軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それでもただ、前へ-2

その後、謎にやる気に満ちたメリーに連れられて向かった先は、レジスタンスの本部を抜けた先にある市街地だった。大きな鍋を持ったメリーが市街地に到着すると、待っていましたと言わんばかりにざわめき声が街の至る所で聞こえ始める。

「ご飯ってもしかして……ノアの施設に住む人達全員に作るんですか?」

出来上がるのを待っているのか、こちらに羨望の眼差しを向けながら、建物の陰に隠れて指を咥えて待っている子供達を見て、クルルが素朴な疑問を抱く。

「そうだ。食料の管理をしているのはレジスタンスだからな、まあさすがに私達だけで全員分作るわけじゃないが、少なくともここらへん一帯は私達の担当だ」

「ですが……そうだとしても、ここ一帯の人数を賄うには量が足りなくないですか?」

「ん? ああ、もうちょっと奥の居住区側にちゃんと飯を作る場所があって、そこに食材はちゃんと保管されているから心配するな。こんな道路のど真ん中で作るわけないだろ? 火もないし」

それを聞いてクルルは安心したかのように、ほっと息を吐いて手を胸に当てる。

「安心しました。てっきり、それほどまでに食料難なのかと心配していたので」

「いや食料難だよ。だから私達がその日生きられるだけの食料を分け与えるように管理してるんだ。さすがにこの手元にある分よりはあるけどな」

メリーの淡々と吐かれた言葉で、クルルは「そう……ですか」と表情を一転させて暗くする。予感はしていたが、思っていたとおりアースの住民の生活は、アースクリアで暮らす者達よりも貧困で自由がないことをはっきりと認識したからだ。

カプセルの中に入れられて眠り続けている方が、場合によっては幸せな生活を送れるという皮肉な世界の現状に惨めさを感じずにはいられず、メリーのような年端もいかない少女が世界を取り戻そうと必死に戦おうとする理由が痛いほど理解出来た。

「あれ? じゃあメリーちゃんが持ってる食材ってなんなんです?」

疑問に思ったティナが、首を傾げながらメリーが持っている鍋の中身を覗き込む。

「私が世話をしている小さな畑でとれたんだ……子供達に食べさせてあげたくてな」

「メリーちゃんもまだ子供なんだけどね?」

少し照れくさそうに口籠るメリーに、油機がにやーっといたずらっぽい笑みを浮かべる。

「うるさい! 私はもう大人だ! 子供扱いするな!」

噛みつくような勢いでメリーは言い返すも、油機に微笑みを向けられながら「はいはいよしよし」と頭を撫でられる。鍋を両手に持っているせいで何もやりかえせず、メリーは「く、屈辱……」と恨めしそうに油機を睨みつけていた。

「強いのね……この世界の住民は」

その光景を見て、タカコは感慨深くそうつぶやいた。

レジスタンスが外に人員を充てられるのはノア内の秩序が保たれているからだ。本当に目を向けなければならない問題を理解し、どれだけ貧困であっても、仲間内で争わず、奪い合わず、協力し合って前に進もうとしている。

例え、アースクリアの住人がこの世界で生きていくのにレジスタンスへの協力が必要不可欠といえど、レジスタンスにいたアースクリア出身の者達はむしろ一緒になって世界を取り戻すのを躍起になっているように見えた。そうなったのも、戦っている者達だけでなく、ノアの施設にいる全員が前に進もうと努力しているからに他ならない。

タカコにはそれが、アースクリア内でも珍しい美しさの一つに思えた。

「よーし、押すなよー! ちゃんと全員分用意してるからなー……多分」

「多分ってなんだよ姉ちゃん!」

「そーだそーだ! ちゃんと配分考えて配れよ! 姉ちゃんただでさえ大雑把なんだからさ!」

「うるせえぞガキ共! これでも昔よりマシになったんだからな私は!」

それから更に数十分後、ノアの施設に点在する各居住区の中心にある配給所は、アースの住民による行列が出来上がっていた。現在、エプロン姿に身を包んだ一同は、作り上げた食事を住人たちが持ち寄る食器の中へと注いでいる。

全員同じ食事を配給し、メリーが特別に作った野菜をふんだんに練り込んだ団子も子供たち限定で配っているのだが、何故かメリーが食事を配給する場所にだけ子供たちが群がっていた。

メリーが普段からどれだけ信用を得ているのかがわかり、パルナとティナとタカコは微笑ましそうに子供たちにいたずらをされるメリーに視線を向けた。

「大人気ねメリーちゃん。羨ましいわ……あんなに子供になつかれて。どうして私の方には全然人が来てくれないのかしら……んもぉ、こんな美女ほったらかしにして」

羨望の眼差しをタカコはメリーに向ける。メリーとは真逆で、タカコの列にほとんど人はおらず、並ぶのは年配の老人たちばかりだった。

あまりの人の寄らなさにタカコは「ねえ? 皆照れてるのかしら?」と、右隣で同じように配給を行っているティナとパルナに聞くが、「ソウデスネ」とティナが、「ホントミンナモッタイナイワヨネー」とパルナが、それぞれ全く視線を合わせずに遠い目をしながら手だけを動かす。

「タカコ……エプロン姿はまだいいが、ハートのエプロンはやめておいた方がいいと思うんだ」

そこで気まずそうに、左隣に立っていたレックスが「おほんっ!」と咳き込んで助言する。

「あら? またあれかしら? 刺激が強すぎるのかしら?」

「ああ……そうだな、刺激たっぷりだ。やばいほどにな」

だがタカコに真実を告げるのは、とてもレックスにはできなかった。

「お姉ちゃん……ありがとう」

「お、お姉ちゃん……⁉ ねぇパルナさん! 今ボクお姉さん扱いされた!」

「いや、あんた年齢も見た目も普通に立派な大人でしょ? 中身はまだ子供っぽいけど、そろそろボクって言うのも卒業したら?」

「今更私なんて言うのはむず痒いよ、少なくとも今はまだこのままでいいかな」

パルナの隣で配給を行っていたアリスも、まだ年端もいかない幼い少女にはにかんだ笑顔を向けられ、嬉しそうに笑みをこぼす。

「鏡さん、今のボクを見たらなんていうかな?」

「あんた一回見られてるじゃない、ま、あれがそうだったらの話だけど」

「ん? 何の話?」

耳を傾けていたのか、クルルとメリーの間に挟まれて配給を行っていた油機が顔をひょこっと出して聞いてくるが、慌ててアリスが「あ、えと、何でもないよ! 結構昔の話だから!」と言って誤魔化し、事なきをえる。

なんとか上手く誤魔化せたことにアリスは「ふーっ」と溜息を吐いて安堵する。その時ふと、隣で浮かない顔をして配給を行うクルルの姿が目に入った。

「どうしたのクルルさん? そういえばこっちに戻ってからずっと浮かない顔をしてるけど」

「いえ……ようやく会えるかもしれないと希望が見えたのに、こちらからはどうしようもないというのがこんなに辛いなんて思ってもいなかったので……」

クルルの浮かない顔が移ったかのようにアリスも少しだけ表情を暗くする。それは自分も同じだったから。

アリスが表情に出さなかったのは、悩んでいても仕方がない状況なら気持ちを切り替えて行動しろと鏡の傍で学んだからだ。だがそれでも、不安なのはアリスも同じだった。