方的に魔族を追いやっていただけで、人間が迫害をやめるだけでよかったが、今回はお互いがお互いの存在を主張して傷つけあっている。何より、獣牙族には魔王や国王のような一族を取り纏めている者がいないため、和平の道を歩むには全員の納得が必要だった。とてもじゃないが、憎しみが募っている状態で和平の道を歩ませるのは不可能だと判断した鏡は、どちらか片方が倒れるまでこの争いはきっと終わらないのだろうと悟った。
そんな時だった。作戦通り獣牙族を罠にまで誘導し、一網打尽にしようとその罠を作動させる直前、獣牙族がその罠に気付いていることに鏡は気付いてしまった。獣牙族の数が異様なほどに少なかったのだ。
その証拠に、バルムンクが「この群れは数が少ないな……むしろチャンスか」と言っていたのを鏡は今でも覚えている。
若者が数人、あとは老いきった者がほとんどで、全て合わせても十数人しかいなかった。まるで人間が自分達に気を取られて欲しいと言わんばかりにゆっくりと歩きながら。
「カモフラージュだったんだよ。獣牙族としても子供や老人を連れ歩いて、今日戦ったような利用できる足場の少ない場所で戦いたくなかったんだ。だから、人間を引きつける囮を立てた。足手纏いになるからと死を選んだ老人と、その老人をなんとしてでも守ろうと志願した若い連中がな」
獣牙族の五感は人間が思っている以上に遥かに強い、木や草に隠れているだけであれば、近くにいる人間くらいは簡単に察知できる。このままでは人間に追撃を受けると危惧し、獣牙族は囮をたてたのだ。
だが、獣牙族は人間の位置は察知できても、罠の位置までは察知できない。罠は、数分に渡って爆発を巻き起こし、地盤を崩して生き埋めにした後、更なる爆発の追い打ちで確実に粉微塵にするシンプルな造りのものだった。だが威力は充分にあり、獣牙族を一網打尽にするには充分な威力は持っていた。
結果、獣牙族の若者たちは囮に使った老人たちを助けられず、もれなく罠に巻き込まれた。だがその直前、鏡の眼に映った光景に違和感が生じた。
「その中に一人、子供が混ざっていたんだ」
次の世代に託すため、老人を囮に使ったのだと思っていた。だが一人、何も知らずについてきたのか、剣幕しながら周囲を警戒する大人たちをキョロキョロと見回しながらちょこちょことついて来ていた子供がいた。
明らかに、どうして群れからはぐれているかわかっていない様子だった。なのに、周囲の獣牙族はまるでその子供がいないかのように無視していたのだ。
何も知らず、わけもわからず尽きようとしている命を目の前にして、鏡は気付けば飛び出していた。ぶっちゃけ、獣牙族だけを殺しても世界を救ったことにならない。普通にやっているだけじゃ世界は期限内に救えない。目の前の獣牙族と戦う気もない。それなら自分のしたいようにしよう。鏡はそう考えたのだ。
獣牙族と共に罠による爆発に巻き込まれはしたが、鏡は一定時間だけだが身体能力を倍増させるスキル『制限解除』の力を使い、生き埋めになりはしたが、レジスタンスの連中にばれないようなんとか制限解除の効果時間内に地中を掘り進み、その子供だけは守り抜いた。
「そしてそこにいた子供がここにいるピッタだ」
そう説明すると、ピッタはエヘンッと腰に手をあてて自慢げに踏ん反りかえった。
「でも……どうして鏡さんはレジスタンスに戻らなかったの? やっぱり魔族との仲をとりもったように、獣牙族との仲をとりもとうとしているから?」
「いや全然違う。さっきも言ったけど獣牙族との和解は現状かなり難しいし、それだったら俺がレジスタンスに戻って、獣牙族と仲良くするように働きかけた方がよっぽど手っ取り早いだろ?」
てっきり鏡はアースクリアの時と同じように、和平の道を築けるように動いているかと思っていたアリスはそれを聞いて「……そっか、確かにそうだね」と表情を曇らせた。
すると大人姿のアリスが目に見えて落ち込んでいるのを見慣れていないせいか、鏡はどこか焦った様子で頬をかき、「いや、まあ話は最後まで聞けよ?」と、弁解しようとする。
「まあ……なんていうか、今日の遠征で喧嘩両成敗にしたのは仲を取り持つとかそういうのじゃないんだ。期待させたみたいで悪いがな」
「ならば一体なんだと言うのだ? というより……ここにいたのであれば、私たちがアースに来たのも知っていたのだろう? 何故すぐに話しかけてこなかったのだ?」
募る疑問をたたみかけるようにメノウは鏡へと投げつける。
「いや、だってお前らレジスタンスの連中と一緒にいたし、そのあとすぐに獣牙族を討伐しに出かけたじゃん? 話しかけるタイミングなんてなかったって、俺もレジスタンスが獣牙族と殺し合わないように出かけなきゃならなかったのに」
そして返ってきた言葉を聞いて、いよいよ鏡が何を目的として行動しているのかがわからなくなり、一同は顔を見合わせて首を傾げる。
「……仲を取り持つつもりはないのに、殺し合わないようにするとはどういうことなのだ?」
「えっと……それはだな」
「話はそこまでだ」
その時、勢いよく鏡たちのいるテントのドアが開かれる。するとそこには、険しい表情を浮かべながら魔力銃器を構えるメリーと、驚愕した表情で手を口元に置く油機、そして、悟ったかのような表情で腕を組むレックスと、ヤレヤレと呆れ果てた表情で立ち尽くすタカコとパルナの姿があった。
「きゃぁぁあああエッチィ!」
だが鏡はそう叫ぶと、すぐさまドアを閉じた。