軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

向き合うこと、それが始まり-19

「お、まさかあんたが見送りに来てくれるとはな」

そこに立っていたのは、この半年間姿を全く見せていなかった魔王だった。

「アリスから文通で知ってな。……アリスとメノウは元気にしているか?」

人間と交流するようになった今でも、変わらず表情で気持ちを表現するのが苦手なのか、キョロキョロと周囲を見回しながらも無表情で二人の姿を魔王は探す。

「今ここにはいないのか?」

「そろそろ休憩時間のはずだから戻ってくるとは思うけど……っと、噂をすれば」

鏡がそう言葉にするとほぼ同じタイミングで休憩室の扉がガチャっと開き、アリスとメノウが休憩室へと顔を出す。すると何食わぬ表情で入ってきた二人はパッと表情をほころばせると、すぐに魔王の傍へと駆け寄った。

「魔王様! お久しぶりでございます! ご足労いただけるとは」

「お父さん!? も、もう身体は大丈夫なの?」

魔王は、不可侵条約が結ばれた後、今まで隠れて過ごさせるだけで面倒を見てこなかった他の魔族達をまとめるために、一度魔王城へと戻り、この半年間雑務をこなしていた。

ひとえに、魔族と人間が揉めずにギリギリのラインで交友が図れているのも、魔王のおかげでもある。

その間、メノウも魔王の傍で働くことを希望したが、鏡の「あ、メノウはディーラーで必要だから頂戴」という一言によりその希望は通らず、カジノで引き続きディーラー生活を送る。

アリスに関しても、今後増えることになる魔王としての激務に面倒を見てあげることが出来ないと、鏡とタカコとメノウ、それとデビッドに任せていた。

そのため、魔王とこうして顔を合わせるのは二人とも半年ぶりである。

「あら? 珍しいのが来てるじゃない」

するとアリスとメノウの後に続いて、露出の多いバニースーツに身を包んだパルナが休憩室に姿を現して第一声にそうつぶやく。

「私からすれば、お前の方が珍しい……むしろ違和感に思えるがな」

「いいのよ。そこの村人の言う通り、まずは歩み寄ることから始めようって考えなおしたんだから。まさか、考えを改めた相手にギャーギャー説教たれるつもり?」

王都での戦いの一件以来、パルナは魔族に歩み寄ろうと努力していた。むしろ、今まで魔族を毛嫌いしていた分、反動で魔族と積極的に交流を図ろうとしていた。

かつて、自分の師匠が目指した世界を実現させるため、自分の過ちを認め、今できる最善を尽くそうと、最も魔族との交流が図れるであろう鏡が経営するカジノで半年間働いていたのだ。

『……あんたにお願いがあるの。私も……きっと何かできることがある。今まで遅れてきた分を取り戻す必要がある。だから……お願い、あなたのところで働かせて。そう簡単に私のことを許せるとは思ってない……でも、だからってこのまま何もしなかったら何も変わらない。必ずあんたに……アリスにも報いる。だから……お願い!』

『じゃあ、バニーガールね』

というパルナの必死さとは裏腹に呆気ない決定が下されたやりとりの元、パルナはカジノでバニーガールとして、ホール内でのサービスを来客者に提供する仕事をしていた。

来客者は人間だけではなく魔族もいる。そして、半年間経った今カジノ内に魔族が客として普通に出入りしているのも、パルナの貢献が大きかった。

人間と魔族の客同士で差別的な揉め事が起きた時でも、パルナが積極的に間に割って入り、決して魔族だからといって差別することなく仲を取り持つ。それ以外にもまるで友人に接するかのような友好的な交流の積み重ねが、今のカジノの光景に至る結果となっている。

「パルナさんもすっかりカジノ生活に馴染みましたね。バニーガールとしても板についてきたって感じです」

ティナは雑誌を両手にジト目でパルナの胸元を見ながらそうつぶやく。

「案外楽しいわよ? 毎日色んなお客も見れるしね」

すると、あえてその胸元を主張するかのようにそう答え返し、ティナは、「うぐぐ……っ」と悔しそうに表情を歪ませる。

パルナのバニーガール姿はヴァルマンの街に訪れた観光客達から圧倒的な支持を受けている。元々スタイルが良いのと自然に表現されるあざとさも相まって、多くの男性客がパルナのためにお金を落としていた。

男性からも女性からもコアなファンが多いアリスとで、派閥争いが起きている程には、人気が高い。

「あ、ほらやっぱり! ね? 鏡ちゃん戻ってきてたでしょ?」

「本当ですな。本日はお早いお戻りだったようで……順調だったようですな」

賑やかになってきた休憩室内に暫くして、デビッドとタカコが続いて姿を見せる。

「魔王ちゃんじゃない。随分久しぶりねぇ」

「魔王……ちゃん」

かつては倒そうと目標にしていた最も恐ろしい相手だったことを忘れたかのように、タカコはそう言うと笑顔を浮かべながらそそくさと休憩室内に用意してあったコップと水筒からお茶を用意し始める。

そしてそれに合わせるようにしてデビッドは、「さあさあこちらへどうぞ」と紳士的な対応ですぐさま休憩室の奥に用意してあった椅子を運んで魔王を座らせる。

デビッドとタカコの関係はこの半年間で全く進展していなかったが、謎の連携力だけが進化を遂げていた。タカコが積極的にアプローチをかけ続けてはいるが、デビッドは巧みにそれを回避し続けている。

毎日のようにタカコはアプローチを回避されないように作戦を考え、デビッドはタカコが次に出る行動を予測しながら回避する方法を考え続けた結果。お互いの考えがある程度わかってしまったからなされている連携力でもあった。

「あれ? タカコちゃんそれなんだ?」

「これ? いつも来てくれている人達からお手紙もらったのよ。主にアリスちゃんとパルナちゃんに宛てたものだけど」

「いわゆるファンレターというやつですな。いやはや、アリス様が受け入れられているようで私も喜ばしい限りでございます」

アリスは、半年前の酒場での一件以来、街の人達に魔族であることがばれて噂が広まっていた。だがそれでも今まで通り受け入れられていた。

というのも、条約が結ばれた効果と、魔族であることが発覚したからといって、何かが変わるわけではないというのが来客者にも伝わったからである。アリスが魔族であることが発覚する前を知っているからこその、受け入れの速さでもあった。

「まーたか、魔王も父親として誇らしいんじゃないか? 自分の娘が大人気」

「ふ……当然の結果だな」

「あんたアリスのことになると表情豊かだよな」

満足そうに笑みを浮かべた魔王に鏡が思わずそうツッコむ。

実際、手紙の内容には度々、魔族という立場でも応援しているといった内容のものが含まれていたりする。

「ほら! やっぱり帰って……ああ! 魔王さんまで! もう……レックスさんがいつまでも動こうとしないからですよ」

「無理を言うな。いくら急いでいても客……それも王家に関係のある令嬢に失礼があってはカジノの評判が悪くなるだろ? 師匠の顔に泥は塗れん」

タカコとデビッドが来てから数分もしないうちに、休憩室まで走って移動してきたのか、慌ただしい様子でレックスとクルルが休憩室内に姿を現す。

二人は今仕事を終えたばかりなのか、普段の冒険者としての服装ではなく、バーテンダーとしての正装を身に纏っていた。